遺伝も環境も知能に影響する重要な要素

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人の知能に強い影響を与えているのは遺伝子か環境か、という議論は昔から行われてきた。一歩間違えれば優生学的な発想になってしまいかねないが、何が違えばより賢くなるのかは誰もが関心をもつテーマだろう。

そんな中、英エジンバラ大学が「健康に悪影響を与える遺伝子変異が少ない人はIQが高い傾向にある」とする研究結果を、2017年6月5日に発表したのだ。

知能は遺伝か、環境か

そもそも知能が環境に部分的に依存していることは以前からわかっていた。遺伝子の違いを問わず良質な教育を与えられた子どもは、教育の機会が少なかったり奪われていた子どもに比べるとIQテストの平均得点などが高いとする調査結果は多数存在する。

では遺伝子は無関係なのかというとそうでもないようだ。「知能を高める遺伝子」のようなものは今のところ確定していないものの、1980年代に米国で行われた同じ環境で育った双子を比較・追跡調査した研究では、知能には遺伝が約50〜80%影響しているとする結果も発表されている。

しかし、その後遺伝子解析技術が進み数十万人の遺伝子を網羅的に調査してみると、なぜか知能に対する遺伝の影響は30%程度との推計値が報告された。双子研究と遺伝子解析の間で最大約50%ものズレが生じており、「遺伝欠如の謎(The mystery of missing heritability)」として米国科学アカデミー紀要に論文も発表されるほどの大きな謎とされている。

この謎の解明に取り組んだのが、エジンバラ大学のデイビッド・ヒル博士らのチームだ。博士らは同大が遺伝子と健康の関係を調査するために2006年から実施している大規模追跡調査「Generation Scotland」から、2万人分のデータを抽出。統計的方法を用いて他の研究では見落とされていたようなわずかな遺伝子変異を含めて徹底的に調査し、知能との関係を分析した。

すると、健康に有害な影響を与える可能性のある微細な遺伝子変異を持っている人は、その変異を持っていない人に比べるとIQが低下(平均値よりも低い)していることがわかったのだ。

一般的な遺伝のイメージから考えると、こうした「有害」な遺伝子変異は淘汰されていき、例えばIQが高まるような遺伝子が残って広がっていくのではないかと考えてしまうが、ヒル博士は次のようにコメントしている。

「実際には生物の進化は遺伝子変異を都合よく淘汰することを得意としておらず、その変異による負荷を受け入れながら適応しようとしている。その結果のひとつが今回のようなIQの違いとなって表れたと考えられる」

変異を除去すれば知能は向上する

2009年に英キングス・カレッジ・ロンドンが行った研究では、知能が高い人ほど健康的で長生きをする傾向にあると発表されている。そういった人たちが単純に健康的な生活を送るよう意識しているのかもしれないが、今回のヒル博士らの研究結果を見るとこの研究結果もそれなりに説得力があるように思えてくる。

知能が遺伝に依存するという考えには拒否感もあるかもしれないが、今回の論文を取り上げた米科学メディア「New Scientist」の6月20日付の記事の中で、取材に答えた遺伝学の専門家は

「知能に遺伝的影響があることはいいことでもある。もし知能がすべて環境で決まるのであれば恵まれない状況で育てられた人は、より特権のある恵まれた人たちより知性が低くなり、その不平等は解消されないことになる」

と指摘した。

では、知能を低下させているという遺伝子変異を取り除けば知能の向上が期待できるのだろうか。ヒル博士は論文の中で胚をゲノム編集するといった方法で実現する可能性は十分にあると肯定している。ただし、「変異を除去すると天才になる」というような話ではなく、あくまで「平均値以下だったものが平均値以上になる」程度の変化だという。