2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも“友人の紹介”でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、憧れの先輩・奈緒が「いいね!」していた「東カレデート」をダウンロード。プロフィールを変えた桃香に、新たな出会いはあるのか?





―さて、新しいメッセージは来ているかしら?

今日は、聡子と渋谷の『Brasserie VIRON』で、ランチの予定だった。

待ち合わせまで時間があったので、桃香は「東カレデート」を開き、メッセージを確認した。

ダウンロードしたものの、最近あまり使っていなかった「東カレデート」だったが、友人たちのアドバイスにより、プロフィール画面を変更して再開した。

-アプリで出会いを求めるなんて、私には必要ないわ。

少し前まではそう思っていた桃香だったが、周りの友人たちは普通に使っているし、毎日使っているうちにそんな抵抗も薄れてきた。

「いいね!」をしたりバラをもらったり、ゲーム感覚で使えるし、毎日何かしらの反応があって、面白い。

そして、何より。

もしかしたら、これが「東カレデート」を使い続けている一番の理由かもしれないが、まだ出会っていない独身の男性たちが、これだけの数いるのだという安心感があった。

1年前、29歳で元彼のケンと別れてから、桃香は新しい恋になかなか踏み出せなかった。


1年前の彼との別れは、辛すぎた。


3年付き合っていたケンとの別れは、今もまだ思い出したくないほど、大きなダメージだった。広告代理店で営業をしていたケンは、“男の付き合い”が毎日のようにあって、朝方まで飲んでいることもたびたびだった。

一方の桃香は、商社の一般職として規則正しい日々を過ごしていたが、ケンと付き合って3年目の29歳の時、新卒時代からお世話になっていた上司が異動してしまい、仕事へのモチベーションが大きく下がってしまった。

―これを機に退職して、結婚したい。

そう思っていたが、結婚の話を持ち出してものらりくらりと交わされるだけだった。これには、ひどく傷ついた。

ケンカが増え、結果的に2人の気持ちは修復できないくらいに離れていった。

しかし桃香は今でも、「彼以上に好きになれる人なんて、いるのだろうか」と言う気持ちが拭えない。

だからこそ、「東カレデート」でずらっと並んだ男性たちを見ていると、自分が知らないだけで、いい出会いはまだまだ無数にあるのだろう、と思えるのだった。




「それで、いい人はいたの?」

『Brasserie VIRON』のワンプレートランチを2つ頼み、聡子が早速聞いてきた。桃香たちの4人グループでは聡子は唯一、アプリでの出会いに懐疑的だ。

「うん。実は、ちょっといいなって思う人がいて。趣味がね、合いそうなの」

プロフィールを変えた後、桃香には何通かメッセージが届いていたが、その中で一人目を引く男がいたのだ。

その男の名前は雅史で、年は33歳。「料理が好きで、色んなスパイスを使ってカレーを作るのにハマっている」という桃香のプロフィールに合わせたメッセージをくれていた。




その後は、雅史オススメのレストランや、駐在しているときの話で盛り上がった。会社名まではわからなかったが、商社勤務の自分と同じようなバッググラウンドを持つことが、何となく想像できた。

「ふぅん」

アプリにまだ抵抗があるのか、聡子の返事はそっけなかった。桃香は、話題を変えることにした。


聡子からの、意外な誘いとは?


「それより、聡子は最近どうなのよ?明夫くんとは、どうなった?」
「彼とは、特に何もないわよ」

食事会のあと、聡子と明夫は連絡を取り合っていたらしいが、恋愛関係には発展しなかったようだ。

「あ、今度明夫くんの家でバーベキューやるらしいんだけど、桃香もどう?」
「……バーベキュー?いいわよ」

すると聡子は早速その場で明夫に連絡し、約束をとりつけた。




バーベキュー当日。

大人しいタイプだと思っていたので少し意外だったが、明夫は夏場になると自分の住んでいる品川のタワーマンションでバーベキューをするのが、毎年の恒例らしい。

マンションの中庭にあるバーベキューガーデンに着くと、明夫がニコニコしながら出迎えてくれた。自分の家のせいか、ずいぶんリラックスした印象だ。

「桃香さん、お久しぶりです」

スーツのときは冴えない印象だったのに、私服は悪くない。上品なネイビーの麻のシャツに、グレーのパンツ。眼鏡は休日用なのか、縁のところが少しデザインがかったものだ。

「テーブルコーディネートの勉強は、どうなりました?」

最初に会ったときにした話を、明夫はどうやら覚えてくれていたらしい。自分の家のせいか、明夫は以前より生き生きとして見える。

「飲み物、大丈夫?」
「ここらへん焼けちゃったから、食べちゃって」

テキパキと働きながら皆を気遣っている姿は、ずいぶん頼もしく見えた。

用意していた食材をあらかた食べ終えると、明夫の部屋に行って皆で飲んだ。家で飲むのは、普通の飲み会より打ち解けるのが早い。明夫と桃香はリビングのソファに座り、すっかり話しこんでいた。

「桃香ちゃん、彼氏はできたの?」

「桃香さん」から「桃香ちゃん」と、いつの間にか呼び方が変わっている。“冴えない地味な会計士”というのが明夫の印象だったが、今日新たな一面を見て、少し心が揺らいでいる自分に気づく。

「ううん……。明夫くんは?」
「いや、僕も」

次の言葉を待っていると、桃香のスマートフォンが振動した。

スマートフォンの画面上に、「雅史さんからのメッセージが届きました!」と表示された。桃香が今「いいな」と思っている、雅史からのメッセージだ。

その表示が気になってスマートフォンにちらりと目をやると、明夫は「大丈夫?」と聞いてきた。

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