それもまた1つのLOVE。

愛してるとは違うけど、愛していないとも言えない。

あなたの身にも、覚えはないだろうか…?

大学時代の同級生・衣笠美玲は翔平にとってずっと手の届かない高嶺の花だったが、いつしか“特別”な関係となる。

美玲は突然婚約を宣言するも、翔平を自宅に誘いふたりは一線を超える。その後ついに翔平は思いを打ち明けるが「もう遅い」と言われてしまう。

一方翔平は、高校の同級生・奈々とも男女の関係となる。

しかし曖昧な関係が心地よい翔平は、奈々との温度差が面倒になり彼女を拒絶してしまう。




彼になる気もなくて


「...ああ、落ち着く」

家に戻った翔平は、ソファに横になると同時に声を漏らした。

社会人3年目に会社の寮を出て借りた赤坂のマンションも、もうすぐ3年が経つ。目に入るすべてに安定感があり、誰にも何にも心乱されることのない空間。

-やっぱり、今日は帰る。

天井を見上げ、ついさっき投げつけられた言葉を思い出す。

抗議の色が込められた、奈々の声。それは金属音のように響いて、ほろ酔いで上機嫌だった翔平の心を冷やした。

本心を言えば、今夜は女性の温もりが欲しかった。

だからあのまま帰らせるのは正直、惜しかったのだが、しかし引き止めた後のやり取りの煩わしさが勝った。

自分と奈々の、温度差の違いには翔平も当然気づいていた。それでも彼女と過ごす時間は心地よかったのだ。...曖昧である限りには。

奈々の口から、婚約までしていたはずの彼と別れたと聞かされてハッとした。そんなこと、別に翔平は望んでいなかった。

少なくとも現時点で、翔平は奈々の「彼氏」になる気はないし、彼女の将来に責任を負う覚悟など毛頭ない。

-もう、連絡するのはやめよう。

そう決心し、大きくため息をついたところで睡魔に襲われた。

...そしてその後、奈々からも連絡はこなくなった。


奈々との関係も終了?そして数ヶ月後、翔平は美玲の結婚式に招待される。


知らなかった、彼女の素顔


ー3ヶ月後・美玲の結婚式ー

「おお、すげーな...」

虎ノ門ヒルズ51階、アンダーズ東京の披露宴会場に一歩足を踏み入れ、翔平は思わず息を飲んだ。

100人規模のバンケットルームは2面がガラス張りになっており、目前に東京タワーがそびえている。奥の窓からはベイエリアが一望でき、その眺望はまさに「東京」だった。

生まれも育ちも東京、常にその上位層で生きてきた美玲に、ぴったりの会場だ、と思う。

「良かったな、お前も招待されて」

大学ゼミ仲間が集められた円卓は、新婦側会社関係者席の後方に用意されていた。

隣に座るあきらに耳打ちされ、翔平は苦笑いを返す。

およそ2ヶ月前、招待状が家に届いた時は、翔平自身も正直驚いた。よくも自分を招待できたものだ、とも思った。

しかし卒業後も何かにつけて集まってきたゼミ仲間のうち、翔平だけを除外するのはあからさまに不自然であるし、そもそも美玲にとってあの夜のことなど、取るに足らない出来事なのだろう。

先ほどチャペルで行われた結婚式でも、その後のフラワーシャワーでも、美玲とは一度も目が合わなかった。

彼女は翔平の存在に、気づいていたはずだが。




「本日は、ご多忙の中お集まりいただき誠にありがとうございます」

挨拶を終えた美玲の婚約者...いや、つい先ほど結婚の誓いを交わし彼女の夫となった男が、純白のドレスに身を包んだ妻と、目を合わせて微笑む。

窓から降り注ぐ光に包まれ、夫を見つめる美玲の視線は見たこともないほどに柔らかく感じられて、翔平は直視できずに慌てて目を逸らした。

今日の美玲は、当然だが、いつにも増して美しい。

そして彼女からは、翔平が見てきた過去のどのシーンよりも飾らない、自然で穏やかな空気が漂っている。そのことが、何よりも翔平の胸を締め付けた。

-これが、正解なんだ...。

婚約発表をした直後、美玲は自分を部屋に誘った。婚約者の男は、赤坂のバーで黒髪美女と頬を寄せ合っていた。

しかし、そんなことは二人の未来に関係がない。すべて過去のことなのだ。

今、皆の前に立ち祝福を集める二人は、非の打ち所もないほど似合っている。彼の相手は美玲しかいないし、美玲の相手は彼しかいない、と思わせる力がある。

それが、夫婦というものなのだろう。

「新郎・誠一郎さんは、新婦・美玲さんのお作りになるチーズ入りハンバーグが大好物だそうです」

「誠一郎さんは、美玲さんのちょっと天然なところが好きなんだそうです」

美玲が、ハンバーグ?天然?

披露宴の随所で、司会の女性が紹介するエピソードは、どれも翔平にとって耳を疑うものだった。

翔平が知る美玲は、いつだって気高く完璧で、隙などまるでない女。都内の高級レストランを軒並み制覇しているような、生活感のまるでない女。

家庭料理や天然、などという単語は、美玲と正反対にあるワードだと思っていた。

-俺はこの10年、美玲の何を見てきたのだろう?

永い間憧れ、彼女のことをずっと見つめ続けてきた。誰よりも自分が、美玲のことをよく知っていると思っていた。

しかし実際は、翔平は彼女の「素顔」をまるで知らなかったのだ。


自分の知らない美玲に気づく翔平。孤独を深めた彼は再び...?


すれ違い


美玲の結婚式のあと、二次会を途中で抜けようとしたところをあきらに掴まった。

会場から近かったので、ミッドタウンに新しくできた『RIO BREWING&CO.』のテラスに立ち寄る。

喧騒を離れ夜風に吹かれていると、ざわざわと荒れていた心が少しずつ落ち着いてくるような気持ちになった。

「結婚とか、俺にはまだ当分無理だなー...」

投げやりに聞こえたかもしれないが、それは翔平の本心だ。

美玲の結婚式に参加して、ますます結婚というものが自分とは遠い世界にあるように感じられた。

新郎と並ぶ美玲の、見たことのない表情。新郎新婦ふたりの、確立された世界。二人の一挙手一投足が翔平に疎外感を味わわせた。

なんとも言えぬ思いをビールで流し込む翔平の横で、あきらは珍しく黙っている。視線をやると、彼は気まずそうにして目を逸らした。

そして言いにくそうに、重たい口を開くのだった。

「いや...実は俺も、結婚することになった」



あきらと別れた帰り、マンションまでの道を一人で歩く。

ふっと通り抜けた風がほろ酔いの肌に冷たく感じられ、妙に人恋しくなった。

美玲の結婚式に出席するなどという、屈辱を強いられた後だからか。それとも、同じ歩幅で歩んできたはずのあきらから、結婚する、などと聞かされたからだろうか。

東京で生まれ育ち、幼い頃からこの街の酸いも甘いも知り尽くしている美玲やあきらは、やはりいつだって器用に立ち回る。

いや別に、結婚が羨ましいわけじゃない。翔平はまだ27歳で、男だし焦るような歳でもない。

しかしこんな時に、会いたくなるのは...。

条件反射のようにして、翔平はスマホを取り出した。

送信ボタンを押すとき一瞬迷ったが、深く考えるのはやめて「どうにでもなれ」という気持ちで画面をタップする。

-元気にしてる?

あくまで気軽さを演出すべく、ゆるキャラスタンプも添えておく。

翔平が奈々に送るメッセージは、これまでいつもすぐに既読になった。そして遅くとも2分以内に返事がきた。

...しかし今宵においては、30分経っても既読にならなかった。

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翔平との連絡を絶った後、奈々がとった行動とは?