【恋する歌舞伎】第24回:火事と悪事を鎮火する男の中の男たち。極悪按摩は逃げ切れるのか!?

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回は、七月歌舞伎座で上演中の『加賀鳶(かがとび)』に注目します!

◆【1】火消し同士、一色触発!そこを止めたのは勇ましい2人のリーダー。


先日湯島天神の境内で、定火消と大名火消・「加賀鳶」(※1)との間で大きな喧嘩があった。
それから数日後の今日、決着をつけようと加賀鳶の面々が今にも敵方へ飛びかかろうと勢揃いし、名乗りを上げている。
そこへ止めに入ったのは加賀鳶の頭・梅吉(うめきち)。
もしこの先を進むのなら、自分を殺してから行けと座り込む。
更に兄貴分の松蔵(まつぞう)も加勢するので、加賀鳶の若い者たちは引き上げていく。

所変わってここは日の暮れたお茶の水。
百姓の太次右衛門は所用で江戸にやってきたのだが、急に腰が痛み出し土手際に座り込んでいた。
そこへ運良く按摩(あんま)が通ったので、地獄で仏と腰をさすってもらうことにする。
しかし親切そうに見えたこの按摩の正体は道玄(どうげん)というかなりのワル。
太次右衛門が大金を持っていると知ると、殺した上で金を奪う事に成功し、喜んで帰っていく。
偶然通りかかった加賀鳶の松蔵が、道玄の落とした煙草入れを拾うのも知らずに…。

※1江戸では頻繁に家事が起こるので、その対策として、定火消(武家の屋敷を守る組織)・大名火消(幕府の要所を守る組織)・町火消(町家を守る火消)が置かれた。「加賀鳶」とは加賀藩前田家お抱えの火消の俗称。

◆【2】妻より姪より大事なのは金・金・金!


道玄が住むのは、本郷にある盲長屋(めくらながや)と呼ばれる按摩たちが住む長屋の一角。
道玄の女房・おせつは、按摩仲間のお兼(かね)の世話で道玄と夫婦になったのだが、日頃から道玄から暴力を受けるなどひどい仕打ちを受けていた。
そこに訪ねてきたのは姪のお朝(あさ)。
奉公に出ている伊勢屋の主人におせつの窮状を話したところ、不憫に思った旦那から金を貰ったと話す。
お金は有難いものの、もしやお朝が盗んだのではと心配になったおせつは伊勢屋へ事情を聞きに行く。

しかしこの様子、道玄が門口でこっそり聞いており、このことを利用した悪巧みを考えていた。
それは「器量の良いお朝は、毎日伊勢屋の主人の肩もみをしていると見せかけ、不義をして金をもらっている」という話をでっち上げ、伊勢屋を強請ろうというものだ。
ちょうどそこへ、実は道玄と訳ありの女按摩・お兼もやってくる。
道玄とグルのお兼は、強引にお朝に主人との仲を認めさせ、「不義をした罪滅ぼしに家出した」という事にし、お朝を廓に売る手はずを整える。
更にお朝が書いたという偽の書き置きを用意し、それを証拠に伊勢屋から金をせしめる計画を実行に移すのだった。

◆【3】金儲けのためのシナリオは見破られ、更に弱味をちらつかせられ…


道玄とお兼は、お朝の親戚だといい伊勢屋を訪ね、主人を呼び出す。
はじめはしおらしく振る舞うが、『桂川』のお半・長兵衛を引き合いに出し(※2)、年の離れた主人が、年端もいかない姪っ子を傷物にしたのだから百両を出せと脅す。
主人は全く覚えがないので、証拠があるのかというと、お兼が例の手紙を出す。
そこにはお朝の手で「伊勢屋の旦那と関係を持ったことを後悔し、世間に顔向けができないので家出をする」と書かれているというのだ。
主人は「誰が書いたかわからないではないか」と金を出さないので、道玄たちは店先で寝転び出し、営業妨害をする。
番頭が仲立ちとなり、五十両の金子で話がまとまりかけるが、そこへ登場したのが松蔵。証拠とやらの手紙と、お朝の手習いの清書とを照らし合わせ、明らかに筆跡が違っていることを指摘する。
更に煙草入れを見せられ、太次右衛門殺しの件をほのめかされ形勢は逆転。手も足も出ない道玄とお兼はとうとう引き下がるのだった。

(※2)『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)帯屋』14歳の娘と中年男が一夜の過ちから、最終的に心中を図るまでを描いた浄瑠璃のこと。恋する歌舞伎第20回でも紹介

◆【4】尻尾を掴まれたのは意外なところから。悪事もここに極まれり!


百両を取り損なった道玄は、腹癒せに妻のおせつを折檻した挙句、隣でお兼とやけ酒を飲んでいる。
そこへやってきたのは家主の喜兵衛。
道玄の物と思われる着物の布を、犬がくわえて持ってきたので話を聞きにきたという。
しかもその布には血痕が付いているので、役所へ訴え出ようというのだ。
この布子は、まさに太次右衛門を手にかけた日に着ていた物。
返り血を浴びたために、縁の下に隠していたのだが、犬が掘り起こしてしまったのだ。
喜兵衛は玄関口で縛られているおせつに「このままでは殺される」と助けを求められ、話を聞くために連れて出て行く。
悪事を重ねた道玄は、すべて露見する前に急いで逃げようとする。
暗闇の中、お兼が捕らえられた隙をついて、うまく逃げ果せようとした道玄であったが、待ち受けていた捕手に捕まり、遂には降参をするのだった。

◆『盲長屋梅加賀鳶(めくらながやうめがかがとび)』

明治十七年三月千歳座(明治座)初演。河竹黙阿弥作。原作は七幕の長編。実際に仲の悪かった、加賀鳶と町火消との騒動を題材に書き下ろした作品。「火事と喧嘩は江戸の花」といわれた当時の風俗が色濃く描かれている。頼れるリーダー・梅吉と、どうしようもない按摩坊主の道玄を同じ俳優が演じる分けるのも見どころ。

(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)