世界的に抗生物質の多用は問題になっているが

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世界保健機関(WHO)は2017年7月7日、最新の調査結果から、世界77か国で抗生物質に耐性を持つ「淋菌感染症(淋病)」の原因菌「淋菌」が出現しつつあると発表した。

このまま耐性菌の数が増加し続けた場合、既存の抗生物質では淋病の治療が不可能になるかもしれず、耐性菌の監視を強化するとともに各国で新薬の開発にも取り組むべきだと警鐘を鳴らしている。

治療に使う抗生物質は限られている

淋病の感染ルートは主に性行為だが、淋菌に感染している部位が接触することで人から人へと感染するため、オーラルセックスなどでも感染する可能性はある。

東京都感染症情報センターのウェブサイトに掲載されている淋病の解説では、手から手や、淋菌に汚染されたタオルを使用したことによる感染が疑われる例もあるという。女性が感染している場合、分娩時に産道を通った子どもが母子感染することもあるようだ。

感染すると男性は尿道や前立腺、陰嚢の炎症が、女性は尿道や子宮頚管の炎症などが起きる。炎症が痛みになることもあるが、国立感染症研究所のサイトでは男性は女性に比べると自覚症状が乏しく、受診せずに放置してしまうこともあるとされている。

治療には抗生物質が有効で、世界的に使用されているのが「アジスロマイシン」「スペクチノマイシン」という内服薬と「セフトリアキソン」という注射薬だ。日本性感染症学会の淋病治療ガイドラインでも、セフトリアキソンかスペクチノマイシンを投与することが推奨されている。

しかし、WHOによると2009年から2014年までの調査で、米国や英国、日本、スペイン、フランスを含む77か国のうち81%でアジスロマイシンやスペクチノマイシンへの耐性を、66%でセフトリアキソンへの耐性を持つ淋菌の存在が報告されたという。

日本でも2009年に京都でセフトリアキソンに耐性を持つ淋菌が発見され、「スーパー淋病」などと話題になったことがあった。2010年には国立感染症研究所が経過調査を行ったが、耐性菌の拡散は確認されなかったとサイト上で報告されている。

日本では淋病は感染症法で「五類感染症」として定点観察対象となっており、耐性菌の出現状況なども全国で調査されている。感染研や各地の保健所の報告を確認したところ、スペクチノマイシンに弱い耐性を持つ淋菌は確認されることもあるが、現在までに耐性菌の流行や、抗生物質で治療ができなくなるといった事態は起きていない。

J-CASTヘルスケアの取材に対し、近畿地方のある保健所は匿名を条件に、「(京都での)耐性菌の確認以降、耐性菌が流行していないか監視を続けている」と話したうえで、こう続けた。

「耐性菌は同じ抗生物質を使い続けることでどうしても出現するもので、淋病のように有効な治療薬が抗生物質に限られるような病気では耐性菌の出現を完全に防ぐことは、長い目で見れば不可能かもしれません」

淋病も、過去に効果があったものの現在では耐性菌が増え、使われなくなった抗生物質があり、耐性菌の進化や出現を遅らせるためにも治療の選択肢をいくつか用意し、同じ抗生物質を使い続けることを避けねばならないという。

「新薬の開発は必要だと思いますが、まずは徹底した監視と調査。それに濫用せず上手に抗生物質を利用するよう医療機関にも求めています」

予防するには手段はひとつ

WHOが憂慮しているのは単に耐性菌の出現だけではない。WHOのデータは医療の整った先進国からのデータのみで、世界の淋病患者およそ7800万人の大半がいるとされるアフリカ諸国や東南アジア、南米諸国の途上国の耐性菌関連データが存在しないのだ。

耐性菌のチェックが不十分で、効果のなくなってしまった抗生物質をこれらの国で使い続けているとすれば、治療できないまま淋病のパンデミックが起きてしまう可能性もゼロではない。そのためWHOは効果が確認されている複数の抗生物質を世界各国に供給するとともに、新薬の開発にも積極的に取り組むよう呼びかけている。

淋菌にはワクチンが存在しないため、唯一ともいえる予防法はセーフティーセックス。つまり、不特定多数との性的接触を避け、性行為やオーラルセックスなどを含む性交類似行為の際にはコンドームを使用するしかない。免疫を獲得することがないため何度でも感染する可能性もあり、セーフティーセックスの徹底が重要だ。