「親を亡くした感じですね」

 森保一監督の退任について問われたMF青山敏弘は、ショッキングな表現でその心境を言い表した。


キャプテン青山敏弘(右)を筆頭に試合後、サポーターに挨拶をする広島選手たち

 2012年から指揮を執り、3度のJ1優勝をもたらした名将は、サンフレッチェ広島一筋でプレーしてきた青山にとって、なくてはならない存在だった。森保監督は青山を信頼し続け、2014年からはキャプテンの役割も託している。青山もこの指揮官のもとで成長を遂げ、2014年のブラジル・ワールドカップ出場、そして2015年にはJリーグMVPを受賞するまでに至った。

 現役時代はボランチとしてならした森保監督と、現在の広島で不動のボランチを担う青山。ふたりの間には、他者にはうかがい知れないほどの強い絆があった。

 青山だけではない。ほかの選手たちも、無念の言葉を吐露している。DF水本裕貴は「サンフレッチェというクラブをもうひとつ上のランクに引き上げてくれた。僕自身もたくさんのことを学ばせてもらった監督だった」と神妙に語り、MF柏好文は「僕自身、森保さんに声をかけていただいてこのチームにいられている。そういう意味では精神的なショックは大きい」と肩を落とした。

 そこには、監督がいなくなったことによる寂寥(せきりょう)感だけがあるのではない。結果を出せずに監督を追いやってしまったという自責の念も、同時に滲む。それでも、結果を出せない監督がその立場を失うことは、プロの世界の掟(おきて)である以上、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。気持ちを切り替え、次の一歩を踏み出せるかどうか。7月8日に行なわれた横浜F・マリノスとの一戦は、広島にとってそういう戦いだった。

 森保監督の辞任が発表されたのは、7月4日のこと。そこからの4日間、暫定的に指揮を執ることとなった横内昭展ヘッドコーチのもと、広島は”闘う”姿勢を取り戻す作業に注力した。

「週の初めのほうはかなりショックもありましたけど、横さん(横内ヘッドコーチ)がいい雰囲気を作ってくれた。俺らベテランにも『お前らがやらなければいけないんだ』と喝を入れてくれたし、若い選手や試合に出てない選手に対しても、緊張感を与えてくれた。そうやってチームみんなで乗り越えようという意識を強く持ち、この試合に臨めたのは大きかったと思います」

 チームリーダーのDF千葉和彦は、そう振り返る。ともすれば崩壊しかねない状況だったチームは、監督退任のショックを振り払い、5連勝と好調の横浜FMに立ち向かっていった。

 前半の広島は、決して悪くはなかった。とりわけ25分過ぎ以降は、後方でしっかりとブロックを作って守り、ボールを奪っても攻め急がず、じっくりとつないで相手のほころびを探り続けた。じわりじわりと相手を追い込んでいくサッカーは、強かったころの広島が十八番としていたスタイルだ。あとはいかにスイッチを入れられるかどうか。後半の戦いに期待が持てる前半のパフォーマンスだった。

 しかし後半に入ると、オープンな展開となり、徐々にバランスを崩していく。スペースが生まれ、カウンターを浴びる機会が増加。とりわけ左サイドに回ったMF齋藤学のドリブルに手を焼き、鋭いカットインからあわやというシーンを作らせてしまう。

 それでも、何とか耐えしのぎ、反撃の機会をうかがったが、81分、その齋藤のドリブルが起点となり、途中出場のMF前田直輝にゴールを許してしまう。

 万事休す。健闘しながらも、最後にやられてしまう――。降格するチームにありがちな試合展開を目の当たりにし、そう思わざるを得なかった。

 しかし、この日の広島はここからが違った。

「先制されて、非常に苦しい状況でしたけど、みんなのメンタルは落ちていなかったし、交代の選手も含めて、点を獲りにいくという強い気持ちが今日はあった」

 千葉が言うように、そこからの10分間、広島の選手たちはまさに死に物狂いで、横浜FMゴールへと襲いかかった。

 リーグ最少失点を誇る横浜FMの堅守はなかなか崩れなかったが、90分、途中出場のMFフェリペ・シウバのパスに抜け出した柏が左サイドからクロス。これはDFにカットされるも、そのこぼれ球に反応したFWアンデルソン・ロペスが豪快に左足を振り抜き、同点ゴールを奪取。最後まで粘りを見せた広島が土壇場で追いつき、敵地で貴重な勝ち点1を手にした。

「難しい1週間を過ごしたなかで、先制されながらも、勝ち点1を取れたことをプラスに捉えたい」(千葉)

「時間がないなかでも1点を獲りにいってやる、という姿勢を見せられたと思う。(第16節)大宮戦のように1点獲られたら、2点、3点獲られてしまう試合もあったけど、追いついて、もう少しで逆転できるところまで持っていけたのは、非常に大きかったと思います」(柏)

 まさに、気持ちで掴んだ勝ち点1である。高い技術と熟成された戦術をベースに3度の優勝を勝ち取ってきた広島だが、この日の彼らを突き動かしたのは、「勝利への渇望」と「危機感」だった。決して洗練されてはいなかったが、泥臭くとも闘う意識を持ち続け、気持ちで相手を上回ったのだ。

 もちろん、今の広島に求められるのは勝ち点3であり、苦しい状況にあることに変わりはない。すでに報道にも具体的な名前が挙がっているように、3週間後のリーグ再開後は新たな体制で臨むことになるだろう。残り16試合、残留をかけた戦いに挑む広島にとって、この日の勝ち点1は、ひと筋の光明となるだろうか。

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