久々のキュレーション原稿。今回は「グランジ・ラップ」というテーマで選んでみた。

 と言っても、そういう風に名付けられたシーンがあるわけじゃない。これは僕が勝手に感じていること。どうも北米の音楽シーンに地殻変動が生まれる予感がする。80年代末から90年代初頭にかけて、グランジやオルタナティブ・ロックが勃興していった時と近いような匂いを感じている。

 新しいカウンター・カルチャーが生まれているような気がしているのだ。

 ストリーミング配信が前提になった2017年。今年の上半期も、北米の音楽シーンからは重要作が次々とリリースされている。そして多くの人が気付いていると思うけれど、メインストリームで大ヒットを飛ばすプロデューサーのアルバムには決まって豪華なラッパーやシンガーがゲストに並んでいる。

 共に6月にリリースされたDJキャレド『Grateful』とカルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol.1』が象徴的だろう。ビヨンセ、リアーナ、ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、ケイティ・ペリー、ファレル・ウィリアムス、ニッキー・ミナージュ、フューチャー、ミーゴス……。両者の作品には、そうそうたる面々がゲストに並んでいる。DJキャレドとカルヴィン・ハリスも互いの作品で客演している。

 もちろん、どちらも素晴らしい作品だ。2017年を代表するアルバムだろうし、現行の音楽シーンの先行きを占う上で重要な作品だと思う。でも、その一方で、こんな風にも感じてしまう。敏腕プロデューサーたちが牽引するメインストリームのポップ・ミュージック・シーンは、もはや“セレブリティたちのパーティ会場”と化している、と。

 でも、その一方で、ローファイで、荒々しく、怒りや鬱屈や諦念を根の部分に持った10代や20代のラッパーやシンガーが2017年のアンダーグラウンドから登場してきているように思う。というわけで、この記事ではそんな面々を紹介したい。

■XXXTentacion「King」

 僕がそう感じるようになったきっかけは、XXXTentacionの「King」という曲を聴いたこと。一聴して、まるでNirvanaやKORNを初めて聴いたときと同じような衝撃を受けた。

 彼はフロリダ出身の19歳のラッパー。本名はJahseh Dwayne Onfroy。エジプト、インド、ドイツ、ジャマイカ、イタリア系が入り混じった血筋だという。ドレッドヘアがトレードマークで、今年初頭にリリースされた「Look At Me!」で一躍注目を浴びたばかり。かと思ったら逮捕されて収監されたりと問題児ぶりも発揮している。

 5月にミックステープ『Revenge』がリリースされていて、「King」はその中の一曲。メタルとトラップを経由したサウンドの中に、“行き場のなさ”のようなものが沸々と煮えたぎっている。ラップと歌と叫びを行き来するボーカルにも胸を掴まれる。他の曲もすごくいい。本人のTwitterアカウントが拡散しているライブ映像の熱狂にも惹き込まれる。(参考:XXXTentacionライブ動画)

 今はデビューアルバムの制作中だという。追っていきたい。

■lil peep「benz truck」

 そしてXXXTentacionの周辺を探っていたら出会ったのがlil peep。ニューヨーク出身の20歳。本名はGustav Åhr。ヨーロッパ系の移民の血筋の持ち主だ。

 曲を聴けばわかるが、グランジのダークなギターループをトラップ以降のヒップホップの流儀で料理している。どうやら彼のルーツにもハードコアやメタルがあるようだ。ニューヨーク・タイムズの記事(The Rowdy World of Rap’s New Underground)でライブ写真を観たのだが、スキンヘッドの若者たちが小さなライブハウスで汗まみれになってモッシュしている様はまるで90年代のハードコア・パンクのシーンを彷彿とさせるようだった。「benz truck」は彼のデビューアルバム『Come Over When You’re Sober』からのリード曲。こちらも今年リリース予定だという。期待している。

■Smokepurpp「Glock in my benz」

 やはりXXXTentacion周辺を探って知ったのがsmokepurpp。lil waterという名義でも活動している。前述のニューヨーク・タイムズの記事でもlil peepとステージを共にしていた様子が描かれている。彼もXXXTentacionやlil peepと同世代で、年齢は20歳。出身はマイアミ。彼はリル・ウェインやヤング・サグに影響を受けているらしくlil peepに比べるとヒップホップ・テイストが強いのだけれど、この「Glock in my benz」の歌詞がいい。俺には友達なんていらない ベンツがほしいと繰り返すリリックだ。どこか虚無的なものを感じる。

■ Vince Staples『Big Fish Theory』

 ゴリラズのアルバム『ヒューマンズ』にも「Ascension」でフィーチャリング参加していたヴィンス・ステープルズが、2作目のアルバム『Big Fish Theory』をリリースしている。

 彼はカリフォルニア出身の24歳。正直、ここまで紹介してきたXXXTentacionやLil Peep、Smokepurppと彼を一緒に括るのは乱暴かとは思う。もっとオーバーグラウンドな存在だし、世代も上だ。「グランジ・ラップ」という括り方はそぐわない。しかし新作アルバムを聴いてみたらすごくよかった。もちろんヒップホップではあるのだけれど、トラックはデトロイト・テクノからエレクトロニカに至るサウンドのテクスチャーを基盤にしていて、とても洗練されている。

 ゲスト陣にはデーモン・アルバーンやケンドリック・ラマーやジャスティン・バーノンが参加。リード曲には選ばれていないが、ジャスティン・バーノンが参加した1曲目「Crabs in a Bucket」が特に素晴らしい。

■tofubeats『FANTASY CLUB』

 最後はtofubeats。リアルサウンドの読者には改めて出自を紹介する必要もないだろうが、彼が5月にリリースしたアルバム『FANTASY CLUB』がとてもよい。そして、その新譜をこの記事で紹介してきたXXXTentacionやLil PeepやSmokepurppやVince Staplesの文脈に位置づけると、いろいろとピンとくるポイントがあるように思えるのだ。特に「SHOPPINGMALL」の歌詞。

<何かあるようで何も無いなショッピングモールを歩いてみた最近好きなアルバムを聞いたとくに 話す相手はいない>

 この曲が射抜いているどこか茫漠とした空虚さは、不思議と通じ合うものがあるように思える。

 ちなみに。XXXTentacionは5月に公開した「Gospel」で、Keith Ape、Rich Chiggaとコラボレーションしている。

 Keith ApeはKOHHもフィーチャリングで参加した「It G Ma」で一躍名を上げた韓国人ラッパー。そしてRich Chiggaは弱冠17歳、インドネシア・ジャカルタ出身のラッパー。アジアとUSで当たり前に国境を超えているのにも時代を感じるし、日本でもこのあたりの動きに刺激を受けた若い世代が出てきそうな予感がする。(柴 那典)