指示を飛ばして守備を引き締められる丹羽の特長は、広島でも生きるはずだ。写真:中野香代(紫熊倶楽部)

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 森保一監督の退任を受けた横浜との戦いでも、失点してしまった。
 
 今季、完封できた試合はわずか2試合。昨年、18試合終了時点で7試合もあったクリーンシートが、今年は激減している。今年の1失点試合は、これで8試合目。0-1での敗戦がすべて0-0であれば5ポイントが上積みされ、札幌と並び、得失点差で上回って残留圏にしがみつけることになる。無失点の試合が増えれば増えるほど攻撃にも余裕が生まれ、0-0が1-0に、1-1が2-1になっていくのも、サッカーの流れだ。
 
 広島は得点力が不足。それが今季の低迷の要因であることは否定しない。だが、例えば2013年の優勝の時、広島の得点力は1.50/平均でリーグ8位という水準だった。それでも優勝できたのは、0.85失点/平均というリーグナンバー1の守備が存在したからだ。「良い守りから良い攻撃」という森保一前監督の指摘は、正しい。そして良い守りとは、90分間しっかりと集中して得点を許さないという結果を積み重ねてこそ。
 
 今季の失点を振り返れば、集中を欠いたスキをつかれたものが多く、組織が大きく崩されたという印象には乏しい。G大阪を相手に今季初勝利をつかんだ直後の横浜戦、開始4分でセットプレーのマークを外しての失点は、その典型だ。有効な声がその時、飛び交っていたのか。なんとなく、フワッと入っていたのではなかったか。最も危険な中澤佑二をフリーにしてしまった事実が、その時の状況を容易に示してしまう。
 
 7月8日に行われた横浜戦での失点場面は、齋藤学という最も危険なタレントをフリーにしてしまったことから。広島の攻撃時、横浜でもっとも危険なタレントが中途半端な位置で攻め残りしている状況下で、彼をどう管理するのか。そういう意味での守備の組織化を90分間通してできなかったことが、失点の要因である。
 
 丹羽大輝がいたら。そう考えてみた。

 彼は強い言葉を発して選手たちの目を覚ますことができる。ヒートアップしたゲームの中でも冷静にチームの状況を把握し、コーチングで選手を動かせる。こういう仕事は中盤の森粼和幸もできるが、最終ラインにいる選手のほうがより広範囲で状況を確認できる。千葉和彦もできるが、現在の戦績に責任を強く感じている彼は、自分のプレーで精一杯のように見える。丹羽がいれば、横浜戦でも鋭いコーチングで危機管理を組織化できたかもしれない。
 決して身体能力が高いわけでもない。足下の技術が精緻なわけでもない。だが、それでもG大阪の最終ラインを司り、2014年の3冠をはじめ、タイトル奪取に貢献して日本代表にも選出された実力は「自分のスタイルは、なかなか(周りに)伝わりにくいが、よく見ていたら仕事をしている」という彼自身の言葉に集約されていよう。ボールがない場所でも力を発揮できる頭脳と冷静さは、残留争いの渦中で熱くなりがちな広島に必要な個性だ。
 
 ただ、丹羽は決して「クール」ではない。「生きるか死ぬかという戦いの中で、チームにも広島の街をも明るくしてくれる存在」と足立修強化部長はその個性を称賛する。
 
 例えば、大阪と広島の間で静かに存在する「お好み焼き問題」。大阪生まれの彼は当然大阪派かと思いきや「実家でもこちら(広島)側のお好み焼きを焼いていましたし、広島でお好み焼きを食べるのが楽しみ」と、広島人が忌み嫌う「広島焼き」という呼称を使わないどころか「広島風」という言葉も選択しないことで、まず広島人の心を掴んだ。
 
 トレードマークであるマウスピースも紫に変え、記者会見当日にすぐ広島のローカルニュースの街角インタビューのコーナーに飛び入り的に出演してクイズに挑戦、サポーターを驚かせた。同じ北京五輪世代である千葉・青山敏弘・水本裕貴に刺激を与え、特に千葉とコンビを組んで、既にチームの盛り上げ隊として賑やかに振る舞っている。登録前から既に、期待に応えているのである。
 
 ヤン・ヨンソン新監督が丹羽大輝の個性をどう判断するか。最終ラインだけでなくボランチの経験もある彼の存在をどうチームの中に組み込んでいくか。残留に向けての大きなミッションとなる。ヨンソン新体制発足は18日。リーグ再開までの2週間が広島にとっても丹羽にとっても勝負がかかる。
 
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)