これを受け、大桃が“吼えた”。
 
 試合が始まってしばらくすると、観ているこちらも「あれ?」と驚くほどの声が聞こえてくる。いつもは橋岡の大声ばかりが轟いているところに、大桃の声が負けず劣らず響き渡っているではないか。彼が試合前から密かに設定していた目標は、「絶対に(橋岡)大樹くんより声を出す」というシンプルなもので、先輩DFと張り合うように声が出していたのだ。ゲーム終盤、耐え忍ぶ時間帯が続くと、気合いの雄叫びまで飛び出した。
 
「あんな大桃伶音は観たことがない。ビックリした」(大槻監督)
 
 自他ともに認める“黙々タイプ”だった大桃が、ひとつの殻を破った瞬間だった。
 
 結果は2-0の完封勝利。大桃は「跳ね返すプレーには自信がある」と自負するように、体格を活かして防波堤となりつつ、守備中央のリーダーとしてもしっかり存在を示した。試合終了の笛とともに、ピッチ上では第1節以来の白星に歓喜の輪が広がったが、大桃個人にとっても、ターニングポイントとなりそうな一戦だ。
 
 今年は、U-17ワールドカップ出場という大きな目標がある。米国遠征での不甲斐ないプレーに本人は納得しておらず、最後までがむしゃらにアピールを続けるつもりだ。
 
「チームが結果を出せば、きっと観てもらえる」
 
 プレミアリーグEASTの残り試合、そしてまもなく開幕する日本クラブユース選手権(U-18)で、その成長ぶりをU-17日本代表のスタッフに示す覚悟だ。
 
取材・文:川端暁彦(フリーライター)