―マウンティングとは霊長類に見られる、社会的序列の確認と自己顕示のための行為。

東京の女たちは今日も霊長類のごとく、笑顔の裏でマウンティングを繰り広げている。

だが、一部の女は気づき始めた。 マウンティングは、虚像でしかないことを。

果たして、その世界から抜け出した先には、どんな世界が広がっているのだろうか。

東京でそれぞれの価値観で生きる、大手出版社に勤める麻耶(26歳)、港区女子・カリナ(27歳)、マウンティングとは無縁な女・玲奈(26歳)の3人。

麻耶は、彼氏の潤にイノッチからのLINEを目撃された上に、イノッチからは友達扱いされ、玲奈には恋人がいたことが発覚し、落ち込んでいた。




華やかな友人関係に影響される麻耶


今夜は友人達とのお食事会、あすの夜は友人の起業をお祝いする会…と、平日の夜にもかかわらず麻耶の予定はびっしりと詰まっている。

それに来週も杉ちゃんの結婚祝いを兼ねた同窓会、同年代の女性が主宰するイベント、新たな習いごとの体験などが目白押しだ。

「あぁ、忙しい忙しい。」

麻耶は何度もそんな独り言を繰り返す。それは、彼氏にフラれ気の合うデート相手すら失ってしまった麻耶が、毎日をやり過ごすために必要な愚痴だった。

あれ以来、潤からは一向に連絡が来る気配はないし、気のない返事をしてばかりの麻耶に、イノッチからの連絡も最近はなくなった。

そんなことも相まって、ふと時間を持て余していると、友人だけでなく実の姉にさえ嫉妬の気持ちが芽生えてしまうのだ。

そうした状況に嫌気がさし、麻耶はとにかくぽっかりと空いた時間を埋めようと奔走していた。


スケジュール帳をTO DOで埋める麻耶


食事会で遭遇した意外な人物


今夜は、代官山の『アロセリア サル イ アモール』で食事会だ。

杉ちゃんの結婚報告の日に、同じように悔しさを表していた裕子がセッティングしてくれたのである。

潤にフラれたことをLINEで愚痴ったところ、電話までかけてきて慰めてくれた上に、すぐさま食事会の手配までしてくれた裕子。

弱った女友達には優しいのが、女の性質なのかもしれない。

麻耶は遠慮せずそんな性質に甘えることにし、嬉々として1番最初に店にたどり着いた。




ビルの地下へ進むと、明るい雰囲気の気取らないインテリアが目に入る。

年上のお金持ちとはまた違うレストランチョイスに、麻耶の気分は高揚し、懲りずにインスタ用の写真を撮る。

しかし、話題の店や高級店への憧れから、等身大の彼氏に物足りなさを感じ年上の男性に目移りしてしまった自分を思い出し、また少し気分が重くなってしまう。

予約席に座りスマホをいじりながらも、自分のこの移り変わりやすい気分の高低差にも嫌気がさしていた。

「お待たせ!麻耶ちゃんだよね!」

ふと顔を覗き込まれ、目の前に現れたスーツ姿の男性と目が合う。

爽やかな黒髪を適度に崩した髪型に、清潔感のあるスーツの着こなし。好感度の高い青のネクタイ。

初対面の麻耶に気さくに話しかけ、雑談しながら間をもたせる。

翔と名乗るその男の、あまりに爽やかすぎる見た目と女慣れした身のこなしに警戒しながらも、麻耶は少しずつ心を許し始めていた。

「お待たせ〜。」

間延びした声で裕子が登場した。もう1人の幹事の男も続いてやってくる。

今日の裕子はセリーヌのバイカラーのマイクロショッパーを持っている。バッグに目を奪われていると、幹事の男がおもむろに自己紹介を始めた。

「麻耶ちゃんは出版社なんだよね。俺は銀行勤めで、コイツは商社で…。」

「え?商社?どこの?」

別れた潤の顔が頭に浮かび、麻耶は思わず最低限の礼儀も忘れて食いついてしまう。

「表参道にあるところだけど…。」

先ほどまでは気さくに喋っていた翔が、麻耶のことを商社マン目当ての女だと思ったのか怪訝な表情で答える。

しかし嫌な予感の通り、翔はまさに潤と同じ会社の人間だった。まさか同じ会社の同年代の男性と良い雰囲気になれるほど、麻耶は鈍感ではない。

彼に少しだけ抱いていた好意も淡く消え、別れた潤のことが気になるあまり、結局その夜は不完全燃焼な食事会となった。


めげずに奔走する麻耶


から回る、自分探しの旅


食事会は不発に終わったものの、麻耶の自分探しの旅は終わらない。

大手出版社に勤めているとはいえ、花形の部署ではない麻耶は自分のキャリアにそこまでやりがいを見出せず、むしろ劣等感すら感じている。

残業がないのを良いことに、平日の仕事終わりにはありとあらゆる予定を詰め込んだ。

「結婚して子供を育てながら今の会社で働く自分」という予定していたコースから外れてしまった麻耶は、「自分はこれでいいのだろうか」「このままの生き方で良いのだろうか」と自問自答していた。

起業に成功した友人を見れば、自分にも何か出来るかもしれないと頼まれてもいないのに手伝いに行ってみたり、華やかなイベントを手掛ける知り合いがいれば自分から連絡し、何か自分にもやらせて欲しいと頼み込む。

外部の出来事ばかりに気を取られ、仕事以外でもタスクを背負い込んだせいで実家の自室は荒れ、「何者かになりたい願望」が強すぎる麻耶の生活のペースは徐々に乱れていった。

そんな様子は、端から見れば滑稽にうつっていたが、当の本人がそのことに気づく様子はなく、ついに姉に呼び出された麻耶は、耳の痛い小言を聞かされることになる。




インスタ映えのためにと指定した『TRUNK(KITCHEN)』で、グリークヨーグルトのコブサラダをオーダーした麻耶はせわしなく、スマホを手から放そうとしない。

そんな様子を見て、姉のナオミは大袈裟にため息をついた。

「ちょっと、麻耶。最近生活態度が荒れてるんだって?お母さん、文句言ってたわよ。」

図星な指摘をされ、麻耶はムッとする。

確かに家賃も入れずに実家から仕事に通い、部屋は荒れ放題。

色々なことに手を出すあまりストレスがたまり、母に当たり散らすことも多いからだ。

「麻耶さ、家賃も払わず、食べたいものは全部お母さんが作ってくれて、大手企業にきちんとお勤めして、お給料全部お小遣い状態なわけでしょ。そんな生活してて、これ以上何を求めるっていうのよ。一体何がしたいのか、端から見てると全くわからないわよ。」

「別に…何がしたいっていうか…。今のままの自分じゃ不安なの。」

「不安、か…。」

姉は不服そうに顔をしかめているが、もう結婚し子供を持ち、安定した生活を送っている姉からは、自分のいる不安定な世界なんて何もわからないのだろう。

会話が途切れたのでふと目の前のスマホに目をやると、1通のLINEメッセージが来ている。

何とそれは、自分から去ったはずの元彼・潤からのものであった。

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元彼からの連絡に浮きたつ麻耶。今後の展開は?