『説得の戦略 交渉心理学入門』(荘司雅彦著、ディスカヴァー携書)の著者は、豊富な経験を持つ弁護士。まず「はじめに」で、アメリカの大学生が「講義の中身」ではなく「講義のやり方」で教授を評価しているという事実に触れています。

アメリカの大学生は授業料に見合ったサービスを期待します。教授たちに対する要求は、日本でいえば受験予備校の講師と同じくらいでしょう。

それが内容ではなく、話し方や動作というプレゼンスタイルで決められてしまうのです。(中略)仕事上のプレゼンも同じです。客観的な数値やデータは後で確認すれば済むことなので、聞き手としては、話し手の声、表情、身振り手振りに心を動かされます。

さらに、ストーリーを語って聞き手の心を鷲掴みにしてしまえば、無敵のプレゼンといえるでしょう。(「はじめに」より)

こうした考え方に基づき、本書では「説得」についての考え方を記しているわけです。きょうはそのなかから、基本的な考え方を明らかにした序章「言葉よりもはるかに効果的な説得手段」に注目してみたいと思います。

1. 相手にとって好ましい環境をつくる

ここがポイント

説得や交渉は、晴れた日に快適な場所で行おう。

(15ページより)

著者はここで2つの実験結果を紹介し、「人は、晴れた日に、リラックスした状態でいるとき、説得に対して承諾する確率が高い」ことを明らかにしています。相手の承諾をぜひとも得たいケースでは、相手にとってできるだけ好ましい環境をつくることが大切だというわけです。

そのため大事な説得をするときには、環境に対して十分配慮することが必要。ビジネスで大切な相手の説得を試みる場合、オフィスに硬い椅子とテーブルしかなければ、ゆったりとしたホテルのコーヒーショップなどを利用するのも有効な手段だといいます。(15ページより)

エビデンス

心理学の実験結果によると…

* 晴れた日には、承諾率が飛躍的にアップする

* 居心地の良いソファを提供することによって、承諾率が飛躍的にアップする。

(23ページより)

2.話の内容より、見かけと身振りを周到に準備する

ここがポイント

話の内容より、表情や身振り手振りのような視覚情報のほうが、はるかに影響力がある。

内容が決まったら、服装やプレゼンスタイルの工夫と練習に時間をかけよう。

(24ページより)

表情や動作というプレゼンテーション・スタイルを駆使することによって聴衆に強いインパクトを与えるという方法は、アメリカでは以前から当たり前のように使われてきたもの。たとえばいい例が、自らの言葉と動作で聴き手を魅了するプレゼンテーションを行なっていた故スティーブ・ジョブズです。

熱意を示すためには、表情だけでなく力強い身振り手振りというボディランゲージが不可欠。身振り、手振りなどの身体的動作は、相手の「身体感覚」を刺激するという意味で効果的だというのです。また、ルックスや服装といった「見た目」も、視覚情報として非常に重要だそうです。(24ページより)

エビデンス

行動経済学の実験によると……

*学生による教師の評価では、「普通のスタイルで講義を行う」よりも、「プレゼンテーション・スタイルを加えた講義」のほうが、採点が格段に上がる。

(32ページより)

3.話し上手より聞き上手。相手が勝手に説得されるのを待つ

ここがポイント

人間は他人に動かされるのが大嫌い。

説得は、「自分で決断した」と思わせるようにしよう。

(33ページより)

交渉でもっとも大切なのは、相手の話を十分に聞くこと。そして著者が考えるもっとも素晴らしい説得とは、相手が自分自身を説得して納得してくれることだそうです。人間は他人の説得によって自分の考え方を変えることを嫌うので、相手に「説得された」のではなく、「自分で決めた」ことにする必要があるというわけです。

(33ページより)

エビデンス

*人間は、誰しも自分の決断にもっとも重きをおくもの。

自分で決めたのだと感じることで、納得してくれる。

(38ページより)

4.色の効果を活用する

ここがポイント

状況に応じて色を使い分けよう。海外の政治家を参考に。

(39ページより)

「本気度」を示したいのなら、赤のネクタイや赤のスカーフを身につけるのが効果的。「威厳」を示して信頼感を得ようとするのであれば、黒のスーツ。クリーンで冷静なイメージを与え、落ち着いて論理的な説得をしたいときには青色を使うべき。相手に親近感を与えて饒舌に刺せないのなら黄色。そして謝罪するような場面ではグレーを用いるのが最適。

このように、色彩効果は決して侮れないと著者はいいます。最近はノーネクタイが主流になりつつありますが、仕事上の重要な説得等の場面では、まだまだネクタイの果たす役割は大きいということです。なお女性はスーツブラウス、スカーフなどの色を多彩に組み合わせることができるぶん、男性よりも色彩効果をアップさせることができるのだとか。(39ページより)

エビデンス

人間は、色によって感じ取る印象が変わる。

* 赤には「本気度」

*黒には「威厳と信頼」

*青には「冷静さ」

*黄には「親近感」

*グレーには「謝罪の意」を伝える効果がある。

(44ページより)

5.パーソナルスペースを活用する

ここがポイント

説得したい内容によって、相手との距離のとり方を変えよう。

(45ページより)

アメリカの文化人類学者であるエドワード・ホールは、相手との関係と距離感を次のように分類しているそうです。

1 密接距離

0〜45センチ 容易に相手の身体に触れることができる距離

2 個体距離

45〜120センチ 2人がともに手を伸ばせば相手に届く距離

3 社会距離

120〜350センチ 身体に触れることができない距離

4 公衆距離

350センチ〜 講演会や公式の対面のときにとられる距離

(45ページより)

一般的に「パーソナルスペース」と呼ばれているのは、1の密接距離。「好ましい相手」がパーソナルスペースに入ると安心でき、「好ましくない相手」が入ってくると不安を感じるわけです。そして心理学的には、人間は距離が近い相手に対して親近感を抱くようになるものだといいます。(45ページより)

エビデンス

* 人間にも「パーソナルスペース」と呼ばれる「なわばり」がある。

相手の「なわばり」に上手に入ることができれば、親密度はグンとアップする。

(52ページより)

このように、各パートの最初に「ポイント」を、最後に「エビデンス(根拠)」を入れている点が本書の特徴。これらを目にするだけでも理解できるように、配慮がなされているわけです。そういう意味でも、多忙なビジネスパーソンにとっては活用しやすい1冊だといえそうです。