脳損傷で失った学習・記憶力、化学物質ISRIBで回復。受傷数週後のマウスでも効果確認

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者が、ISRIBと呼ばれる薬に外傷性脳損傷(TBI:Traumatic Brain Injury)を負ったマウスの記憶の関する傷害や新規学習に関する傷害を回復させる効果を発見しました。ISRIBと呼ばれるその薬はアルツハイマーやパーキンソン病などに関連するとされる小胞体ストレス応答を阻害する薬品として知られています。

研究者らは水迷路とよばれる、水を張った通路と水面下にわずかに隠れる足場を置いた実験用器具を用意。脳損傷後1か月を経過したマウスにISRIBを投与してこの水迷路に入れたところ、足場をみつける能力が正常なマウスと同じレベルにまで改善することを確認しました。さらに、その能力の改善は投与後約1週間持続することがわかったとのこと。

また、バーンズ迷路と呼ばれるいくつもの穴を開けたように見える円盤(実際の穴=出口は一つだけ)を使い、マウスの空間記憶・学習能力を測る実験でも、脳損傷後2週間からISRIB投与を受けたマウスが正常なマウスと変わらない結果を記録しました。

これらの実験から、脳損傷で記憶力と学習能力という2つの機能を失った場合でもISRIBを使うことで正常なレベルにまでそれらを回復させられることがわかりました。ただいったん損傷を受けた部分が再生しているわけではないため研究によって「脳の記憶回路を修復する未使用領域」が見つかるかもしれないとのこと。また損傷後数週間が立ってからISRIBを投与しても効果が現れる点について「臨床的な面でも非常に扱いやすい」と評価しました。

米国では、衝突や転落などの事故、暴行被害などで年間200万人もの人がTBIの影響を受けているとされます。さらにスポーツや軍の戦闘行為などもTBIの大きな原因となっています。研究者らは「臨床試験にたどり着くまでにまだまだ研究を積み重ねる必要はあるものの、脳性傷害を患った患者がこの薬で『失われた記憶力』を取り戻せるようになることを期待する」としています。

ちなみに、ISRIBは現在Googleが設立したバイオ関連企業Calicoがライセンスしており、Calicoはカリフォルニア大学とともに人間にマウスと同様の効果がでるかを判断するための検証作業を実施しているとのこと。