17年間で負傷による故障者リスト入りは一度もないイチロー【写真:Getty Images】

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レッドソックス百瀬喜コーチに聞く、怪我の多い選手と少ない選手の差は?

 スポーツ選手にとって、怪我は永遠のテーマだ。怪我をしなければ最高だが、怪我はつきもの。ましてや、野球のように身体の片側に寄った不自然な動きを繰り返すスポーツでは、動作を繰り返すうちに特定の部分に負担が掛かり、故障が発生する。それが、ピッチャーでは肘の靱帯や肩、野手では脇腹といった部分に現れやすいのだろう。

 怪我を繰り返す選手がいる一方で、怪我とは無縁の選手もいる。例えば、メジャーリーグ・マーリンズのイチロー外野手の場合、17年に及ぶメジャー生活の中で故障者リスト(DL)入りしたのは、2009年に胃潰瘍を患った時だけ。ジャイアンツのエース左腕マディソン・バムガーナーも今季デビュー9年目で初めてDL入りしたが、怪我の原因は休日のダートバイクでの転倒だった。

 怪我の多い選手と少ない選手。その差はどこにあるのか……。レッドソックスでヘッド・ストレングス&コンディショニング・コーチを務める百瀬喜与志コーチは「遺伝による部分も大きい」としながらも「怪我の少ない身体に近づくことは出来る」と話す。

「子供の頃に、いかに多くのスポーツや動きを経験したか、というのは大きな要素になると思います。野球に限らず、スポーツは一定の動きに偏りがち。だから、子供の頃にいろいろな動きを経験し、身体に『こんな動きもあるんだ』と知らせておくのはいいことです」

上原浩治はアメフトのボールも器用に投げる

 例えば、アメリカでは子供の頃に、野球とアメリカンフットボール、野球とバスケットボール、サッカーと水泳、など、子供が複数のスポーツを掛け持つことが多い。これは身体に違った動きを教える意味で、理に適ったことだという。一昔前に郊外に住んでいた子供で言えば、野球の練習がない時は、家の農作業の手伝いをする。畑を耕したり、荷物を運んだり、といった野球とは違った動きをすることで、自然と身体が鍛えられていった。

「日本では、どの学校にも体育の授業があって、陸上やらマットやら球技やら一通りの動きを学びます。でも、アメリカには体育の授業がない学校もある。そこは各自で補ってくださいっていう部分なんですね。だから、運動の出来る子と出来ない子の差は大きく開いている。

 日本人選手が器用と言われるのは、良くも悪くも体育で一通りのことをやっているからだと思います。そこから創造力が生まれるかは別の問題。アメリカ人選手でも運動神経がいい選手は、子供の頃に別の競技も並行してやっていた選手が多いですね。

 意外かもしれませんが、割と不器用なのはドミニカ共和国出身の選手。特に投手は野球のボールを投げることには長けていても、それ以外は不器用なことが多い。練習の一環としてフットボールを投げさせてみると一目瞭然です。上原浩治投手は器用に投げられましたけど、中南米系投手の中にはコツをつかめずに音を上げてしまう人もいました。

 彼らは野球選手を夢見て、投げることだけに専念してきたので、意外と他の動きが出来ないんですね。だから、怪我に悩まされて短命で終わってしまう選手も多いです」

怪我の少ない身体作りへの第一歩は…「別の競技や動きを体験させる」こと

 予期せぬ動きをした時に身体がいかに対応するか。また同じ動きを繰り返しても、特定の場所に掛かる負担を軽減させる方法を知っているか。

 つまり、身体が限られた動きだけではなく、プラスアルファの動きをどれだけ多く備えているかによって、怪我を防げる確率は飛躍的にアップするようだ。

「少し逆説的かもしれませんが、いい野球選手に育てたいのなら、別の競技や動きを体験させて、基礎となる運動神経を上げておくことが大切だと思います。メジャーのトップ選手の中には、大学まで2つの競技を掛け持っていた選手も多い。子供の頃にできるだけ多くの動きを経験させておくこと。それが怪我の少ない身体作りへの第一歩かもしれません」

 三つ子の魂百まで、ではないが、子供の頃に「動き」という点で多くの引き出しを作っておくことが、大人になっても、よりバランスの取れた怪我の少ない身体作りに繋がるようだ。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato