txt:井上晃 構成:編集部

Blackmagic Design ATEMシリーズに一体型スイッチャーが登場

本年3月に簡易なコントロールパネルを備えてリニューアルしたATEM Television Studio HDのレビューを執筆したが、その1ヶ月後の4月に開催されたNAB Show 2017において、ATEM Television Studio HDの機能はそのままに、本格的なコンソール式のコントロールパネルを備えた「ATEM Television Studio Pro HD」が発表され、同年5月末には国内でも発売された。今回は、この新しいコンソールと合体して一体型のスイッチャーとなったATEM Television Studio Pro HDをご紹介しよう。

本機の概要

Blackmagic Design ATEMシリーズスイッチャーは、本体から物理的なスイッチ類を省き、コントロール用のサーフェイスは外部に用意するというのが基本的なコンセプトの、ライブプロダクション用スイッチャーだ。Blackmagic Designでも従来モデル用としてはATEM 1 M/E Broadcast PanelやATEM 2 M/E Broadcast Panelなどの純正ハードウェアパネルが別途用意されていた。

スイッチャー本体は、ATEM 1 M/Eなどの初代機発売後、4Kモデルなど新機種が発売されるたびに、本体にカラーLCDパネルやAux操作ボタンなどが追加されていったが、今年発売されたATEM Television Studio HDでは、とうとう本格的なオペレーションが可能なフロントパネルを装備した。

ATEM Television Studio Pro HDは、このATEM Television Studio HDの機能はそのままに、スイッチャーの機能だけでなく外部カメラのコントロールやオーディオのコントロール機能、そしてトークバックのコントロール機能まで備えた新型のコンソール式コントロールパネルを本体と一体化し、電源オンだけでフル機能を容易に操れるスイッチャーとなった。

Blackmagic Designとしても、このようなコントロールパネル一体型の本格的なスイッチャーは初であり、様々な現場に適応できるであろう本機を、この新しいコントロールパネルの機能を中心に解説していこう。

基本性能

幅423mm×奥行き302mm(高さ不明)、重量4.2kgのボディは程良くズシッとした重量であり、操作で動いたりすることもなく、また運搬も容易な重量だ。パネル表面は金属パネルであり、剛性も高くスイッチ操作でたわんだりすることもない。そこに自発光式のボタンがなんと大小取り混ぜて155個も並び、それに加えて14本のロータリーノブ、1個のトラックボール、1個のロータリーエンコーダー、そして1個のLCDパネル、1本のトランジションスライダーを装備する姿はゴージャスで、正しくPro仕様と言える。

パネルの背部には端子類が並んでいるが、前作のATEM Television Studio HDと同じ配置であることに気が付くと、ATEM Television Studio Pro HD はTelevision Studio HDは兄弟モデルであることが容易に読み取れる。なのでスイッチャーとしての機能としては、Television Studio HDとまったく変わらず、HDMI+HD SDI合わせて8入力、アップストリームキーヤー1系統、ダウンストリームキーヤー2系統、2DのDVEプロセッサー内蔵という点を含めて全てが共通であり、機能的な差異はない。

そこで本機については基本機能の詳細は割愛し、パネルの機能に絞って紹介したい。基本機能の詳細については、ATEM Television Studio HDのレビュー記事を参照して欲しい。

コントロールパネル下段

コントールパネルには大小様々なボタンやノブ類が配置されているが、それぞれ機能毎にセクションとして配置されている。その機能をセクション毎に俯瞰してみよう。

メインとなるのは1〜8までの番号が振られた白色ボタンのプログラムおよびプレビューボタンだ。M/Eスタイルでのスイッチングでは、上段は選択したボタンが赤く発光しプログラム列のスイッチングを、そして下段は選択すれば緑色に発光し、プレビュー列をスイッチングする。それぞれシフトボタンを押しながらスイッチングすると、ボタン面に記載された上段シフトソースが選択され、ボタンは点滅して発光する。ボタンの押し心地はクリック感には乏しいものの、確実な感触で良好だ。ちなみにシフトソースは対応するボタンを2回押すことでも選択できる。

その上にある細かいスイッチは各キーヤーやDVEなどのソースやフィルをダイレクトに切り替えるボタンとなる。切り替えたい機能を選択し(赤く点灯する)ビデオソースならその下の1〜8を押すとダイレクトに切り替わる。これを使うと、PnPのワイプ内のソースを一発で切り替えるなどの操作が可能だ。

マクロの呼び出しもここで行うので、使いこなすと有益なボタン群であると思う。この黒いボタン群はどれも、押すとコクッという感触だ。押す感覚自体もそれほど軽いものではなく、押すのにそれなりの力を要することから誤操作も少なそうだが、タッチパネルのように軽々とした操作感ではない。このあたりの感触は是非実機を触って感触を確かめて頂きたい。

その右隣りは、1系統のアップストリームキーヤーと2つのダウンストリームキーヤーの操作ボタンだ。その間にはフェーダー式のトランジションスライダーが1本並ぶ。

通常マニュアルトランジションを操作する装置としてはTバーが一般的だが、コストの関係かスライダーとなっている。ただ操作感としてはスライダーでもTバーでもそれほど大きな違いはなさそうだ。スライダーの感触もトルク感のあるしっかりとした感触で、ゆっくりとした操作でも心地良い。運搬時にひっかる部分がないという良さもあり、コンパクトに収めたいというユーザーには最適だろう。

このセクションの右端には、DVE PnPの専用ボタンが1〜4までの4個設けられている。4個のボタンに対応して左上、左下、右上、右下と、決められたサイズと位置ではあるが、固定されたパターンのDVE PnPがワンタッチで呼び出し可能だ。ここからメニュー設定に入ることで微調整も可能なので、現場セッティングの時間短縮に役立つボタンであると思う。

コントロールパネル中段

中段のセクションは、左側がオーディオコントロールのセクション、中央部がトランジションの設定セクション、右端がテンキーとなる。左側のオーディオコントロールのセクションは、Television Studio HDで備えられた全8チャンネル独立のOn/Off、AFVボタン、4セグメントのレベルメーターといった機能はほぼ同様だが、各チャンネル毎にレベル調整用のロータリーノブを備えたところが新しい。これによってより直感的に各チャンネルのオーディオ調整が容易になった。

中段、中央部はトランジションの設定ボタンだ。MIX、DIPといった基本トランジションだけでなく、WIPEのパターン、DVEのパターン2種(プッシュとスクイーズ)の設定をパネル上に展開したものだ。この展開によってほぼすべてのトランジションが、ワンタッチで選択可能になったのは評価できる。

ただボタンのデザインが微妙なのと、区切りがないので、ゴチャっとした印象を受けてしまうのが残念だ。特に角へと向かうWIPEのパターンボタンはイマイチ直感的なデザインではないことと、配置の合理性に欠けると感じる所が惜しい。パターンの塊毎の区切り線がある程度でも、だいぶ視認性が上がるので、ここはユーザー側の工夫が必要かもしれない。

中段右端に備わるのは汎用のテンキーパッドだ。公式マニュアルでこのボタンは「将来的なアップデートで使用可能になる」とあったが、現状でも数値入力が必要なパラメーターなどでは、直接数値の入力が可能となっている。

コントロールパネル上段

コントロールパネル上段は本機のもっとも特長的なセクションであると言えよう。左端からトークバックコントロールと共に中央に向かって、カメラコントロールセクションのボタンやトラックボールが並び、そして右端にはTelevision Studio HDでお馴染みとなった、LCDディスプレイ、メニュー調整用のロータリーエンコーダーなどが用意されている。

このトークバックとそして次に解説するカメラコントロールは、本機から送り返されるSDIリターン信号にコントロール信号がエンベッドされてコントロールが可能となっているため、対応型の同社製StudioカメラなどをSDI入出力2本を接続するだけで利用が可能となる。まず左端のトークバックコントロールでは、上記の相互通話が可能な外部カメラ4台との直接通話を可能とする、DIRECT TALKボタン5〜8が設けられた。

そしてカメラコントロールノブ、ボタン、トラックボールは、対応するカメラをダイレクトに操作することが可能であり、さらに互換性のあるレンズを使用している場合には、本機のパネルの各コントロールを使用して、アイリス、フォーカス、ズーム、そしてカラーコレクションなどを素早く操作することが可能だ。

今回の評価では、Blackmagic Studio CameraとBlackmagic Micro Studio Camera 4Kなど複数のカメラをお借りして評価を行ったが、各カメラのコントロール番号設定を確実に行えば、あっさりと本機でのコントロールが可能となった。各コントロールノブ、ボタン、トラックボールの効き具合は適切と言えるもので、回した感覚にあった変化は感じられ、敏感過ぎることもなく操作感に合ったセッティングが可能であった。これにより、各カメラのセッティングは本当に楽になるなと実感し、本機とセットで対応型のカメラを購入することは「アリだな」と感じた。

ただ残念なことに、コントロールしたカメラがどのようなパラメータになったのかを、本機では知ることができない。ソフトコントロールパネルではパラメータの確認ができるので、現状ではそれらとの併用が現実的だ。また実は本機のカメラコントール機能は、同社製の対応カメラだけでなく、VISCAプロトコルのPTZカメラやリモートヘッドのコントロールも可能である。接続するためのRS-422端子も用意されている。

DaVinci Resolve譲りのプライマリーカラーコレクターは、従来のビデオ製作用カメラのCCUによるカメラコントロールとはだいぶ異なるが「Lift」「Gamma」「Gain」と言った基本的な調整範囲と、トラックボールの回転方向がどの色域へ向かうのかを理解すれば、それほど難しいものではない。この機会にマスターを試みるのも良い学習であると思うので、挑戦してみてはいかがだろうか。

そして同レビューの最後は、本機の上段右端に配置されたATEM Television Studio HDでもお馴染みの、LCDディスプレイ、メニュー調整用のロータリーエンコーダーだ。内蔵されるメニューおよび設定項目も同等のものとなっている。

総評

コンソールにずらりと並べられたボタン、ノブ、トラックボールは、さすがメーカー純正と言った操作性の向上をもたらした。特にオーディオのコントロールは「各チャンネルの音声をもっと利用しようよ」というメーカーからのメッセージでもあるかのように聞こえる。

またスイッチャーのコンソールから直接カメラをコントロールできるような仕組みは、スタッフが少ない小規模のスタジオや、出先の現場などではとても重宝する。今回は紹介を省いたが、スタッフとコミュニケーションの充実が図れるトークバック機能も健在だ。

今回の評価では、同社のHypeDeck Studio Miniもお借りして本機に登録したところ、自動再生(ポン出し)などの機能が問題なく動作することを確認したことも報告しておきたい。ただ機器の登録はソフトウェアコントロールパネルからのみ可能であり、本機単体では登録ができない点は惜しい。一度登録してしまえば本機のみで操作可能になるので、もう一歩だ。

このように盤石とも思えるATEM Television Studio Pro HDでも、すべてが完璧というわけではない。マクロの設定登録、DVEの一部設定、各種パラメーターの本体への保存、メディアプールへの登録、HyperDeckなど外部メディアプレーヤーの登録など、相変わらずソフトウェアコントロールパネルに依存している部分は、まだまだある。ただこういったことは、今後ファームウェアのバージョンアップなどで、徐々に解決に向かうのではないかと期待感はある。

聞くところによると、本機が開発された背景には従来のハードウェアコントロールパネルのリニューアルという意味もあると聞く。本機の価格は税抜価格で260,800円と相変わらずブロックバスターだ。ここからATEM Television Studio HDの税別113,800円を差し引くと147,000円。180点余りのボタン・ノブ類を備えたこのコンソールが、この価格ということになる。

これに近い価格で1M/Eや2M/Eでも使える、新型のハードウェアコントロールパネルの登場とか、もしくはズバリ、コンソール一体型モデルを拡充して、本機の1M/Eバージョンという期待も高まる。ATEMシリーズの今後は相変わらず目が離せそうにない。今後の展開に期待したい。