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CNNを場外でこてんぱんに殴りつけるトランプ

 ドナルド・トランプ米大統領と米主要メディアとの「戦争」は、日増しにエスカレートしている。7月2日にはトランプ大統領は、ツイッターにプロレスのリングサイドで「CNN」と書かれた男をつかまえて、こてんぱんに殴り倒すYouTube動画を添付した(参考=ワシントンポスト紙)。

 これには、さすがに大統領を「弁護」していた保守系のメディアも含め、メディア全体が「それはやり過ぎじゃないか」と一斉に批判している。与党共和党の議会重鎮たちも大統領の行き過ぎに苦虫をつぶしたような顔つきだ。

 この数日前、CNNはトランプ大統領と親しいビジネスマンがロシア政府高官と密接な関係があるとスクープしていた。

 ところがその翌日にはこれが誤報であることが判明。CNNは謝罪、この報道に関係した編集者と取材記者ら3人が責任を取って辞任した。辞めた記者の1人は、調査報道でピューリッツアー賞を受賞する敏腕ジャーナリストだった。

 冒頭のツィッターは、大統領のCNNに対する日頃の鬱憤を晴らしたと言えるだろう。

 CNNと大統領とは、2016年の大統領選の最中から犬猿の仲。トランプ氏の目から見ると、CNNは常に同氏に批判的な報道をする「まるでヒラリー・クリントン(民主党大統領候補)の応援団」(トランプ氏)的存在に映っていたようだ。

 大統領就任以降、トランプ氏は、CNNだけでなく「ロシアゲート」疑惑追及では連日のようにスクープ合戦を演じているニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストを槍玉に挙げ、「奴らの記事はみなフェイクニュース(根も葉もない誤報)だ」とツイートしている。

著者ギングリッチ氏は政治学者、教授、作家と「四足の草鞋」

Understanding Trump by Newt Gingrich Center Street, 2017


 トランプ大統領は、なぜ、そこまで主要メディアを目の敵にしているのか――。

 その疑問に答える本が出た。タイトルは「Understanding Trump」(トランプを知ること)。著者は、トランプ大統領とは「盟友関係」にある元下院議長だったニュート・ギングリッチ氏(74)だ。

 トランプ政権では国務長官、国防長官、あるいは他の重要閣僚になるのではないと報道されながら、結局ならなかった反民主党強硬派の大物政治家だ。なぜ、入閣しなかったのかについては諸説ある。

 金銭スキャンダルや不倫説、大手薬品メーカーとの癒着などなど。閣僚に指名されたとしても議会承認は難しかったとみられている。

 同氏は、1979年から99年まで下院議員を務め、そのうち89年から95年まで共和党院内幹事、そして95年から99年までは下院議長を務めた共和党の重鎮。95年には「アメリカとの契約」(Contract with America)をスローガンに下院選挙で勝利し、それまで42年間続いた民主党の下院多数派独占に終止符を打つ立役者となった。

 アメリカ・ヨーロッパ史を専攻し博士号を持つ学者であり、教鞭に立ったこともある。そしてノンフィクションだけでも18冊の著書があり、フィクションも10冊書いている。

 1999年政界を引退した後は、保守系シンクタンクの上級研究員やスタンフォード大学フーバー研究所客員研究員などを務める一方、テレビのコメンテーターとして存在感を示してきた。

 一時はホワイトハウスも狙ったことがある。2007年、出馬を決意したが、結局立候補せず。2012年の大統領選には立候補したが、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事との一騎打ちとなり、結局、支持率の伸び悩みと資金難とで撤退を余儀なくされた。

「トランプ椅子」を支える反左翼・反IYI・反PC・親米

 本書は、トランプ氏がなぜ主要メディアにこれほど攻撃的になるのか、その原点についてこう指摘している。

 「トランプという人間を理解するには、我々は彼を椅子と考えるべきだ。その椅子の4本の脚は、イデオロギーとしての反左翼、反IYI*1、反PC*2(ポリティカル・コレクトネス)、親米(アメリカ第一主義)だ」

*1=IYIとは、「Intellectural Yet Idiot」(インテリそうに見える愚者)のこと。高級雑誌を読み、お高くとまったリベラルな勉強会などに参加して一見知識人ぶっている「似非インテリ」のことを指している。

*2=ポリティカル・コレクトネスとは人種別、性別、宗教的などの差別廃止の立場から政治的正当性を強調すること。例えば公立校ではクリスマスを公式行事にすることを禁じたり、黒人とは呼ばずにアフリカ系アメリカ人と呼ぶことなど。

 「世間一般の通念をぶち壊すことがいかに重要なことかトランプは自ら実践してきた。トランピズムの波はまさに世間一般の通念をぶち壊した。とくにワシントンの政界にはそうした無駄な通念が放置され続けてきた」

 「トランプがホワイトハウス入りして真っ先にぶち壊した社会通念は、毎朝やっている米中央情報局(CIA)によるブリーフィングだった。トランプはよほどのことがない限り週2〜3回にしろ、と言い出した。理由は毎日同じ情報の反復であり、無駄な時間だ、というわけだ」

トランプは「メードイン・クィーンズ」

 トランプ氏がなぜ4つ脚の椅子なのか。ギングリッチ氏はその源流をトランプ氏の生い立ちに遡って説明する。

 「トランプはニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちだが、実は『メードイン・マンハッタン』ではなく、『メードイン・クィーンズ』なのだ」

 「マンハッタンの、私はニューヨーカーよといったお高くとまった東部エリートではない。生まれも育ちも川向こうのクィーンズ区*3。そこで細々とアパート経営を始めた移民の3世代目で、正真正銘の中産階級の出なのだ。トランプは自分の力で億万長者になったのだ」

*3=ニューヨーク市クィーンズ区は、マンハッタン島とイーストリバーを挟んだ東側の地区で人口は230万人。白人27%、黒人21%、アジア系25%と人種的には極めて多様性がある。典型的な中産階級コミュニティ。ラティーノは人口統計では「人種」と見なされていないために白人、黒人の中に混然一体となっているが、併せると28%を占めている。

 「トランプは洒落たフランス料理など好きでない。彼の大好物はマクドナルドのハンバーとケンターキー・フライド・チキンだ」

 「彼はアカデミックな頭脳を持っているわけではない。しかし彼の頭脳は起業家的頭脳、働く職場で威力を発揮する実践型頭脳なのだ。しかも臨機応変だ」

 「ワシントンの知的なバロメーターは、42か国の首都の名前をそらんじられることかもしれないが、トランプにはそんなことは無関係だ」

 「トランプにとっての知識とは、今実際にやっていることを成功させるために必要だと感じた知識をその時点で得て、習得し、やっていることに適用させる。それ以外には興味はないのだ」

 こうしたトランプ氏の経歴こそが主要メディアに対する敵対心の源泉になっている、とギングリッチ氏は結論づけている。

 「知識には『形式知』(Explicit knowledge)と『暗黙知』(Tacit knowledg)とがある。『形式知』とは従来からの高等教育から得られる知識。一方『暗黙知』は実際に何か行っている現場から習得できる知識だ」

 「トランプによれば、米官僚機構、政治エスタブリッシュメント、メディア、高等教育機関には『形式知』が飽和状態にある。トランプは『暗黙知』を連邦政府の中心に注入しようとするムーブメントを主導している。そうすることによって連邦政府は一般大衆のために働く効果的な政府に立ち戻らせようとしているのだ」

 つまり、トランプ氏にとっての「我が闘争」の敵は、官僚機構であり、既成の政治家たちであり、ニューヨーク・タイムズをはじめとする主要メディアであり、ハーバードをはじめとする「象牙の塔」ということになる。

 特に反左翼のトランプ氏にとって、リベラルなメディアは目の上のたん瘤だ。メディアで働く高学歴のジャーナリストたちは憎き相手なのだ。

 大統領選の序盤戦からことあるごとに自分を「泡沫候補」として見下し、発言する一言一句の揚げ足を取ってきた主要メディアは、トランプ氏にとっては、憎んでも憎み切れない、ということになる。

 大統領就任後は、「ロシアゲート」疑惑と称してあることないことを書きてるニューヨーク・タイムズやCNNをどうしても許せないのだ。

「トランプはイニシエーションの儀式を通っていない」

 著者ギングリッチ氏は、2016年3月31日、フォックス・ニュースとのインタビューでトランプ氏について「制御不能な人間だ」と発言したことがある。

 「イルミナティ(秘密結社)はトランプをコントロールできっこない。なぜか。それはトランプは外部の人間だからだ。組織の人間ではないのでコントロールできない。イニシエーションの儀式(入会式)を通っていない。結社のメンバーではないのだ」(参考動画=https://www.youtube.com/watch?v=JgnAWY0RoeE)

 「イルミナティ」とはおそらく「政界」を意味するのだろう。

 地方議会議員も市長も経験したことがない。選挙の洗礼を受けたこともない。ギングリッチ氏は、だからこそトランプ氏はワシントンのしきたりも知らなければ議会対策も知らない。三権分立がいかに機能すべきかなど知る由もない。だからこそ、トランプ氏は強いのだとみる。

 当然のことながら主要メディアは、本書の書評を書いてはいない。その中でリベラルな英ガーディアン紙*4は、皮肉っぽく、こう評している。

 「本書はギングリッチらしい陳腐な言いぐさのオンパレードだ。トランプ氏を理解したい人たちには何の役にも立たない。トランプ氏を弁護する人たちは『レトリックの曲芸』を楽しめるかもしれない」

 「トランプ氏のやることなすことにことごとく反対する人たちにとっては本書の1ページ目に出てくる以下の文が役に立つかもしれない。『奴ら*5は全くの無能か、あるいは嘘つきか、どっちかだ。無視したまえ』」(参考=https://www.theguardian.com/books/2017/jun/20/newt-gingrich-book-understanding-trump)

*4=ガーディアン紙は、2007年以降、米国版を編集・発行。特にオンラインに力を置いている。アクセス数は590万。米知識層に一定の影響力を与えている。

*5=ギングリッチ氏が言っている「奴ら」とはトランプ政治を批判する人たちのこと。

筆者:高濱 賛