『ツヨシしっかりしなさい(1)』(講談社)

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 バシーン!! ツヨシー! しっかりしなさい!! 姉に平手打ちされるシーンが印象的なマンガ、『ツヨシしっかりしなさい』。皆さんは読んだことがありますでしょうか? 1986年から1990年まで「週刊モーニング」(講談社)で連載され、92年にはアニメ化。フジテレビの日曜夜6時という『ちびまる子ちゃん』と同じ枠で放映され、94年にスーパーファミコンでゲーム化までされている、いわば「国民的マンガ」のひとつともいえる作品です。

 先日Twitter上で『ツヨシしっかりしなさい』のアニメ版が話題になり、「見ていたはずなのだが、内容はよく覚えていない」「主題歌だけはよく覚えている」「実は、アニメ化なんかされてなかったんじゃないか?」などといった声が多数ありました。国民的マンガであるはずなのに、この存在感の耐えられない薄さ……。そこで今回は、『ツヨシしっかりしなさい』とは一体どんなマンガだったのか、検証してみたいと思います。

 本書の作者は永松潔先生。単行本として全19巻が刊行されているだけでなく、続編として『ツヨシもっとしっかりしなさい』『ツヨシしっかり2しなさい』、小学生時代を描く『ツヨシくんしっかりしなさい』などが出ている人気シリーズです。それにしても、これほどまで執拗に「しっかりする」ことを要求されているマンガのキャラクターって、ほかにいるでしょうか?

 ほのぼの感あふれる絵柄で、親子そろって楽しめるファミリー向けマンガであるかのようにイメージしがちですが、違います。事実、単行本に書かれている作品キャッチコピーは、このようになっています。

「家庭(ファミリー)という名の戦場で雄々しく生きる男一匹」

 戦場、そして男一匹……。家族をテーマとしたマンガにしては、あまりに違和感のあるキーワード。実は『ツヨシしっかりしなさい』とは、気の強い女たちに囲まれた男が家庭内で1人たくましく生きていく姿を描く、サバイバルマンガなのです。

 主人公は、井川家の長男である高校生「井川強(ツヨシ)」。井川家は父親が単身赴任しており、同居しているほかの家族は全員女。街で評判の美人だが、気が強く暴力的な長姉・恵子と、恵子ほど気は強くないが、嫌なことはツヨシに押しつける次姉・典子。そして、炊事・洗濯・掃除といった家事を一切やらず、娘には甘いが息子と夫にはやたらと厳しい母・美子。

 この女三人衆に逆らえない一番年下のツヨシは、井川家の炊事・洗濯・掃除および家計の管理の一切をやらされている上、ドジったり愚痴ったりすると姉に強烈なビンタを食らうという、舞踏会デビュー前のシンデレラを彷彿とさせる悲惨な状況なのです。日本全国のおっかない姉を持つ男子たちの苦労を代弁する「国民的弟マンガ」といえるのではないでしょうか?

 それにしても、長姉&次姉&母の女三人衆の理不尽さは特筆に値します。全弟が号泣間違いなしのエピソードを、いくつかご紹介しましょう。

【エピソード1】

 女三人衆がスナックで飲んでいたところ、お金が足りなくなったため、高校生のツヨシを呼び出してお金を持ってこさせた上、飲酒させます。そこへ、運悪く警察が巡回に。しかし、ここでツヨシとはアカの他人のふりを決め込む女三人衆。ツヨシだけが警察に詰問されます。こんな見事なトカゲの尻尾切りエピソード、見たことないよ!

【エピソード2】

 懸賞で1泊2日の伊豆温泉無料招待券を当てたツヨシ。しかし、行けるのは3名のみ。ツヨシ以外の2人は誰が行けるのか? 姉2人と母は露骨にツヨシに擦り寄り、ご機嫌を取るようになりますが、女同士の醜い争いが次第にエスカレート。このままでは家族が崩壊してしまうことを危惧したツヨシ。家族の絆を取り戻すため、旅行券を破り捨ててしまいます。しかし、これが完全に裏目に出て、ツヨシが女三人衆から代わる代わる猛烈なビンタを食らうハメに。最終的に、旅行券はセロテープでつなげれば有効であることがわかり、ツヨシ抜きの女三人衆で伊豆旅行へ行くことになったのでした。こんなトラウマになりそうな懸賞エピソード、ありえないよ!

【エピソード3】

 なんの因果か、クリスマスが誕生日のツヨシ。誕生日兼クリスマスパーティをやるから何も食べずに夜まで待っていろ、食べたら殴るぞ! と女三人衆に脅され、家でじっと待っているツヨシ。しかし、女三人衆は、それぞれイケメンや同僚に声をかけられて飲みに行ってしまい、家でパーティーをやることは完全に忘れていました。理由もわからず腹をすかせたまま、1人待ち疲れてちゃぶ台で眠ってしまうツヨシ……。こんな悲惨なバースデーある? 聞いたことないよ!

 実は一番しっかり者なのに、周囲に決して評価されず、理不尽な要求をされても、暴力を恐れて反抗できず、ひたすら家事に従事する。単なるコメディを超えた男の絶望がそこにあります。ツヨシ、頼むから強く生きてくれ……その名の通り強く! 読みながら、そう願わざるを得ないのです。

 ……と、こんな感じで作品をご紹介したものの、あらためて作品を読み直すまで、「あれ、『ツヨシしっかりしなさい』ってこんな作品だったっけ?」と、まるで記憶がなかったのも事実。一度読み始めると止まらなくなる不思議な中毒性を持っているのですが、読んだ後、どんな話だったか具体的なエピソードが思い出せるかというと、なぜかよく思い出せないのです。

 要するに、全米が泣くようなインパクトのある、120点ぐらいの突き抜けた面白さはないけど、30点ぐらいのクソつまらない回もない。いつ読んでもそこそこ楽しい、常に60点ぐらいの面白さを安定的に維持できることこそが、国民的マンガの秘訣なのかもしれません。そう、『ツヨシしっかりしなさい』とは、偉大なる60点マンガなのであります。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん)

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