「東の開成、西の灘」と並び称される東日本屈指の難関校・開成。今までは開成を卒業して東大に進むのが典型的なエリートコースでしたが、ハーバード大学やプリンストン大学など、2017年に開成から海外の有名大学に合格した人数がのべ約20名に達したことが話題になりました。アメリカ在住の作家で東大出身の冷泉彰彦さんは、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で「アメリカの大学入学事情」について詳述。開成出身の日本人がアメリカの名門大学で学ぶことがいかに大変か、その現実を明かしています。

開成からの米大学進学者増加について

4月の時点では海外の大学の合格者が21名ということで話題になっていた開成ですが、その後、複数校に合格した卒業生が進学先を決定したことから、重複数が調整されて、全体の数字は7名ということが判明しました。

そうではあるのですが、その内容としては

ハーバード・・・・・・・・・・・1名

プリンストン・・・・・・・・・・2名

シカゴ・・・・・・・・・・・・・2名

ウィリアムズ・カレッジ・・・・・1名

モンタナ州立大・・・・・・・・・1名

ということで、1学年400人という規模の高校としては「なかなか」の戦果であると言えます。21名合格というニュースが流れた時は「開成ショック」と言われましたが、この7名、まあモンタナ州立大に関してはアウトドア志向か何かの進学動機と思われるのでマイナスするとしても、6名がアメリカの名門大学に進学というのは大きなことです。

ですが、この結果に満足してもいけないし、またこの結果によって日本の高校生によるアメリカの「学部レベル」への進学が爆発的に拡大するという風に、楽観することもいけないと思います。以下、留意点を述べます。

まず、PU(プリンストン大学)とシカゴが2名入れたのは、何か意図があると思います。常識的には両方もしくは1名が「非帰国子女」つまり「純ジャパ」であって、学園生活でのサバイバルが難しいかもしれない、だから2名同窓の学生を入れて助け合わせるようにするという「配慮」です。

ですが、1学年1500名前後の中規模校で、そんな余裕のある採用はしないとも思われます。であれば、1名は帰国子女、1名は純ジャパにして隔離して様子を見てその後の成長を測るという可能性もあります。あるいは、2名入れることで、内申書の信憑性を見ているということも考えられます。

こうした点を考えると、入学後に進学者が取るべき行動は自ずと決まってきます。それは、「歯を食いしばってでも優秀な成績を取る」ということです。そうでないと、この「2名枠」は消滅する可能性があるし、反対に2名とも優秀な成績を収めれば、枠は定着するかもしれません。

ハーバードの1名も同様です。ハーバードは多様性と柔軟性の確保が、組織の活力を維持するという信念が非常に強い教育機関です。ですから、ようやく日本からの進学熱に火が着いたのを見て「日本最高水準のプレップスクール」である開成の卒業生を「お試し」で入れた可能性があります。ですから、PUとシカゴと同様に絶対に優秀な成績を収めて行くことが肝要です。

とにかく、アメリカの大学入試は「入学は手段に過ぎない」という強烈な思想で貫かれており、仮にも早期のドロップアウトを出してしまうと、「今後」に響くということを警戒した方が良いと思います。尚、PUの場合は、昔からサイエンスの各学科の教授陣は「最初の秋は甘く優しい」コース設定をするものの、年明けの「春になると各コースでは地獄を用意する」ということを「心がけて」いるそうですから、特に警戒が必要です。

もう一つの問題は内申書です。開成学園は、他校とのノウハウ交換で出願体制を整えたというようなことを公表していましたが、この内申書は、本当に手間ヒマかけて作ったのか、もう一度検証が必要です。というのは、「日本で有名な開成」の学生を「試しに取ってみよう」という判断があったのであれば、内申書の審査も甘めに見られていた可能性が否定出来ないからです。

各科目について、本人には厳秘とする中で、

各科目、例えば数学3であれば、範囲と難易度を分かりやすく記述しているか?各教科の成績について、どのようなルールで表示しているのか? 1から10なら、どちらが優良であって、単位認定は何点以上なのか?各教科の配当時数、学期の期間、試験の頻度と最終成績の算出計算式などを明示しているか?

というような客観基準を誤解のない英語で記述することが必要で、仮に現状が不充分であるのであれば、次年度へ向けて改良が必要でしょう。

後は、推薦状です。複数合格しているということは、もしかしたら同じ進学指導教諭や管理職の名前の推薦状が行っているのかもしれません。同じような内容を出していて、その両名に著しい違いがあるようだと、以降はその推薦者の推薦状は「信憑性に欠ける」という目で見られる危険性があります。

入った生徒にはひたすら好成績を目指してもらえばいいのですが、形式的な推薦状、複数の事例を比較検討されると「判で押した」ような作り方が露見するような推薦状であった場合は、次年度以降はパターンを変えて行く必要があるかもしれません。

いずれにしても、この「ショック」を受けて全国の、特に地方公立の勉強熱心な学校が海外進学への準備を開始して行くのであれば、とても良いことだと思います。

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『冷泉彰彦のプリンストン通信』

著者/冷泉彰彦(記事一覧/メルマガ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1〜第4火曜日配信。

出典元:まぐまぐニュース!