教育は平等、ではない。

親の経済力が子どもの教育や学力に反映される「教育格差」。

東京の中心で暮らす裕福な家庭では、子どもの教育に桁違いの金額を費やしていると聞く。

これまで、年間学費300万円をかけて世界のトップ層を目指すインターママや、親子4代白百合ママ、福翁自伝を愛読する幼稚舎ママなどを紹介してきた。

今回は登場するのは、自分の子どもは敢えて公立に通わせた、白百合卒のお嬢ママ。




#File05 幼稚園から白百合育ちのお嬢ママが、我が子を公立に通わせた理由とは?


名前:早希さん
年齢:35歳
子ども:長女6歳
子どもの学校:港区内、小中一貫の公立小学校

早希さんから待ち合わせ場所に指定されたのは、青山の『ELLE café』。

取材班はスムージーボンボンを注文し、そのフォトジェニックな出で立ちに感動を覚えて思わず写真撮影に夢中になっていた。

「それ、可愛いですよね」

背後から、笑みを湛えた明るい声をかけられハッとする。

振り返ると、美しく整った白い歯を見せながら早希さんが微笑んでいた。

ノースリーブのトップスから伸びた腕は健康的な小麦色、ショートボブのヘアスタイルがとてもよく似合う。

「私も、同じもの頼んで良いかしら?」

警戒心のない人懐っこい笑顔を向けられ、取材班はすっかり心を許してしまった。

-もちろんです!

早希さんの振る舞いは、気さくでありながら決して品を失わない絶妙なバランス感覚を保っている。

それはやはり、彼女がかの名門お嬢様学校、白百合学園育ちだからだろうか。

しかし聞くところによると、彼女は自身の娘を敢えて公立小学校に通わせたのだという。

彼女のスムージーボンボンが運ばれてくるのを待って、取材班は切り出した。

-お嬢様も白百合に通わせたい、とは思わなかったのですか?

その質問を聞くや否や、彼女の顔から笑みが消えた。


早希さんがアンチ白百合となった理由は?彼女が語る、幼少教育の最新トレンド


これからは“普通じゃない”思考が求められる時代


「白百合に入れたいという気持ちは、皆無ですね」

これまでとは打って変わって、低い抑揚のない声で彼女は答える。

-そ、それはなぜでしょう…?

あまりのテンションの差に少々困惑しつつ、取材班は遠慮がちに尋ねた。

「白百合というか、お嬢様学校の類に娘を預ける気はありませんでした。良き妻、良き母であれという教育方針って、もう時代錯誤だと思いませんか?」

それは、取材班も同感だった。

現代においても女性の社会進出は当然のこととなっているのだから、これからの時代は尚更である。

自力でお金を稼ぐ必要のない恵まれた家庭のお嬢様であれば別だが、そうでなければ良妻賢母を目指すことなどリスクでしかないように思う。

「それに、私立のお嬢様学校はルールが多すぎるんです。筆箱から鉛筆まで指定のものがある。そういう無駄な規則って、子どもの考える力を奪うんですよ。目の前のことに疑問を持たなくなってしまう」

なるほど、少々極論の気配はあるにせよ、早希さんの言うことも一理ある気がする。

ルールによる規制は、子どもたちから選択の自由を奪うということである。

自由を奪われた子どもはただ言われた通りにするほかなく、結果として主体性を失う。自立心や自律性が養われる場面も減ってしまうだろう。

「私は娘に、従順なんて求めていません。誰にも思いつかないような、“普通じゃない”ことを考えられる力こそ、これからの時代に求められる能力でしょう」

早希さんの力のこもった主張に圧倒され、取材班は黙って頷く。そして心に浮かぶ疑問をそのままぶつけてみることにした。

-そういう“普通じゃない”考え方というのは、どのようにすれば身につくのでしょう?




その質問を待っていたかのように、早希さんは笑顔を取り戻す。そして、少しもったいぶった様子で口を開くのだった。

「レッジョ・エミリア教育って、ご存知かしら?」

-レッジョ…エミリアって何ですか?

取材班はもちろん初耳であったため、そのよくわからない横文字について早希さんに説明を求めた。

子どもの教育方針には様々な考え方があるが、レッジョ・エミリア教育では「子どもは100人いれば100通りの個性があり、100の可能性がある」という信念に基づき、主にアートを通じて子どもの個性を最大限に尊重する教育を行う。

よって一律のカリキュラムなどはなく、具体的に何を学ぶかは子どもたちが自ら興味を示したものを元にしてそれぞれ個別に決められるのだという。

早希さんの娘は、家からほど近い南青山の私立幼稚園に通っていたそうだが、もちろん該当の幼稚園はレッジョ・エミリア教育ではない。

「米国ではディズニーやグーグルの社内幼稚園でもレッジョ・エミリア教育が採用されているんです。でもまだ日本の幼稚園にはほとんど浸透していないんですよね…そのため私自らが学び、家庭で実践していました」


小学校に入る前段階、幼稚園ですでに分かれている教育方針


道は自力で切り拓くもの


-そんなに様々な教育方針があるんですね…。

幼稚園のカリキュラムなど、どこもそう変わらないのでは…。そんなことを早希さんの前で軽々しく口にしたら、一触即発となりそうである。

「最近では、モンテッソーリ教育も話題ですね。つい先日、最多連勝記録を達成した藤井聡太四段がモンテッソーリ教育を実践する幼稚園に通っていたとか」

ちなみにモンテッソーリ教育はすでに日本でも割とメジャーであり、早希さんが通った白百合学園幼稚園もモンテッソーリを取り入れているそうである。

この他にも様々な教育方針があるそうだが、早希さんが傾倒したのはレッジョ・エミリア教育だった。

個性を重んじるのであれば、インターナショナルスクールという選択肢もあったのでは…?ふと、そう思った取材班だったが、その質問は聞かないでおいた。

以前のインタビューで明らかな通り、インターに子どもを入学させるには5歳でバイリンガルの英語力が最低条件であり、さらには年間300万円の学費を支払うだけの経済力がいる。

そのような家庭は、東京・港区においてもごくごく一部である。




しかし早希さんは、取材班の思考回路を見通していたようだ。

「私は、インターナショナルスクールにも懐疑的なんです。…もちろん、金銭的な問題もありますけど」

取材班はそうですよね、と相槌を打つ。すると早希さんは、自身の経験を交えて独自の見解を語った。

「日本人ですから、中学までは日本語で学べば良い。その上で子どもが海外を志向するなら、高校で留学すれば十分です。実際、インターに行かずとも、高校時代に海外留学してオックスフォード大学に進学した友人がいます」

早希さんの主張は、終始一貫している。

親は、決してレールを敷かない。子どもの主体性を重んじ、本人がやりたいと思うことがあるなら自力で道を切り拓いていくべきだ、と考えているのである。

しかし、そのような母親は珍しい。取材班がこれまで話を聞いてきた限りでは、やはり自分が受けた以上の環境を与えようとする親がほとんどだった。

-ご自身は幼稚園から白百合で、お子様を公立に入学させることに抵抗はありませんでしたか?

その質問に、早希さんは迷わず「全く」と答えた。

そしてその後、諭すような口調で続けた言葉に、取材班は深く頷くのだった。

「社会には多種多様な人がいることを、子どものうちに学ぶべきです。それに…そもそも公立とはいえ、港区青山の学校ですからね。多種多様と言ったって、知れていますよ」

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