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●地元で生まれたツールを活用する松江市

東京・六本木にあるトークノートの会議室において、「『ICT教育最前線事例』に関する記者発表会」が開催された。学校法人や自治体、IT企業など、計4種類の事例が紹介された。それぞれの団体・企業に異なるアプローチがあり、興味深かった。

記者発表会に参加した団体・企業は以下のとおり。品川女子学院、聖徳学園、島根県・松江市、DeNAだ。

このうち品川女子学院の取り組みについては既報してあるので、そちらで確認してほしい。一方、聖徳学園については現場の見学にお誘いをいただいているので、後日、詳しくお伝えしたい。なので、本稿においては、この2校は割愛させていただき、松江市とDeNAの事例について触れてみよう。

まず松江市だが、プレゼンを行ったのは、まつえ産業センターの本田智和氏と佐藤文昭氏。

プレゼンの冒頭、本田氏は「島根県の場所がわかりますか?」と取材陣に問いかけた。余談だが、島根県の方は、しばしばその知名度の低さを自虐的に話す。だが、松江市といえば日本で5番目に国宝指定された天守閣、松江城があるし、テニスの錦織圭選手の出身地だ。「そんなに自虐的にならずとも……」と正直思った。とはいえ、“場所がわからない県”というある調査で、10%もの票を得て“堂々の1位”になったというのだから、自虐的にもなろうというものか……。

○プログラミング教育で地域ブランド創生

ハナシを戻そう。松江市が取り組んでいるICT教育を推進しているのは「Ruby City MATSUE プロジェクト」である。これは、「OSS」(Open-source software)と「Ruby」(ルビー)を活用し、地域ブランドの創生を目指すというもの。このRubyとは、プログラム言語のことで、松江市に在住している松本行弘氏によって開発された。ちなみに松本氏は政府主導のIT総合戦略本部の本部員を務め、松江市の名誉市民でもある。

●人口減少がプログラミング教育のきっかけ

ではなぜ、このRubyがICT教育に活用されるようになったのか。

そのきっかけは、2005年にさかのぼる。この年に行われた国勢調査で、松江市の人口が減少に転じたことが明らかになった。人口減少の一因には、産業の反活性化が挙げられる。産業を活性化させ雇用を創出するためには、企業誘致が必要。ところが、地方都市である松江市には、企業誘致にさける大規模な補助金はない。そこで目をつけたのが“人材”。そして人材を育成するために着目したのがRubyだ。

○設置した拠点で中学生に教える

まず、市内の島根大学、松江高専の両学で開催される「Rubyプログラミング講座」に助成。これは、就職を控えた人材から育成していこうという考えだ。次に松江駅前に設置した「松江オープンソースラボ」を拠点に、「中学生Ruby教室」「Ruby Jr.」を開催した。人材の裾野を広げるほか、IT分野に興味を持つ中学生を早期に発掘する試みもある。

やがて2012年になると学習指導要領が改訂され、中学校技術・家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修化された。これをきっかけに実証授業を繰り返し、2016年には私立中学校全校でRubyによる授業を開始。なお、中学生が利用するのは「スモウルビー」という、アイコンボタンを並べ替えてプログラムできる機能を備えたプログラミングツールだ。

そして2017年3月には小学校でのプログラミング必修化が決まった。これを受けメンター(指導者・助言者)の育成、子どもたちの理解につながる教材作成に取り組んでいる。

なお、松江市とは関係ないが、島根県のある場所で行われた民間企業によるスモウルビーを使ったプログラミング教室を見学したことがある。対象は小学生だったが、スモウルビーに興味津々のようで、歓声を上げながらプログラミングを楽しんでいた。

●創業者のひと声がCSRにつながる

一方、DeNAのICT教育は何か。こちらもプログラミング教育に注力している。DeNAといえばIT企業だ。プログラミング教育に注力しているのは、“将来のIT人材の確保”がねらいだろうと、短絡的に考えてしまう。ところがプレゼンを行った同社 渉外統括本部 末廣章介氏によれば、それは異なり、CSRだという。

そもそものきっかけは、創業者の南場智子氏が、政府関係者から「なぜ日本にはイノベーションを起こす人材が育たないのか」と、問いかけられたことだった。ところが日本では大企業志向が強く、起業への意識が薄い。ある調査によると「起業したいか」との問いに「Yes」と答えた数は、調査国70カ国中最下位だったという。

しかも、将来は47%の仕事がAIやIoTに奪われるといわれている。こうした時代を乗り切るための人材を育てる教育は何か。DeNAは新しいタイプの“デジタルデバイド”に着目した。

○新しいデジタルデバイドからプログラミング教育を発想

「以前のデジタルデバイドは、IT機器が『使えるか』『使えないか』という構図でした。ですが、今やIT機器をほとんどの人が使えます。これからは『つくれるか』『使えるか』になります」(末廣氏)。これはIT機器を単に使えるだけでなく、“何かをつくれる”ほうが優位に立つということだ。“つくれる”というキーワードを考えれば、プログラミングにたどりつくのは自然な流れだ。

そこでDeNAは、佐賀県・武雄市に着目する。この自治体はタブレット一人一台体制となっており、プログラミング教育を導入するのに好都合だったからだ。ところが当時の武雄市のタブレットは非力で、一般的に出回っているプログラミングツールがスムーズに動かない。そこでDeNAは自社でオリジナルアプリを開発するが、このアプリを小学校低学年向けとした。

対象は小学校1〜3年。自分の描いた絵が動かせるという内容で、これなら低学年でも興味を持ちやすい。2014年から始まった同社の取り組みは、現在、武雄市と神奈川県・横浜市で行われている。

さて、松江市は人口減少がきっかけとなり、企業誘致に有利になるような人材を育てるためにプログラミング教育にいたった。DeNAは、“日本の将来を憂える”というような考え方から、プログラミング教育を開始した。同じプログラミング教育でも、スタートの背景は異なるのだなぁと、ユニークに感じた。