新時代の幕開け告げる、入魂の一作

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 スタジオジブリ作品の温もりや想像力豊かな世界観を色濃く残す一方で、背景美術や活劇のアニメーションはさらなるアクションとリアリティに満ちている。米林宏昌監督がジブリ退社後に初めて手がけた長編作「メアリと魔女の花」(7月8日公開)は、同社の製作体制が解散となったいま、新時代の幕開けを告げるにふさわしい入魂の一作だ。主人公の少女メアリに命を注ぎ、“未来”そのものの担い手となったのは、進境著しい女優・杉咲花。米林監督やメアリによって魔法にかけられた、5日間のアフレコを語った。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

 「借りぐらしのアリエッティ」(2010)、「思い出のマーニー」(14)で知られる米林監督の最新作で、同じジブリ出身のプロデューサー・西村義明氏が設立したスタジオポノックによる第1回長編作品。物語は、メアリが7年に1度しか咲かない不思議な花「夜間飛行」を発見することから始まる。少女は花の効力で1日だけ魔法を使えるようになり、はるか上空に浮かぶ魔法世界の最高学府・エンドア大学への入学を許される。

 「ポノック」は“深夜0時”を意味するクロアチア語。新しい1日の始まりという思いが込められている。同社の記念すべき長編第1弾であり、「マーニー」でも現場をともにした米林監督の新たな一歩でもある今作に名を刻んだことは、杉咲にとって大きな意味があっただろう。「一度ご一緒した皆さんともう一度できること、そして自分を覚えてくださっていたことが、何より嬉しかったんです」と、幸福そうに笑顔を弾けさせる。

 メアリは自分のクセの強い赤毛や、失敗ばかりのそそっかしい性格を気に病む一方で、おだてられるとすぐ調子に乗ってしまう愛らしい少女。杉咲自身も親近感を抱いていた。「私もメアリと同じようにクセ毛でそばかすがあって、背が低くて。特に髪は嫌だったんですけど、メイクさんにほめていただいたことがあって。メアリも、マダムにほめられて喜ぶシーンがあります。自分の嫌な部分が、誰かにとって素敵であることで、嬉しくなるんですよね。そこがとても共感できました」。

 「マーニー」では第3のヒロイン・彩香を演じた杉咲。当時は“ホイコーロウの子”という認知が先だっていたが、第40回日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞に輝くなど、この約3年間で取り巻く環境は大きく様変わりした。それでも役に寄り添い、現場で起こる“今この瞬間”を生き続ける姿勢が変わることはない。「台本から先の展開をわかっていますが、現場に立つときは全部忘れます。役は、起こることをそこで初めて体験するからです。声優としての技術ではなく、今までと同じように、自分の中に沸き出ることを表現できたらと思っていました」と、一点の曇りもない眼差しを投げかける。

 アフレコで初めて絵を目の当たりにした杉咲が、思わずこぼした一言が採用されたシーンもある。「魔法学校に初めてメアリが入ったシーンで、セリフは『すごい』でした。でも映像を初めて見て、『きれい』と言ってしまったんです。監督は『これがリアルな反応、言葉だ』と言ってくださって、セリフが変わったんです。絵に引き出していただいた部分が本当にたくさんあります」。

 濃密な5日間の現場が終わる間際には、寂寥感がいっぺんに押し寄せた。「ワクワクが止まらない5日間でした。だから最終日には『もうメアリと過ごせる時間が終わってしまう』と、すごく寂しかったんです」。

 静ひつな「マーニー」とは対極の、動きに満ちたファンタジーを目指した今作は、米林監督の「ジブリ人生20年のすべてをかける」という言葉の通り、新たな挑戦の意志、そしてジブリへの感謝と愛をまざまざと感じさせる。劇中のいたるところに、ジブリ作品へのオマージュもちりばめられている。「監督たちからいろんな話を聞きました。この映画のどこかに、あるキャラクターが隠れているんですよ」(杉咲)。劇場の座席に座り、場内が暗転した瞬間、観客は魔法にかけられる。