パフォーマンスレベルを高めるために「リカバリーウェア」を利用するアスリートが増えている(写真はイメージ)


 今、世界に新しい製品市場が形成されつつある。その製品は、疲労やストレスによる不眠・不調、血行障害による様々な故障に劇的な改善効果をもたらしてくれる。多くの人々を長年悩ませてきた難題を解決する製品市場だけに、近年、ナイキ、プーマをはじめ、世界的スポーツ健康関連企業が続々と参入し始めている。「リカバリー(ウェア)市場」である。

 この分野を世界で初めて創出し、学術的裏付けをもって、抜きん出た成果を挙げているのが、日本のベンチャー企業「ベネクス」である。資本金1000万円、従業員18人、年商7億2000万円。本社は神奈川県厚木市。

 同社が生みだした「リカバリーウェア」は、1着1万円前後と高額ながら、日本国内だけでも累計45万着を突破するヒットを記録。同ウェア(首巻)を付録につけたムック本に至っては、140万部を超えるミリオンセラーとなっている。

 ドイツ競泳界のエース、マルコ・コッホ選手も愛用者だ。2014年「世界水泳」男子200メートル平泳ぎで優勝し、2016年、世界新記録を樹立した彼は「ベネクスのリカバリーウェアのおかげ」と発言した。今や、彼のみならず、欧州を中心に世界各国で、多様な種目の五輪・世界選手権メダリストたちが愛用している。

 故障を抱えがちなトップアスリートだけではない。過重な労働やストレスで疲れが抜けないビジネスパーソンや、冷え性や足のむくみなどに悩む働く女性たち、さらには健康寿命を少しでも伸ばしたいシニア層など、そのファン層は広がり続けている。

 そこで、ベネクスのリカバリーウェアとはどのようなものか、創業経営者の中村太一氏(37)に話を伺った。

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パフォーマンスの極大化に必須な「攻めの休養」

 従来、アスリート用のスポーツウェアと言えば、トレーニングや試合の時に着用することでパフォーマンスを極大化するものを指してきた。一時期、好結果連発で世界的話題になった英国スピード社の競泳用水着「レーザーレーサー」など、その典型だろう。

 ところが、ベネクスのウェアは、そうした“常識”を覆す。あくまでも、就寝時のパジャマ代わりとして、あるいはリラックス時のホームウェアとして使用するのだという。

 中村氏はこう説明する。

「スポーツ科学の発展には著しいものがありますが、『休養』に関しては、長年、決め手となる方法が見出されませんでした。そのため、多くのアスリートが、慢性的な疲労と、それによるパフォーマンス低下・故障に悩まされ続けました。

 パフォーマンスレベルを100にしたいと思うならば、休養レベルも100にする必要がありますが、効果的・効率的な休養が取れず、休養レベルが30程度なら、パフォーマンスレベルも30前後になってしまうのです。各種のサプリメントやドリンクなどを飲むことで、30を40に上げることはできるかもしれませんが、それでは不十分です。

 リカバリーウェアは、リラックス時や就寝時に着用することで、休養レベル100を実現し、その結果として、パフォーマンスレベルを100へと導くものなのです」

 しかし、どうすれば、そんなことが可能なのだろうか?

ベネクスのリカバリーウェアは、パジャマ、ルームウェアとして着用するだけで「攻めの休養」が実現できるという(写真提供:ベネクス)


イノベーションのキーワード「副交感神経の優位確立」

 自律神経には交感神経と副交感神経がある。

 交感神経は、主に日中の「戦闘モード」の時に働く。血管は収縮し、心拍数は上がり、血圧も上昇し、仕事、対人関係、試合・・・などストレスのかかる状況に対処する。

 それに対して、副交感神経は、主として夕方以降、就寝時など「休息モード」の時に働く。筋肉は弛緩し、血管は拡張する。心拍数もゆったりと穏やかになる。血流がよくなることで、老廃物の排出や栄養の補給が促進され、1日の疲れをとってゆく。

 ところが、過度なストレスがかかり続けると、夕方以降も、交感神経の興奮状態が収まらず、本来あるべき副交感神経優位の状態へとシフトすることができない。そのため、その日の疲れを翌日に持ち越すことになってしまう。しかも、翌日以降も、同様の生活リズムが続くことで、心身は慢性疲労状態となり、パフォーマンスレベルの低下はもとより、やがては、様々な故障・疾患へと結びついてゆく。

 中村氏が中心となって開発したリカバリーウェアは、休息・睡眠時に着用することで、まさに身体を副交感神経優位の状態へとシフトさせ、疲労回復を実現しようとするものだ。そして、それを可能にする独自技術こそが「PHT」(=Platinum Harmonized Technology、2008年特許取得)である。

 ウェアの繊維に織り込まれた、微細なコロイド状(4nm)に特殊加工したナノレベルのプラチナが身体に作用し、副交感神経優位へと導くという。

 人気ロックバンド「LUNA SEA」のドラマー真矢さん(47)もベネクス製品の効果を実感し、こう語っているそうだ。「ライブが2日続くときなど、1日目の疲れを2日目に残さないことが大切です。そのため、リカバリーウェア半袖上下をパジャマ代わりに着用しています。疲れが取れるのを実感していますよ」

巨大企業群の猛追をかわせるか?

 最先端のナノテクノロジーを用いたベネクスのリカバリーウェア開発を契機に、世界的に、「積極的休養を通じた疲労回復・健康増進」に関する関心が一気に高まり、新たな市場が生まれつつある。それが冒頭で紹介した「リカバリー(ウェア)市場」である。

 世界最大級の国際スポーツ用品専門見本市「ISPOアワード2013」(ミュンヘン)において、“革命的なスポーツギア”として「アジアン・プロダクト」部門の金賞を受賞して以来、ベネクスは、ドイツを拠点とした欧州戦略を推進。2016年、ドイツ・ハイデルベルクのナショナルトレーニングセンターとサポート契約締結、2017年、東京五輪2020に向けてドイツ水泳協会とのオフィシャルパートナー契約締結など、着実にプレゼンスを高めている。

ドイツ・ミュンヘンで行われた「ISPOアワード2013」において、“革命的スポーツギア”としてアジアンプロダクト部門金賞を受賞した(写真提供:ベネクス)


 また、アジアにおいても、中国・台湾・韓国を中心に販売網を構築しつつある。

 業界リーダーとしての貫禄を見せるベネクスであるが、中村氏は危機感も口にする。

「今は、国内的には、未病産業の勃興や3年後に迫った『東京五輪2020』もあって追い風が吹いていますが、2020年以降には“経済の後退”が危惧されます。それだけに、国内市場に過度に依存しないよう、グローバル戦略を確固たるものにしておく必要があると考えています」

世界で初めて「リカバリーウェア」市場を創出した中村太一氏


 脅威は“経済の後退”だけではない。リカバリー(ウェア)市場が本格的に形成され、次代を担う成長産業となれば、世界の巨大企業群が今まで以上に“本気で”参入してくることは間違いない。その猛追を振り切っていくためには、“絶えざる技術革新”を通じた、より革新的な製品・市場開発が必須であろう。

 幸い、同分野の先駆者であるベネクスには、国内外の大学・研究機関から共同研究依頼が相次ぎ、すでに14大学と実証実験などを行っている。2016年には、ドイツのボッフム大学、続いて筑波大学との共同研究と学会発表を行い、2017年は理化学研究所と技術指導契約を締結。それらを通じて、ベネクス製品の性能に対する学術的裏付けをより強化するとともに、未解明の部分が多いナノ分野についての知見を深め、次なる技術革新への技術シーズを磨きつつある。

 次回は、死に直面し、あるいは倒産危機に陥るなど、数々の苦難に直面しながらも現在の立場を築いてきた中村氏とベネクスの軌跡を追いたい。

筆者:嶋田 淑之