もちろん悔しいはずだが……。後輩である長谷川の活躍は、楢崎にとっても刺激になったはずだ。写真:サッカーダイジェスト写真部

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[J2 22節] 名古屋グランパス 0-2 徳島ヴォルティス
2017年7月8日/豊田スタジアム
 
 試合終了の瞬間、豊田スタジアムのピッチ上に仰向けに倒れ込んだ。そこに、チームメイトたちが満面の笑みを浮かべて駆け寄り、続々と覆いかぶさる。
 
 徳島が昇格争いのライバル名古屋を2-0で撃破したアウェー戦。歓喜に沸く徳島の選手、スタッフ、サポーター……。その中心にいたのは、絶体絶命のシュートをことごとく防ぎ切ったGK長谷川徹だった。
 
 あらゆる形からゴールを決めてしまうストライカーがいれば、この日の長谷川は「あらゆる形でゴールを守るGK」だった。
 
 DFに当たってコースの変わったシュートに、逆を取られながらも間一髪、右手を投げ出して防ぐ。
 
 強烈なミドルには、187センチの高さを生かして、枠外へ弾き出す。
 
 至近距離からの決定的なシュートには、左手の指先で辛うじて触れてセーブ。
 
 そして、絶体絶命のPKをも止めてみせた。
 
 さらに、さらに……ポストにシュートが2本当たって救われた。ただそれもフィニッシャーとの駆け引きで、長谷川がしっかりスペースを埋めていたからだ。
 
 吉田麻也(サウサンプトン)らとの同期として、07年、名古屋U-18からトップチームに昇格した。しかし不動の守護神、楢崎正剛を前に、トップ出場はなかなか訪れなかった。結局、10年までの4シーズンで公式戦出場はわずか3度だけにとどまった。
 
 出場機会を求めて、11年に徳島へ移籍。高さと抜群のシュートへの反応の速さを生かして、J1に昇格した14年からレギュラーとして、ゴールを守り続けてきた。
 
 しかし今季、テクニックを重視するリカルド・ロドリゲス新監督の下では、開幕からベンチスタートが続いた。ただそれでも腐らず練習を続けると、これまでのサッカー人生と同様、再び這い上がり、5月21日の15節・水戸戦(△1-1)で出場機会を得る。そこから「結果」を残し、再びポジションを掴んだ。
 
 2017年7月8日、22節の名古屋戦。古巣のゴールを守るのは、あの楢崎だった。その変わらず憧れる大先輩の前で、長谷川は神懸ったようなスーパーセーブを連発。そしてチームに4連勝となる白星をもたらした。チームは自動昇格圏の2位も射程圏に捉えた。
 
 長谷川は試合後、次のようにコメントしている。
 
「(名古屋との対戦は)そこまで特別な想いはなく、とにかく勝点3を持って帰るつもりで来ました。(楢崎との対戦について)比較できる立場ではありませんから(笑)、本当にすごい方です。このスタジアムやサポーターの応援はJ1級だと思うし、名古屋グランパスが小さい頃から優勝争いをしているのを見てきたので、そういうチームであってほしい。また、お互いにJ1で試合ができたら最高です」
 
 試合後、センターサークル付近で両チームの選手が握手をかわしていく。最後方の長谷川が、名古屋の最後方にいた楢崎もとへ――。
 
 満面の笑みを浮かべていた長谷川が、ここで緊張の表情を浮かべる。すると楢崎から賛辞の言葉を送られ、謙虚に何度も会釈をしながら嬉しそうに頬を緩ませた。
 
 楢崎も長谷川へコメントを残している。
 
「やられました。一生懸命やってきたからです。昔一緒にプレーもして見ていましたし、驚きはありません」
 
 愛知県出身の長谷川にとっては、名古屋の背番号1はずっと追いかけてきた存在だった。もちろん、キャリアでは現時点では到底追い付くことなどできない差が付いている。そして何より、今回の対決が実現できたのも、何より楢崎が健在だからこそ。ただ、その雲の上のような存在だった楢崎に、長谷川が認められた1日になった。
 
 紆余曲折……悔しい想いを繰り返したプロ11年目に迎えたこの日、長谷川徹が大先輩の楢崎正剛に〈一生懸命やってきた〉真摯な姿を示した。そして、41歳の楢崎のハートにも闘争心の炎をともしたはず。名古屋と徳島が望むのは、来季、J1でのふたりの再戦実現だ――。
 
文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)