発売中の雑誌『プレジデントFamily 2017夏号』の大特集は「自分から机に向かう子になる!」。子ども時代に親に勉強しなさいと言われなくても自分で動いた難関校の学生の話や、生活リズムが崩れがち夏休みの時間の使い方について徹底リサーチしている。

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難関大学の学生の多くが、「小学生時代に親に勉強しろと言われたことがない」と話す。彼らは親に「早く勉強しなさい!」などとうるさく言われなくても勉強したということだろう。現役小学校教諭の著者が語る、自ら机に向かう子どもの親の習慣とは?

■親の夢「自ら机に向かう子ども」をどう育てるか?

「宿題は終わったの?」
「早く勉強しなさい!」
「いつになったら始めるの!?」

こんな言葉を口にした後、子どもからどんな反応が返ってくるでしょうか。
しぶしぶ始める子、「はーい」と気のない返事をしてだらだら机に向かうだけの子、あるいは、親のいらついている気配を感じてさっと逃げてしまう子……いろいろでしょう。

ただ、どのパターンにせよ、「やらされるのが勉強」という子どもの認識が高まることは間違いありません。その結果は、親としても望むものではないはずです。

もしも、こんな不毛なやりとりをすることなく、自ら机に向かう子どもになってくれたら、親としては願ったりかなったり。「勉強ひと休みして、おやつでもどう?」なんて言いたくなるかもしれません。

親が夢見る「自ら机に向かう子ども」の特徴とは何なのか? わが子がそんな存在になるには親はどんな手だてを打てばいいのか? これからひとつずつ見ていきましょう。

親が子どもに望むことの1位は「学習習慣」

【1:なぜ「自ら机に向かう」ことが大切なのか?】

そもそも、親につべこべ言われる前に、子どもが「自ら机に向かう」ことが望ましい理由は何でしょうか。それは、ずばり「学習の習慣を身に付ける」ことが人生を歩む上で極めて重要からです。誰かに命令されて嫌々やる。これは習慣ではありません。現状、学校の勉強に十分についていけるとか、苦手な部分もあるとか、そういうこととは関係なく子ども自身が机に向かう。そうした習慣が子どもの以後の人生に大きな影響を与えます。

ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに関する実態調査 速報版 2014」(参考 http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4340)によれば、小学生の65.3%、中学生の58.1%が「親に言われなくても自分から勉強する」ことが「ある」(「よく」+「ときどき」の合計)と答えています(調査対象者は小学4年生〜中学2年生の子どもとその保護者)。

「自律型学習」の子どもは案外、多いように思えます。しかし、同調査が子どもに関する悩みは何かと保護者に聞くと「学習習慣」という項目を挙げたのは、子どもが小学生の場合は1位(46.7%)、子どもは中学生の場合は2位(51.6%)だった。

子どもが自ら机に向かう習慣が完全に定着しているとは言えないようです。

■「四六時中動き回って遊ぶ生き物」が机に向かうのか?

【2:習慣化の鍵は、親】

では、自ら机に向かう子どもたちは、なぜ向かうのでしょうか。「学習の習慣を身に付ける」ことが大事だと思っているから、ではありません。

子どもは自然に自ら机に向かうようになることは、まずありません。なぜなら、子どもは本来「四六時中動き回って遊ぶ生き物」だからです。いわゆる「多動」が普通なのです。机に向かって座っているのは本来「不自然」なのです。

過去の原稿でも繰り返し伝えているように、教育とは「自然を自然のままにしておかないこと」です。「不自然」を求めるのですから、適切な“外力”が必要になります。

一度きちんと習慣化さえしてしまえば、子ども本人もやらないと気持ち悪い状況になります。歯磨きと同じです。子ども自身が明確な目的意識(◯◯だから自分は勉強する)を持ち始めるのは、ずっと後のことでしょう。そこで鍵になるのは、親です。

親はどのように習慣化のきっかけを作ってあげればいいのでしょうか。

親自身が「学習=楽習」を実践すれば子は真似る

【3:遊びの延長としての学び 学習は楽習】

ところで、親であるあなた自身は、勉強に対してどういうイメージがありますか?
勉強を「我慢するもの」「つまらないもの」と考えていませんか。今でも、日々の勉強を楽しむ習慣がありますか。仕事に関することでも趣味でも何でもいいのです。最近、何か興味のある分野について本を読みましたか?

「入試をパスするまでが勉強」という捉え方をしている以上、勉強は「苦行」でしかありません。私は「勉強」よりも「学習」という言葉のほうがいいと思っています。「勉強」は、強いて勉める、つまり、我慢するイメージがあります。

一方、「学ぶ」の語源は「まねぶ」。真似をすることです。小さな子どもたちは、そうしたくて勝手に真似をする、つまり、学ぶのです。

子どもはこの世に産まれてからずっと周りの人物にすべてを学び、そして真似ます。その最も身近なお手本の存在が、親です。

自分自身が全く本を読まないのに、わが子に「本ぐらい読め」と強要する親もいるようですが、これは論外です。子どもは親の背中を見て育つのですから、それで読むようになるはずがありません。

わが子が自ら机に向かう習慣づくりのために、親が真っ先に行うべきは、親の側が自ら机(リビングテーブルなど)に向かう習慣、すなわち学んでいる姿勢を見せることです。学ぶことがたまらなく楽しい状態、学習を「楽習」と捉えることです。親が、その姿勢を背中で示しましょう。

■子どもを自ら机に向かわせる「仕掛け」とは?

【4:学びに向かう環境づくり どこで勉強すればいいか】

とはいえ、子どもを自ら机に向かわせるのは至難の業です。それなりの「仕掛け」が必要です。自ら机に向かう習慣の環境づくりです。

たとえば、「机」をどこに置くか。これは意外と大切です。家庭教育に関する知識が普及し、リビングルームに子どもが勉強できるような机を置く家庭が多くなりました。これなら親の目も行き届き、やっているかどうかもよくわかります。すぐそばにいるので、声かけもしやすく、教えやすいです。ひとりでいることが不安な子どももいるので、特に小学校の低学年までには効果的でしょう。

リビングルーム勉強が向いている学年は?

しかし、「リビング勉強」は落とし穴があります。小学校も高学年以降だと、同じ環境が必ずしもいいとは限らないのです。

まず、小学生高学年だと家に帰ってくる時間が遅くなります。帰宅後すぐに習い事がある場合もあるでしょう。そうなると、当然自宅の机に向かう時間は遅くなります。さらに、大好きなテレビ番組の時間とかぶるかもしれません。いや、自分が興味なくても、家族の誰かがテレビを見たりゲームをしたりするかもしれません。

その場合は、やはり自分の部屋など雑音に邪魔されない空間のほうが集中できる可能性が高まります(特に弟や妹がいる場合は要注意です)。また、高学年になると内容も難しくなってきて、親のほうがうまく教えられなくなることも増えます。

教えられたとしても子どももそろそろ思春期に突入し、反抗的になって親のアドバイスを素直に聞かなくなってきます。その時に、親が近くにいると、つい口出ししたくなっていまい、余計に学習意欲を下げることにもなりかねません。

そうなると、仮に机に向かう習慣が身についていても、外的要因によって崩れる可能性が出てきます。「今のわが子」に合うのはリビング机か、自分の部屋の机か。「机がどこにあるべきか」という視点は、習慣化を考える上で大切です。

■「いつ勉強するか」子どもの“忙しさ”別の決め方

【5:いつ、どれぐらい勉強するか ルールを決める】

先に述べたように、机に向かうという子どもに「不自然な行為」を求める以上、最初のうちは一定のルールを親が子どもと相談して決めることが必要です。その後、親とのルールのいらなくなる「自ら」決める状態を目指します。

重要なルールは、「時」です。いつ、どれぐらい勉強をするのか、ということです。

労働時間制度になぞらえると「固定時間制度」「フレックスタイム制度」「裁量労働制度」のどれに近い形をとるかということです。わが子の個性と生活スタイルに合わせ、どの選択が正しいか親もいっしょに考えてます。

「固定時間」が合うのは、曜日によって帰宅時間などがぶれないお子さんの場合です。同じ時間に同じように机に向かえるので、最も早く習慣化ができます。また、気分によってやる気が左右されやすいお子さんの場合も、はっきり時間が固定していた方が習慣化しやすいでしょう。

「フレックスタイム」が合うのは、この逆の場合です。ある曜日は自分の時間がたっぷりあるけど、ある曜日はほとんど自分の時間はない、というお子さんの場合です。習い事などが多くある場合、こうなりがちです。机に向かう時刻も勉強時間も、ある程度柔軟に設定する必要があります。自分で考えるのが難しいお子さんの場合や、やる気にぶれの出やすいお子さんの場合、この時間管理のアドバイスや声かけを親がしてあげるのが賢明でしょう。

そして「裁量労働制」が合う場合。これは、もう「自ら机に向かう習慣」が身についている子どもです。自分でやるべきことの管理ができ、こちらが指示する必要のない、ルール不要の状態です。最も理想的ですが、「それができるなら苦労ない」ので、今回は取り上げません。最終的に、中学生までにここを目指します。

自ら机に向かってもご褒美をあげてはいけない

【6:ご褒美も叱責もいらない すべては自分のため】

冒頭でも少し述べましたが、そもそも子どもが「自ら机に向かう習慣」を身に付けるべき理由は何かと言えば、「自分のため」以外にありません。親を喜ばせたり納得させたりするためのものでは決してないのです。

ですから、親は机に向かっているわが子を無条件に褒めればいいというものではありません。前出のベネッセの調査では、ふだん子どもとどんな関わりをしているか保護者に聞くと、1位は「勉強を頑張っていれば褒める」(小学生の親92.8%、中学生の親89.3%)だった。もちろん、適切に声をかけ褒めることは悪くありません。しかし、ご褒美のおやつやゲームの時間は、一時的に効果は出ても、本来の目的とは全く離れます。もちろん、逆に、しかってなだめすかして何とかやらせても、やっぱり目的から外れます。

■「勉強しなくても別に構わん。中学出たら働けばいい」

極端な話、「勉強をさせようとしない親」でも、大丈夫なのです。事実、超名門と呼ばれるような大学に通う学生の多くが「勉強しろと親に言われたことは一度もない」と口をそろえて言います。これは、日本だけでなく、世界共通のことのようです。

私も「超名門」というほどではないものの、地方の国立大学に現役で入学しています。考えてみれば私自身も、親に一度も「勉強をしろ」と言われたことがありません。そして、中学生までに学習習慣は身についていました。

私の父は、私が小学生の頃から「勉強しなくても別に構わん。中学出たら働けばいい」と笑って言っていました。これは笑い話ですが、大学受験の勉強中、この父はたまに帰ってくると、私の部屋でゲームをしていたという豪快な逸話を持つ人物です。

しかし、そんなことで私の勉強の手は止まりません。その頃には自分にとって学習が「必要」と判断していたからです。親がしたのは、きっかけとして、通信教育の教材をとることを許可したことぐらいです。習慣化の勝負は、中学生までについていたのです。

「母さんは、バカだからさ」と机に向かった母親

【おわりに】

ここまで、自ら机に向かう子どもにするためのアイデアを述べてきました。しかし繰り返しになりますが、何より親ができることは、「勉強をしろ」ということよりも、その環境を整えて見守ること。

先に例に挙げた私の父も、思えば寝る前に建築に関する勉強をしている姿をわが子に見せていました。母は、「母さんは、バカだからさ」といって、机に向かって、やはり看護に関する勉強をしていました。親自身の姿は、最高の家庭学習環境です。

まずは親である自分自身が勉強、学習を楽しむ姿を見せることから始めてみませんか。

(国立大学附属学校 小学校教諭 松尾 英明)