暑い時期、冷酒を選ぶだけでなく濁り酒をチョイスすることで、さらに日本酒の世界が広がる

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〜ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第6回日本酒編その3〜

 ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

◆夏に味わいたい濁り酒

 白く濁った日本酒を、なんと呼んでいますか? 通常は「濁り酒」と言いますよね。でも、あまりお酒に詳しくない人は、「どぶろく」と言ったりします。実際、どぶろくをもじったような名称の濁り酒もあったりして、混乱を助長させているような気がします。

 じつは酒税法上、濁り酒とどぶろくはまったく違います。清酒の定義は「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、漉したもの」となっていますので、漉さないと清酒とは言えないのです。ですから清酒とはすべからく澄んでいなくてはいけません。ではなぜ、濁り酒というものが存在するのでしょうか。

◆濁り酒とどぶろくの違い

 その前にまず、どぶろくとはなんでしょう。漉(こ)してない酒、すなわち醪(もろみ)の状態のことです。醪なら、酒蔵の取材でたまに味見をさせてもらうことがあります。まだ米粒が残っている発酵途中のものもありますが、もうすぐ上槽という醪になると、しっかりアルコールが出ていて香りもよく、アルコールの副産物である炭酸のシュワシュワ感もあって旨いです。

 これはいわゆるプロがつくったどぶろくといってもいいでしょう。昔は各家庭でどぶろくがつくられていました。家庭で味噌をつくっていた時代ですから、酒だってつくっていても不思議ではありません。しかし、明治政府は酒税の取れないどぶろくを根絶しようと画策します。そして明治32年に自家醸造を全面的に禁止し、どぶろくを密造酒として取り締まりました。

 そう、どぶろくは一時完全に絶滅したのです。それを「濁り酒」として復活させたのが、京都伏見で300年以上続く酒蔵「月の桂」の先代蔵元でした。私は蔵を取材し、蔵元から直接話を聞いているので、間違いはありません。

「父は、じゅうぶんに発酵した醪を中ほどから汲み出し、目の粗いザルで漉すという奇策を編みだしたんです。だから白濁しているけれど、一応漉しているから法律違反ではありません、と。まあ、ある意味法律の隙を突いたわけですが」と、蔵元の増田徳兵衛さんが、そのからくりを教えてくれました。

 しかし国税庁もだまってはいません。結局大モメにモメた末、酒税法に濁り酒の製法を新たに規定することで決着したそうです。こうして全国の蔵がどぶろく風の濁り酒をつくれるようになったのでした。

◆発泡する濁り酒

 濁り酒には搾りたてをそのまま瓶に詰めた生のものと、火入れをして発酵を止めたものの2種類があります。このうち夏におすすめしたいのは、生の濁り酒。なぜなら生の場合、瓶の中で発酵を続けるので二酸化炭素が生成され、グラスに注ぐとシュワシュワと発泡するからです。これはシャンパンの瓶内二次発酵とよく似ています。

 じつは月の桂の濁り酒も生酒。開発当初はクール便などない時代だったので、売り先は京都市内のみ、冬だけの限定品でした。それでも生の濁り酒は、吹きこぼれたり瓶が割れたりして、そのたびにお客さんに謝りに行っていたそうです。

 では、夏にオススメの濁り酒を紹介していきましょう。

●一ノ蔵 「すず音」

 濁りといっても、うっすらと白っぽいくらいです。アルコール度は5%程度。味は甘酸っぱく、お酒に弱い人でも飲みやすい。食前酒や乾杯に。「花めくすず音」という、ピンク色のロゼもあります。

●菊盛 純米吟醸 「春一輪」

⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1359031

 霞がかかったようなうす濁りで、シュワッと微発泡しています。日本酒と同じ度数で味も甘くありませんので、「すず音」では物足りないという日本酒好きにオススメです。

●獺祭 発泡にごり酒 「スパークリング50」

 純米大吟醸しかつくらない獺祭の、発泡濁り酒。50というのは精米歩合50%のことです。日本酒臭さのないフルーティーさと、きめ細かい泡が特徴で、日本酒が苦手な人にも人気。ただし炭酸が強いので、開けるときには吹きこぼれに注意してください。

●月の桂 「本醸造大極上中汲にごり酒」

 1964年に日本酒で初めてつくられた濁り酒です。しっかりと白濁している濁り酒の中では、今でも他の追随を許さない品質です。爽やかな酸味と心地よい喉ごしの辛口。さすが「元祖米のシャンパン」です。

◆番外編

 「夏には生の濁り酒」と言いましたが、最後にひとつ、生ではない濁り酒を紹介します。

●千福 「夏にごり」

 アルコール度12%のサッパリした濁り酒。キンキンに冷やしてから良く振って飲んでください(生ではないので振っても大丈夫です)。まるで甘くないカルピスのような飲み心地に、グイグイ杯がすすむはず。泡は立ちませんが、これも夏にピッタリの濁り酒です。

 さあ、夏はもうすぐ。真夏の太陽の下、軽やかな濁り酒でクールに乾杯しましょう!

【江口まゆみ】
神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学卒業。酒紀行家。1995年より「酔っぱライター」として世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本国内でも日本酒・焼酎・ビール・ワイン・ウイスキーの現場を100軒以上訪ねる。酒に関する著書多数。SSI認定利き酒師、JCBA認定ビアテイスター