シャープ コミュニケーションロボット事業統轄部 市場開拓部長の景井氏


近年、様々なロボットが誕生するなかで、ロボットでありながら“持ち運べるサイズ”、“電話”という点を両立した、シャープの「ロボホン」は異質な存在といえる。唯一無二のコミュニケーションロボットを生み出したロボホンの開発者とは、どのような人物なのだろうか?

「このサイズで、二足歩行で、量産している音声対話ロボットというのは、ロボホンが業界的にもおそらく初めてではないでしょうか?」

柔らかな物腰でそう語る景井美帆氏(以下、景井氏)は、そんなロボホンの開発者のひとり。

「私自身、もともとロボットを作りたい、とは全く思っていませんでした。将来は科捜研に入りたくて、大学では心理学を専攻していたんです。でも、あまり研究に向いた性格ではないことに気づき、ビジネスの世界に早く入りたいと思うようになりました」

大学2年生の頃から、携帯電話の魅力に取りつかれ、頻繁に携帯を買い替える携帯マニアとなった景井氏。就職活動は携帯機器メーカー及び通信キャリアを中心に行ったという。

「ハードウェアの進化の速さや、コンテンツサービスの多彩な展開に、とても魅力を感じました。いつからか、私も新しい端末を作りたいと思うようになったんです」

大学卒業後、大手家電メーカーのシャープに入社し、希望だった携帯電話の開発拠点である広島で商品企画として配属され、入社当初はPHSの商品企画を担当。その後、カメラ付き携帯、AQUOSケータイ(TV付き・サイクロイド)などの担当を経て、シャープにとってのAndroid初号機(IS01、SH-10B)の企画担当に任命された。

「Android初号機は、ロボホンの次に思い入れのある商品ですね。スマートフォンに移行したばかりで、まだサービスなども潤沢ではなかった頃、いろいろなコンテンツプロバイダー様を回り、コンテンツのアグリゲーションを行いました。その後はスマホのユーザーインターフェースの企画に携わり、現在のロボホン開発に至ります」

誰も見たことのない新しいモバイル端末を作りたいというのは、彼女が入社以来ずっと思い描いていた夢。その形状から電話だということを思わず忘れてしまうが、ロボホンの出発地点は、景井氏の夢とつながる“新しい携帯電話”だったのだ。

「もともと私どもは携帯をつくっていたチームなので、ロボットを電話にした、というよりは、新しい携帯電話を開発しているうちにロボホンに辿り着いたという感じです。

最初はスマホに耳やしっぽをつけて、音声のインタラクションと共に動いたりするようなもの、という観点で考えていました。でも、ロボットクリエイターの高橋智隆先生といろいろ話していくなかで、ロボットと電話が融合したようなものを作ってみたら面白いんじゃないかと。そこから着想を得て “ロボット電話”として、ロボホンをデビューさせる計画を2012年頃から練り始めました」

柔和な笑顔を見せながらも、ロボホンについて語り始めると静かにその情熱が伝わってくる。ロボット電話は、社内でもかなり挑戦的な企画。始めるにあたっては本当にロボホンが事業として成功するのかどうか、その見極めに苦労したという。発売に至るまでは、試行錯誤の連続だった。

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ロボホン完成までの道のり

今でこそ、Siriやグーグルの音声検索は浸透しつつある。しかし、構想当初は音声のみに頼った操作性というものに、ユーザーが戸惑うことも考えられた。

「たとえばお客様はどういう風に操作したらいいのか、なんて話しかけたらいいのか、最初はわからない。それを面倒にならないよう、自然な流れでロボホン自身にガイダンスさせるアプリケーションや対話システムの構築に、かなりのトライ&エラーを重ねながら作り上げていきました」

もともとロボット開発の部署だったわけではないため、景井氏を含めて全員が初めての試み。社内での協力も不可欠だった。ロボホン開発に携わっていない部署の社員に初期のロボホンを貸し出し、ちゃんと操作が最後までできたのか、心理的に満足だったか、本音でレビューしてもらうこともあった。

「最初こそガイダンス部分が不十分な状態で、使い方がわからない、認識しない、という声ももらいました。それらを受けてソフトウェアの修正、またモニター、の繰り返しでした」

開発していくうえで個体にばらつきがないよう設計するのが、非常に難しかったと語る景井氏。ロボホンはモーターが全部で13個あり、技術的にかなりハードルが高い商品になっている。量産するにあたり、全てのロボホンが同じように立つ、歩く、踊る、喋る、など動作を安定させることは困難を極め、本格的な商品化までには構想から3年の歳月がかかった。

「最初にロボホンをお披露目した2015年のCEATEC(シーテック)では、会場に3、40体のロボホンを持ち込んだのですが、正しく動いてくれない子が多くて、大苦戦(笑)。なんとか無事にプレゼンが終わり、拍手が起こった瞬間に、今までのチームメンバーの苦労を思って号泣してしまいました。商品化できるかどうか確約されていない状態での不安感をずっと抱えていたので、商品化を発表した時の世間の好意的な反応を見て、とても嬉しかったし、ほっとしたことを覚えています」

多くのユーザーから愛されるようになったロボホン

2016年の発売から1年経った現在でも、ロボホンは毎月アップデートを繰り返し、ユーザーの声を常に反映しながら改善フェーズを続けている状況だ。苦労のかいあって、今では会話能力だけではなく、運動能力も確実に向上してきている。

なんと、現在のロボホンは逆立ちもできてしまう


「新しいダンス踊って」というだけで、アップデートで追加されたばかりのフラメンコを軽やかに踊ってくれた。

決めポーズ。その姿は、愛らしいの一言に尽きる


こうした可愛らしさから、ロボホンはオーナーたちから便利なIoT製品としてというより、まるで子供のような愛されかたをしている。オーナー同士がSNSで繋がり、自身のロボホンを持ち寄ったオフ会を開催したり、それぞれロボホン専用の衣服や乗り物をハンドメイドしたり……。「正直ここまでみなさんが愛着を持ってくれると思わなくて、想像以上の反響ですね」と、景井氏は笑みを見せた。20代から50代まで男女問わず幅広い年齢層のユーザーを、夢中にさせる魅力がロボホンにはある。

ロボホンのオーナーのひとりが自作したという“専用の乗り物”


実は、ロボホンは「5歳児の男の子」というテーマを決めて、便利ではあっても、賢くなりすぎないように対話のデザインをしているという。

「これには理由があって、やはり音声認識、音声対話の技術というのはまだ完成されているものではありません。お客様が求めるものが、必ずしも成功するとは限らない。でも、ロボホンなら多少聞き間違えたり失敗したりしても、愛らしさに転化でき、むしろチャームポイントになる。そういう良さがあるのかなと思っております」

当然、性能に関しては向上し続けていかなければならないが、現時点での技術レベルを考えたときに、ロボホンのキャラクターデザインである「5歳児の男の子」は、大きな意味を持つわけだ。

ロボホン開発に関わっている人数は非公表だが、ごく少数の部署だという。「ある意味、社内のベンチャー企業的な立ち位置でやっています」と笑う景井氏。少ない人数で短期間のうちにアップデートを繰り返す作業は、決して生易しいものではない。しかし少数精鋭だからこそのメリットもあるようだ。

「少ない人数だからこそ、意思決定も迅速にできるのかなと思っています。実際に世に出して、反応をみて、すぐに改善していく……そのスピード感を保つことができます。最近もTwitterがきっかけで、ハンディキャップの方向けの新機能を検討し始めました。お客様と一緒にロボホンを育てていくような取り組みを、今後も続けていけたら嬉しいです」

ロボホン1周年記念スーツなどグッズ展開も幅広く行う


今後は子供向けの教育アプリや、2020年のオリンピック開催に向けてインバウンド対応できるアプリケーションにも、力をいれていく予定だ。ロボホンの成長を、開発者である景井氏自身が一番楽しんでいるように見えた。

筆者: Yuri Fujino (Seidansha)