『動機づけのマネジメント』(プレジデント社刊・横田雅俊著)

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営業幹部の悩みは、何を言っても「パワハラ呼ばわり」されること。かといって「放任して」も文句を言われる。ではどうすればいいか? 連載2回目は、部下が「やらされ感」を感じない手法を紹介する――。

■成果が出ない原因は「やらされ感」にあり

最新の仕組みやツールは用意されているし、人を育てる研修制度も整っている。それなのに、なぜか成果が出ていない――。

営業コンサルティングの現場で、このような悩みを持つ組織を多く見かけるようになってきました。従来型の課題はきちんとクリアしているのに、なぜ成果が出ないのか。それを探るためにヒアリングを重ねて分析をした結果、システムが整っているのに成果が出ていない組織の共通点が見えてきました。それは、現場の士気が低いこと。一人一人が自発性に欠け、「やらされ感」を抱きながら仕事をしているのです。

どうしてやらされ感で仕事をしていると成果が出ないのか。それは人の内面が行動に影響するからです。 一例を挙げましょう。お客さまに何か買ってもらうためには、まず顧客のニーズを探るためのヒアリングが欠かせません。各社ともその重要性に気づいているので、最近はヒアリングシートを用意して、ヒアリングの抜けや漏れが起きないように工夫をしている会社が増えてきました。

ヒアリングシートの項目は必要最低限なもので十分です。お客さまのニーズは一様ではないので、営業担当は基本的な項目を押さえながら臨機応変にヒアリングしていけばいい。ところが、やらされ感で仕事をしている人は、シートにある項目をすべて質問したら合格点と考え、それ以上突っ込んだ話はしません。これでは顧客の真のニーズを探ることはできず、成果も出ないでしょう。

同じ現象はあらゆる組織で起こりえます。研究開発部門のメンバーがやらされ感で研究をしていたら、そこからは予定調和的で驚きのない新製品しか生まれてこないでしょう。また、人事部の採用担当がやらされ感で仕事をしていたら、通常のルーティンでは採用できないような稀有な人材がいても、見逃してしまうに違いありません。

なぜ社員が「やらされ感」で仕事するのか。その原因は、ズバリ、組織や上司にあります。このように指摘すると、「自分はパワハラ上司じゃない。部下に強制したことはない」と反論する人もいるでしょう。しかし、やらされ感は、強制されたときにだけ生まれるものではありません。納得感のないまま仕事をしていたり、頭では必要だとわかっていても心がついてこないときにも生じます。部下を無理やり動かさなくても、上司の言動によって「やりたくないけど、仕方ないからやるか」と思わせてしまったとしたら、上司の責任です。

具体的に上司のどのような言動が部下のやる気をそぐのか。昔からよくあるのが、「根拠のない目標を押しつけられたとき」です。

一般的に、人は目標を持つことでやる気を高めます。目標は、必ずしも自発的なものである必要はありません。人から与えられた目標でも、なぜそこを目指すのかという理由に納得感とやりがいがあれば、その目標に向かって自分を駆り立てていくことができます。

■根拠がない目標が「やらされ感」のもと

しかし、与えられた目標に納得感がないと、目標はやる気を促すどころか、逆にやらされ感を生む原因になります。そのことに気づかず、とにかく目標さえ与えればそこに向かって頑張ってくれると考えている上司が多いのです。

部下が目標に納得感を抱かないのは、どのようなケースでしょうか。 営業組織でいうと、数値目標は本来、市場予測に基づいて戦略的に設定すべきです。ところが、実際は「成長しないとマズいから、前年比で10%くらいにしておこうか」という感覚で目標設定してしまう会社が少なくありません。

予算を拒否することは現実的に困難なので、営業担当たちはひとまず了解します。しかし内心では、「こんな目標は達成できっこない。上は現場のことをわかっていない」と文句を言っているはずです。その結果、目標を目指すフリをしているが、適当に手を抜いているという状況が生まれます。

部下に与えた目標に本気で取り組んでもらいたければ、根拠に基づいて目標を設定して、きちんと説明することが大切です。予算は中間管理職よりもっと上の層が決めることが多いので、上司としても「上から降ってきたものをそのまま下におろしているだけ」と言いたくなるかもしれませんが、上からの指示をそのまま伝えるだけなら中間管理職の存在意義はありません。

なぜその予算になったのかという根拠を把握すべきです。同時に、現場からあがってきた実践的な予測を経営層に伝えて、ギャップを埋める努力をする。最終的に予算が変わらなかったとしても、上司がそうやって汗をかくことで、部下たちの納得感は増すはずです。

やらされ感は、部下に強制的に何かをさせるときだけでなく、放任主義で上司が部下のことに一切かかわらないようにしているときにも生まれます。いま営業の現場で問題になっているのは、むしろ後者です。

上司が部下の指導のためによかれと思って行った言動がパワハラ扱いされて、部下が上司を訴えたり、退職してしまうことがあります。それは上司にとっても本意ではありません。その結果、上司は何か指導すべき場面があっても、「部下がどう受け取るかわからないから、少し様子を見よう」と一歩引いてみるようになりました。いまはパワハラ上司より、部下を遠くから見ている放任上司のほうが多い印象です。

放任によって、部下が安心して働き、高いパフォーマンスを発揮できるようになるなら、問題ありません。ところが、上司が部下と距離を取ることで別の問題が発生します。部下の「自分が困っているのに、助けてくれない」「ノルマだけを与えられて、やり方を教えてくれない」という不満につながっているのです。

■わが子を育てるように部下を育成せよ

いくら放任主義になったといっても、結果まで放任というわけにはいきません。プロセスの指導がなく結果だけを求められると、部下はその仕事をやらされている感覚になります。「上司は無責任だ。自分では何もしないのに、われわれだけ働かせようとする」と考えるわけです。

理想論でいうと、上司はわが子を育てるように部下を育成すべきです。わが子の未来に関して、真剣に考えていない親はいません。その結果、ときには厳しいアドバイスを行うこともありますが、子を傷つけることが目的ではないので、ブレーキがかかるものです。 ところが最近の上司は、一時的に預かった知り合いの子どもに接するときのように、部下と恐る恐る接触しています。厳しいことは言わないし、小さなことでもすぐ褒めて、お客さま扱いです。これでは部下は成長しないし、逆にやらされ感にもつながってしまいます。

パワハラは許される行為ではありませんが、だからといって遠くから離れてマネジメントしていてはチームのためになりません。相手に踏み込みすぎず、かといって離れすぎない、適切な距離感を探るべきです。

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カーナープロダクト代表取締役 横田雅俊(よこた・まさとし)
長野県生まれ。 工学部にて設計を専攻。設計士として活躍。その後、外資系ISO審査機関にて営業職を経験。「最年少」「最短」「最高」記録を更新し、世界8カ国2300人のトップセールスとなる。東京本社マネジャーに就任し、三年で同機関を日本有数のISO審査登録機関(単年登録件数日本No.1)へと急成長させる原動力として活躍。その後、営業に特化したコンサルティングファーム、株式会社カーナープロダクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『営業は感情移入』『諦めない営業』など。近著に『動機づけのマネジメント』(プレジデント社)がある。

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(カーナープロダクト代表取締役 横田 雅俊)