レースは結果がすべて――。チャンピオンシップがポイントによって争われる以上、それは厳然たる事実だ。

 しかし、結果がすべてを語ってくれるわけではない。結果だけを見てすべてを理解することはできない。マクラーレン・ホンダの第9戦・オーストリアGPは12位とリタイアという結果に終わった。しかし、その結果を見るだけでは真実はわからない。


オーストリアGPはアロンソ(左)がリタイア、バンドーン(右)が12位

「今日はエンジンが全然遅い!」

 土曜にマシンをドライブしたフェルナンド・アロンソは、エンジニアに向かってそう言った。フリー走行では「ストレート(の速度)を見たか? 信じられないよ!」と言い、予選Q1では「ターン8の出口からパワーがない。トラブルじゃないのか?」とも言った。

 しかしそれは、前日に走ったスペック3から旧型のスペック2へと戻したがために感じたことだった。アロンソ自身は当初「大した違いはない」と語り、スペック3に大きな期待はしていなかったものの、同じサーキットで比べてみれば、それだけ違いがあったというわけだ。

 一般的に、10kW(約13.6馬力)程度の違いというのは、ドライバーがそう簡単に体感できるものではないという。

「フェアに考えて(ドライバーの感覚としては)違いはわからないと思います。たとえばバルセロナ合同テストで、1周目と2周目でエンジンを換えたりすれば、さすがに『変わったね!』ってすぐわかると思いますけど、違うサーキットで違うエンジンを走らせても、その違いはわからないとは思います」(ホンダ・長谷川祐介F1総責任者)

 金曜の走行後にMGU-H(※)に問題が見つかったため、スペアのパワーユニットに交換せざるを得ず、皮肉なことにアロンソは金曜はスペック3、土曜はスペック2で走行して直接的な比較を体感することになった。その反応が、スペック3の前日に比べて「スペック2の今日は全然遅い」というものだったというわけだ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 予選Q2で7位のロマン・グロージャン(ハース)から12位のアロンソまでは0.283秒差。約0.3秒のタイムアップを果たしたスペック3を積んでいれば、アロンソは余裕を持ってQ3に進むことができたはずだった。

 前戦アゼルバイジャンGPでトラブル対策済みのMGU-Hを投入したにもかかわらず、わずか2戦目のオーストリアでふたたびトラブルに見舞われたことについては、ホンダ内でも動揺が走った。金曜の走行後にマシンを完全に分解してメンテナンスし、夜までにふたたび組み直してエンジンをかけたところ、ターボチャージャーの回転数がスムーズに上がらず、ターボに直結しているMGU-Hの不具合が発覚。急きょスペアパワーユニットへの交換を行なうことになったのだ。

 またしてもターボとつながるシャフトのベアリングに不具合が発生したが、原因はすでに対策を打ったものとは別のところにあった。

「トラブル自体はベアリングのメカニカルな問題で、これまでに起きてきたのと同じですが、原因はオイルの混入にあります。オイルとか水などがターボの中に入るとよくないことはわかっているのですが、昨日の場合はかなりオイルが混入していましたし、今回の問題はイレギュラーなものだと考えています。今までの問題はベアリングのタフネスが足りなかったことが原因でしたが、今回のものはそれとは関係ないと思っています」

 しかし、懸案のMGU-Hがふたたび壊れたことは揺るぎない事実であり、次戦イギリスGPでは換装が必要になって、ふたたびグリッド降格ペナルティを科されることになる。アゼルバイジャンGPで投入したICE(エンジン本体)がギアボックストラブルの際にダメージを負っており、いずれにしてもイギリスGPでは新たなICEを投入しなければならなかっただけに、新たな実害というわけではない。だが、度重なるMGU-Hのトラブルの原因は確実に把握し、今回のような”想定外”を潰し込んでいかなければ、パワーアップのための本丸であるICEのさらなる改良の足を引っ張ることになってしまいかねない。

 一方で、車体開発の面でも不安は垣間見えた。

 レッドブル・リンクに持ち込まれた新型のフロントウイングは、金曜朝のフリー走行でわずかに走っただけで「フィーリングがよくない」と旧型へと戻されてしまった。アゼルバイジャンGPに投入した低ドラッグ仕様フラップと、第6戦・モナコGPから使用してきた従来型のフラップと、それぞれに新型のカスケードウイング(アッパーフラップ)を組み合わせてみたものの、いずれもシミュレーションどおりにうまく機能してくれなかった。


スタート直後にトロロッソに追突され、アロンソのレースは早々に終わった

 その結果、アゼルバイジャンGPのフロントウイングにカナダGP以前のリアウイングという組み合わせで、これを最大ダウンフォースに設定して走るしかなかった。次の大型空力アップデートは第11戦・ハンガリーGPをめどに開発が進められているという。

 それでも2台のマシンは、まずまずの速さを見せた。

 前述のとおり、予選はQ2敗退を喫したとはいえ、3強チーム以外の中団は大接戦で、ハース、フォースインディア、トロロッソ、ルノーは0.1秒で順位が4つも5つも違ってくる混戦だった。

 決勝ではスペック2で臨んだアロンソが、スタート直後のターン1でダニール・クビアト(トロロッソ)に追突されて早々にレースを終えてしまったが、生き残ったスペック3搭載のストフェル・バンドーンのペースは決して悪くなかった。ただ、メルセデスAMGがレッドブルを抜けなかったように、レッドブル・リンクのコース上で抜くことは極めて困難で、スタート直後の混乱に乗じて前に出たルノーの遅いペースに付き合わされてしまったことが大きく響いた。

 バンドーンは青旗無視でドライブスルーペナルティを科されたこともあって12位に終わったが、ポイントを獲る速さとチャンスは十分にあったと語った。

「僕らのペースを見れば、今日はポイントを獲得することが可能だったはずだ。いくつかの遅いクルマの後ろにスタック(立ち往生)してしまったことで、レースはうまくいかなかった。僕らは(ストレートで)オーバーテイクするのは難しいからね。だけど、今週末はどのセッションでもペースがよかったし、僕自身も気持ちよくクルマをドライブすることができた。今日のレース内容にはとても励まされたよ」

 レース中に前がクリアになったときのペースは、6位のグロージャンや7位・8位のフォースインディア勢とも同等だった。予選17位・18位とふるわなかったウイリアムズ勢がスタートで9位・10位にジャンプアップし、そのままの順位でダブル入賞を果たしたことを思えば、最初のポジション取り次第ではバンドーンにもその順位を守り、入賞するチャンスは十分にあったというわけだ。

「一時的には(6位入賞の)グロージャンと同じくらいのペースで走っていましたから、ペースとしては中団で十分に走れる速さがあったと思います。抜くには至りませんでしたけど、クルマ全体のペースとしてはハース、ウイリアムズ、ルノーあたりと互角に戦えていたと思いますし、当然エンジン(スペック3)の効果もあったと思います。

 全部ひっくるめて、チームとして中団に入り込めたという印象はあります。もちろん、ここが我々の目指す場所ではありませんが、あの位置で戦っていると『ちゃんとレースをしているな』という感覚は僕自身もありましたからね。チームとしても、普通に前を向いてレースができたという感覚になれたんだと思います」(長谷川総責任者)

 スペック3を投入したこのオーストリアGPが、ホンダにとって将来の行く末を左右するターニングポイントになるかもしれないと見られていた。

 これまでチーム内に漂っていたホンダに対する厳しい声やギスギスした雰囲気は、明らかに薄らいでいた。依然として目標とする地点への距離はまだまだ遠いが、それでも少しずつ前に進みつつあることをチーム全体として理解し、共有することができたからに他ならない。

 パワーユニット単体で見れば、他3メーカーとの出力差はまだまだ大きい。しかし、スペック3によってわずかでも差が縮まったことも事実だ。そして車体の開発も少しずつ進んで、空気抵抗の大きさという弱点は少しずつ改善されつつある。

「開発はひとつひとつの積み重ねですから、一度にいきなり追いつくなどということはありません。しかし我々は、確実に前進している。これが積み重なっていけば、いずれはトップチームに追いついていけると思っています」

 必ずしも結果だけがすべてではない。結果にこそ表れることはなかったが、将来を占う”ターニングポイント”と位置づけたオーストリアGPを、マクラーレン・ホンダはうまく駆け抜けたようだ。

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