新卒採用市場では依然、学生優位の売り手市場が続いている。内定者の辞退に頭を悩ませる企業も少なくはない。中には、親が反対しているという理由で内定を辞退する学生も多いという。

そうした中、IT企業のベーシック(東京都千代田区)は「家庭訪問」として、採用責任者である人事部長が内定者と家族に面談を行っている。内定者から「内定先がベンチャー企業であることに親が不安を持っている」という悩みを聞いたことがきっかけで2015年から実施。いままで10数家族と面談している。

ベンチャー企業で働く魅力を説明「本人の悩みを活かして働ける」

"家庭訪問"は内定者の実家や近くの喫茶店、ホテルのラウンジなどで行われる。国内では関西以西が多く、遠いところではベトナムへも足を運ぶという。

同社広報担当は「以前からベトナム出身のエンジニアを多く採用していた」といい、

「ベトナムでは企業と内定者の家族が一緒に食事するという風土があるんです。異国である日本に就職すること自体不安でしょう。子どもの就職先について心配するのは日本も同じですよね。そう考え"家庭訪問"と称した面談を行うことにしました」(ベーシック人事部長)

と話す。

ベトナムでは会社の説明だけでなく、日本での生活費と自社の給与水準などを伝える。「この会社なら大丈夫」と安心してもらうことに注力しているようだ。一方、日本では"ベンチャー企業への就職"に家族の理解を得るため、「大手企業に入社しても必ずしも終身雇用が約束されているわけではない」という現状も伝えるという。

「内定者を採用した理由や評価している点も伝え、当社なら本人の強みを活かして働けること、変動する社会を生き抜く力を身けられる説明します。中には、納得してお子さんに『この会社でがんばれよ!』と応援する親御さんもいらっしゃいます」(ベーシック人事部長)

この家庭訪問、内定者からも評判がいいという。同担当者は、

「一概に"家庭訪問"だけのおかげ、とは言い切れませんが、実施以降は内定受諾後の辞退はありません。会社に対しても愛着がわいたようです」(ベーシック人事部長)

と話していた。

企業も親に説明責任を果たさなければいけない時代

最近は、企業が内定者の親に入社の確認をすることを「オヤカク」と呼ぶ。人材支援を行う都内の企業の営業担当者よると「ここ2〜3年で『親に確認したか』と聞く"オヤカク"の必要性を感じている企業は増えています」と話す。

就活開始当初、親は『好きな会社に行きなさい』といいます。しかしバブルを経験している今の親世代からすると、未だに大手は終身雇用で安定していると思っている人も多いです。子どもの口から『ベンチャー企業に入社する』と聞くと心配して反対するのだと考えられます」(人材支援会社広報)

そのため、最近は内定辞退のピークがお盆に来るという。内定後、お盆に実家に帰った際に、親に「そんなところ辞めなさい」と言われて辞退するのだそうだ。

同担当者は"家庭訪問"については次のように話していた。

「企業として説明責任を果たすためには素晴らしいと思います。内定者としても親に『いままでありがとう、今後こんな会社で働きます』という意志を伝えられます。ただ近年の就活事情を見ていると『親子間の距離が近すぎるんじゃないかな?』とも思います。学生が適度な距離を築けない限り、今後も"オヤカク"はなくならないでしょうね」(人材支援会社広報)