羽多野 渉の“ハート”にあるもの――支えてくれるスタッフ、ファンへの感謝の気持ち

「声優、アーティスト活動に前向きに臨める理由は?」と問うと、「周囲への感謝の気持ちがあること」を挙げた。多忙な日々を送るなかで、羽多野 渉は、活動に携わるスタッフや多くのファンへの思いやりを決して忘れない。TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』の主題歌で、恋する人の背中を押す思いが込められている7thシングル『ハートシグナル』には、そういった羽多野の“ハート”にある、温かい気持ちも詰まっているのだろう。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
協力/81アクターズスタジオ

トキメキを感じている人の背中を押す楽曲を目指して

7月12日に発売される羽多野さんの7thシングル『ハートシグナル』は、YURI!!! on ICE feat. w.hatano名義で歌われた『You Only Live Once』を手がけた、彦田元気さんが作曲・編曲を担当されていますね。
『You Only Live Once』は、TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』のために生み出された楽曲で、僕の携わり方としても、フィーチャリングという立場でした。僕の声を加工することが前提にあったので、『ハートシグナル』で、彦田さんが僕の声をイメージして楽曲を作ってくださったことは本当にうれしかったです。
『You Only Live Once』を通して、彦田さんとまたご一緒できたら…という思いがあったんでしょうか?
もちろんです! 僕自身、エレクトロな音楽が大好きなんです。ドンピシャでTKサウンド世代なので、彦田さんが作られるビート感のある音楽は大好物! 前回のときは、今回の『ハートシグナル』のお話はまったく出ていなかったんですけど、「いつかまた一緒にやりたいです」というお話はしていて。
まさか、こんな早くに実現、と!
そうなんです! 僕自身、彦田さんとお会いして、不思議な…運命と言ったら大げさかもしれないけれど、ご縁みたいなものを感じたんです。こんなにも早く、またご一緒できるとは思っていなかったので本当にうれしかったですね。
『ハートシグナル』は、『You Only Live Once』とはまた違った、ポップで可愛さあふれるサウンドが魅力的ですね。
僕もデモを最初に聴いたときは、「めっちゃキラキラしてる!」と感じました。
レコーディングの際は、どんなことを意識されましたか?
TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』のオープニングテーマということもあって、物語に即した感じで歌詞も書いていただいて。物語のなかで、勢多川正広(声/増田俊樹)が、大柴康介(声/前野智昭)に、「好き」という感情を抱いてからその思いを伝えるまで…いろんな葛藤が生まれるんですよね。そういう恋する姿を見て、応援してあげたくなるようなイメージで歌いました。
男女問わず、恋する方へ向けての応援歌にもなりそうです。
まさにその通りで、「好き」っていう感情や、そのなかでの葛藤は、男女問わず共感できる部分だと思います。今、トキメキを感じている方に向けて、背中を押してあげられるような温かな楽曲になったらいいなというのはすごく考えていました。

人形じゃなく座敷わらしを思い浮かべた!? MV制作秘話

『ハートシグナル』のMVのイメージは、羽多野さんがお考えになったとか。どういうコンセプトをイメージされたんでしょうか?
最初は、『ひとりじめマイヒーロー』で勢多川が大柴のために家事を頑張るシーンがあるので、そこにそろえて、「僕が家政婦となって、家事をする」というコンセプトだったんです。でも、アニメの主題歌であれど、もっとファンタジックなほうが『ハートシグナル』のMVとしても楽しんでいただけるのではないかと思って。「小さいときから大事にしていたお人形が人間の姿になって、知らないところで自分のために何かをしてくれる」というイメージを提案させていただきました。
人形が羽多野さんに変わる演出は、楽曲のポップさともピッタリ合って、とても可愛いなと思いました。
ありがとうございます。やっぱり、温かみのある楽曲なので、内容も可愛い方向にしたい思いがありました。ファンタジーな世界観を出すために、「人間じゃなかったら面白いんじゃないか!」と考え着いたんですが、最初は僕の頭のなかで人形じゃなくて、座敷わらしが浮かんでいて…(笑)。
座敷わらし…!? 一気におどろおどろしい感じに…!
あはは! 僕は都市伝説とかが好きなので、最初に思い浮かべてしまったんですけど、たしかに「座敷わらしだと、ちょっと怖いかも」と思って。……でも、座敷わらしはいい存在なんですよ!? 見たら幸せになると言われていますし!
(笑)。
つい、アツくなってしまいました(笑)。でも、曲の可愛らしいイメージとピッタリなのは、お人形なのかなと行き着いて。レコーディングの1週間後がMV撮影だったんですけど、レコーディング時にMVの監督が来てくださったので僕のイメージをお伝えしたら、「わかりました! そろえてみます!」と言ってくださって。
1週間で、あのMVの撮影準備がされたんですね!
そうなんです。当初の案が動いていたところで…。人形から小道具まで、全部そろえてくださいました。とてもありがたい限りです。
あのお人形、心なしか、羽多野さんに似ている気がしました。
僕も似てるなって自分で感じていました(笑)。撮影現場でも、一緒に写真を撮って遊んだりしていましたね。あと、メイクさんが僕の髪型を整えてくださったあとに、ちゃんと人形の髪型も整えて、僕と同じ髪型にしていました(笑)。
想像するだけで微笑ましいです。ほかに、現場で印象的なことはありましたか?
人形から人間(羽多野さん)に変わるシーンを、どう表現するかはけっこう監督と話し合いましたね。最初は、人形が寝転がった状態で女の子が家から出ていって、そのまま僕に変わっている…という案があったんですけど、監督から「バッチリ目が開いている状態から、何かのキッカケで急に動き出す、みたいな感じが面白いんじゃないか」という発案をいただいて、あのかたちになっています。
羽多野さんの姿ですが、人形、みたいなイメージですよね。
そうです。なので、最初から目がバッチリ開いてます(笑)。人間じゃないような感じで演じましたね。撮っているときは、どういうふうになっているかわからなかったんですけど、完成した映像を見て「こうなっていたんだ!」って少し面白くなりました。

「声優とアーティストは同じライン」と考えている

今回のMVの案しかり、そういったお話のイメージを羽多野さんがお考えになることは多いんですか?
そうですね。昨年12月に発売したミニアルバム(『キャラバンはフィリアを奏でる』)のときも、一曲一曲、自分でその曲のベースとなる世界観をプロットにして曲を作っていただきました。もともと、お話を想像することは大好きで、それこそ小学校低学年の頃からよくいろんなことを想像していましたね。
そのルーツは、子どもの頃からあったんですね。
そこから抜け出せなくて、声優になっちゃった感じですから(笑)。やっぱり、そういう物語の世界に入りたかったんだと思います。当時は、それがより身近に感じられたのがアニメだったんでしょうね。
「入りたかった」という思いから、いろんなことを想像して、今は形にされています。
物語や設定を想像することは好きだけれど、僕にはそれを体現する術がなかったので、たくさんの方に協力していただいて、僕が考えたものがひとつの作品としてできあがるのは本当にうれしいです。こういう部分でも、少しでもみなさんに楽しんでいただけたらなと思っていますね。
実際に『ひとりじめマイヒーロー』にも、康介の大学時代の後輩のバーテンダー・夏生役で声優としてご出演されているわけですが、ご自身が出演される作品の主題歌を担当する…という意味で、難しさを覚えたりすることはあるのでしょうか?
いや、立ち位置としては、音楽も声優も全力でやることには変わりはないです。今回はありがたいことに、オープニングだけでなく、役もいただけるということで本当にスタッフのみなさんには感謝しています。僕は、どちらも全身全霊で臨むのみ、です。
声優とアーティストの活動の線引きはされているのでしょうか?
そうですね…。たぶん、いろんな方がいらっしゃると思います。声優とアーティストでキッパリ線を引いて活動されている方も多いと思いますが、僕はどちらかというと同じラインに感じています。
そうなんですね。
お芝居と歌は、別の世界のことではなくて、隣り合わせにあると思うんです。僕のこれまでの楽曲で、「こういう楽曲が歌いたい」と、自分で意見を言って作っていただいた楽曲は、それこそストーリー性のある曲や、セリフが入っていたりする曲が多くて。お芝居からとても近い発想から生まれているので、自分のなかの役者としての矜持を持って今後もアーティスト活動をしたいなと考えていますね。
それでは、『ハートシグナル』を楽しみにされている方へメッセージをお願いいたします。
みなさんの応援のおかげで、7枚目のシングルを発売させていただけることになりました! アニメ『ひとりじめマイヒーロー』の世界と合わせてCDも聴いていただけたらと思いますし、アニメの世界から少し離れたMVの世界もじっくり楽しんでもらえるとうれしいです。
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