柏レイソルのサポーターの中には、2010年8月から2011年末まで在籍したブラジル人CFホジェルを覚えている人がいるのではないだろうか。

 大柄だが柔らかいテクニックを持ち、タイミングを見計らってスペースへ走り込み、強烈なシュートを放つ。空中戦にも強い。サンパウロ、パルメイラスといったブラジルを代表するクラブで中心選手として活躍し、サウジアラビア、韓国でもプレーした。

 今年初めにはリオの古豪ボタフォゴへ移籍し、5月末、ブラジルカップ4回戦でチームをベスト8に導く貴重な得点をあげた。後方から浮き球のパスを受けると、絶妙のキックフェイントで相手CBを地に這わせ、飛び出してきたGKの頭上を巧みに抜いた。試合後、本人も「自分のこれまでのキャリアで最も美しいゴール」と語っていた。


ブラジルで一躍時の人となったホジェル

 この試合を中継したブラジルのテレビ局グローボのスタッフは、あることを伝え聞いた。それはホジェルの11歳になる長女ジュリアさんが生まれつき全盲で、大好きな父親のゴールをいつも音声で聞いて想像しているということだ。

 彼女に父親のゴラッソ(スーパーゴール)を肌で感じさせてあげたい。そう考えたスタッフは、(1)ホジェルがフェイントでCBをかわし、(2)GKの頭上を破るループシュートを放ち、(3)ゴールが決まってチームメイトと抱き合って喜んでいる、という3つの場面について、最新の3D技術を使って画像を彫り込んだ立体板を専門業者に特注した。

 6月下旬、この試合のテレビ中継を担当したアナウンサーが、リオ市内のホジェルの家を訪れ、ジュリアさんに立体版を手渡した。

 ジュリアさんは興奮を隠せない様子で、父親の助けを借りながら指で立体板をゆっくりなぞる。「これがパパで、ボールがここにあるのね」「ここでスライディングしてきたCBをかわし、右足でシュートしたのね」「ああ、パパが膝まづいて、左手で天を指して神様に感謝している。それをチームメイトが取り囲んで、祝福してくれているのね」と、一連の動作を確認。「生まれて初めて、パパのゴールを自分の手で感じることができたわ。最高に嬉しい!」と叫んだ。

 ホジェルも「これほど価値のあるプレゼントをもらったのは、生まれて初めて」と目を潤ませていた。

 この模様は翌日、グローボ局の昼の人気スポーツ番組で放映され、大きな反響を呼んだ。スタジオの司会者も思わずもらい泣き。「感動した」「妻や子供と抱き合って泣いた」「すばらしいレポートだった」といった声がブラジル全土からテレビ局へ寄せられた。

 ジュリアさんは、一躍、有名人になった。6月末、ボタフォゴの本拠地で行なわれたブラジルリーグの試合の前にホジェルと一緒にピッチに入ると、総立ちの観衆から「ジュリア!ジュリア!」の大合唱。「みんなが私の名前を叫んでくれている。信じられないわ!」と父親に抱きついた。

 ホジェルは、「この子が生後3カ月ほどで目が見えないとわかったとき、私と妻はパニック状態に陥った。必死になって、いい病院や医者を探し、ありとあらゆる治療法を試したが、結局、彼女の視力の問題を解決することはできなかった。しかし、たとえ目が見えなくても、いつも明るく愛らしいジュリアを見ていて、この世で起きるすべての事柄は神様の思し召しなのだ、と思うようになった。私たちはジュリアにいつもありったけの愛情を注いでいる。この子は一家の宝物。これほど素晴らしい子を授かって、本当に幸せだ」と語っている。

 普段、我々は当たり前のようにサッカーを観戦し、一喜一憂する。しかしジュリアさんのように、どれほど試合を見たくても、生涯で一度も見ることができない人もいる。

 以前、やはりブラジルのテレビ番組が、全盲のサッカーファンが友人の助けを借りてスタジアムへ足を運び、スタンドの雰囲気を味わいながら試合を”観戦”し、ひいきチームのゴールに周囲の人たちと抱き合って喜ぶ姿を伝えていた。

 彼は「ここへ来ると、たとえプレーを見ることができなくても、テレビ中継とは全く異なる感動を味わえるんだ。他のサポーターと交流するのも楽しい」と嬉しそうだった。サッカーには、様々な楽しみ方がある。

 健常者であることとハンディキャップを持つこと、親子の愛情のあり方、スポーツの多様な楽しみ方……ホジェルとジュリアさんのエピソードは、我々に多くのことを教えてくれた。

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