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●昭和に生まれたジャンクな味わい、そのルーツは?

「たません」という食べ物をご存じだろうか。全国のほとんどの人は「何それ?」と首をかしげるかもしれないが、それもそのはず、名古屋とその近郊でしか食べられない、駄菓子屋生まれのB級グルメなのだ。

鉄板で温めたたこせんべい、もしくはえびせんべい(これも愛知県が主産地)に、お好み焼きソースを塗り、目玉焼きを軽くつぶしてせんべいの上にのせ、マヨネーズを塗る。せんべいを割って二つ折りにしたら出来上がり! 近年人気が上昇している背景や、そのルーツ、魅力について紹介しよう。

○昭和30年代の駄菓子屋がルーツ

もともとは、昭和30年代頃の駄菓子屋がルーツと言われる「たません」。パクリとかぶりつくと、パリパリとした食感が小気味良いせんべいとアツアツの目玉焼き、ソースとマヨネーズのまろやかさが口の中で1つになる。お好み焼きをよりチープにしたような、よく言えば素朴な、もっと率直に言えばジャンクな味わいだ。

当時の駄菓子屋では、おでんやお好み焼きなどを調理して提供する店も多かったため、お好み焼きのアレンジのような形でせんべいを使うたませんが生まれたとされている。

名古屋は全国一の駄菓子生産地で、駄菓子屋自体も多い。また、愛知県の西三河地方はえびせんべいのこれまた日本一の産地。地域の産業とゆかりのあるたませんは、生まれるべくして生まれたご当地グルメと言えるだろう。

名古屋一の駄菓子問屋街、西区明道町の「辻商店」で店主の辻信嘉さんを訪ねると、たませんのルーツについて答えてくださった。「笠寺(名古屋市南区)にあった『竹内商店』のご主人が考案したという話を聞いたことがあって、確か本人がテレビの取材を受けたこともあったはず。でも、ずいぶん前にお亡くなりになって、店ももうありません」。

たませんの最盛期は、町内に必ず1軒は駄菓子屋があった昭和30〜40年代で、「当時はせんべいが1週間で2,000枚は売れていたけれど、今は1カ月で1,000枚売れればいい方だね」とのこと。たこせんべいを半世紀以上作っている「牧商店」(愛知県碧南市)の牧全次さんも、「昔は近所にせんべいのメーカーがたくさんあったけれど、今は数えるほど」だと言う。

○普及エリアは名古屋周辺の限られた地域

名古屋とその近郊でしか食べられないとされるたませんだが、どのあたりまで普及しているのだろうか。観光協会や友人・知人に尋ねてみた。

○愛知県

「お祭りの屋台では見かけます。6〜7割の人は分かるのではないでしょうか」(犬山市観光協会)「縁日の夜店で見かけるくらい。地域の食文化として浸透しているという印象はありません」(岡崎市観光協会)「たませんですか? 見たこと無いですね。(他の職員さんに尋ねてみると)屋台ではたまにあるようです」(豊橋観光コンベンション協会)「豊田では見かけませんでした。大学の学祭で初めて知りました」(豊田市出身・40代)「駄菓子屋のおばちゃんが焼いてくれて、週1〜2回通っていました」(名古屋市東区出身・40代)

○愛知県外

「なんとなく聞いたことがある気はしますが、よく知りません」(岐阜観光コンベンション協会)「私が住む四日市では屋台でたまに見ますが、職員の中には知らないという人も」(三重県観光連盟)「せんべいを焼いて挟むやつですよね。お祭りの屋台ではよく見かけます」(伊賀観光協会/三重県)「食べたことあります。昔からあったと思います」(三重県桑名市出身・40代)「知りません。どんな食べ物なんでしょう?」(浜松観光コンベンションビューロー/静岡県)「見たことも聞いたこともありません」(彦根観光協会/滋賀県)「たません? 何ですか、それは」(東日本菓子協同組合/東京都)

愛知県内でも三河地方では認知度が低く、名古屋以北の尾張地方では比較的知られているよう。県外では、三重県にはある程度伝わっているが、それ以外ではほとんど認知されていないようだった。また、県外においては駄菓子屋よりも屋台で見る、という回答が多かった。いずれにしても、名古屋を中心に限られたエリアで広まった食べ物であることは確かなようだ。

さらにその存在は、近年少しずつ見直されつつあるという。次ページでは、バラエティに富んだ魅力あふれるたませんを提供する駄菓子屋や屋台を紹介しよう。

●バラエティ豊か! 魅力あふれるたませんを出す駄菓子屋&屋台の数々

○明太子やピザソース味も「富久屋」

駄菓子屋の減少によって、発祥地の名古屋でも昔ほどポピュラーではなくなってきているたません。このまま失われゆく昭和の思い出となってしまうのか……と思いきや、少しずつ、その存在が見直されつつもある。

「10年くらい前からよく売れるようになっています」と語るのは、昭和34年創業「富久屋」(ふくや・名古屋市西区)の家田登美子さん。きっかけは、チーズや明太子、ピザソースなど、トッピングのバリエーションを増やしたことだそうだ。

店はお好み焼きやたこ焼き、団子などを販売する商店街ではおなじみの手作りおやつ専門店で、今ではたませんが看板商品の1つになっているという。

○隠し味が自慢の「駄菓子屋たま」

新たに駄菓子屋を始めてたませんを売り出した店もある。5年前の2012年にオープンした「駄菓子屋たま」(名古屋市北区)だ。

「父の代から60年近く文具店をやっていたのですが、私がサラリーマンの定年を迎えたのを機に駄菓子屋にしたんです」と店主の玉腰弘一さん。調理を担当するのは妻の里美さんで、「たませんの調理は自己流。名古屋だと、ホットプレートを使って家庭でも作るものだから、そんなに特別なものじゃないんですよ」と言う。

ここでもやはりバリエーションが豊富で、焼き肉のタレを使う"肉玉せん"、チーズやサラミを挟む"ピザせん"、たこ焼きを挟む"たこせん"などがある。また、ある隠し味を使い、他とは違う味の深みも加えている。普段は近くの学校に通う小学生たちがお得意さんだが、週末は懐かしの味を求めて名古屋市外からやってくる人も少なくないという。

○縁日の屋台でも10年ほど前から人気上昇中

たませんは、縁日の屋台でも定番。ここでも近年、人気が上昇中だ。露天商の林幸夫さんが言う。「自分もたませんを食べて育った世代(昭和45年生まれ)だもんで、町の駄菓子屋がなくなってきたのを寂しく思って、10年くらい前から積極的にたませんを売るようになったんだわ。親になって懐かしがって子どもに買ってやる、という同世代のお客さんが多い。子どもたちも一度食べると気に入って、また買いに来てくれるよ」。

名古屋市内の縁日では、屋台50本中、2〜3本(屋台は1本、2本と数えるそう)はたませんを売っていて、市外では70本中1本くらいだというが、徐々に増えつつあるという。

たませんを焼いて4年という「亀山商店」のひろみさんは、「歩きながら食べるものなので、ソースやマヨネーズがこぼれないように、ちょっと控えめに塗るのがコツ」と話す。ここでは天かす、青のりを挟むのが基本で、超スペシャルだとチーズ、ハム、ツナ、コーンもトッピングされる。

チープでレトロ、でも、トッピングなどで進化を遂げ、新たな驚きを見せてくれるたません。正真正銘のB級グルメとして、「名古屋メシ」枠の中に割って入ってくるかも(!?)。これからの夏祭りシーズンでは、たませんを食べられるチャンスも多い。地元の人は懐かしさを、市外県外の人は未体験の味を求めて、パリパリ気軽に食してみよう。

●information

「富久屋」

住所: 名古屋市西区那古野2-13-13

営業時間: 10〜16時

定休日: 日曜日・祝日

アクセス: 名古屋駅より徒歩10分

「駄菓子屋たま」

住所: 名古屋市北区光音寺町野方1918-76

営業時間: 11時半〜18時

定休日: 日曜日

アクセス: 名古屋市バス 福徳町バス停からすぐ

○筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信する。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。著書に『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『名古屋めし』(リベラル社)、『名古屋の商店街』(PHP研究所)、『東海の和菓子名店』(ぴあ中部支局/共著: 森崎美穂子)などがある。Webガイドサイト「オールアバウト」名古屋ガイド。愛知県や名古屋市などの協同プロジェクト、なごやめし普及促進協議会ではアドバイザーを務める。