アメリカ政府は、7月4日に北朝鮮が発射し日本の排他的経済水域内に落下した弾道ミサイルは、米国まで到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)であったことを認めました。しかし肝心のトランプ大統領は、なんとも煮え切らないツイートを繰り返すだけで具体的な行動を起こす様子はありません。あの強気の大統領がなぜ? その理由について、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で世界情勢に詳しい北野幸伯さんが持論を展開しています。

北朝鮮ICBM発射で何が変わった?

皆さんご存知だと思いますが、北朝鮮は7月4日、「大陸間弾道ミサイル」(ICBM)の発射実験をしました。これで、世界情勢は、何が変わったのでしょうか?

まず、経緯から見てみましょう。

北、ICBMは核弾頭搭載可能と主張 金氏「米独立記念日の贈り物」

7/5(水)8:13配信

 

【AFP=時事】(更新)北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は5日、前日に発射に成功したと発表した大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、大気圏へ再突入できる「大型で大重量の核弾頭」を搭載する能力があると報じた。金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長がICBMは「米国のろくでなしどもへの贈り物」と述べたとも伝えた。

発射に成功したのは、

ICBMで核弾頭を搭載する能力がある

と宣言しました。「またまたまた〜〜。いつものホラでしょ?」。ところが、アメリカ政府も、「あれはICBMだった」と認めています。

米政府、北朝鮮のICBM発射実験を確認

BBC News Japan 7/5(水)11:14配信

 

北朝鮮が4日に発射した弾道ミサイルについて、米政府は同日、北朝鮮が主張しているとおり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)だったと確認した。レックス・ティラーソン国務長官は、米国や世界に対する「脅威がさらに深刻化した」とし、米国は「核武装した北朝鮮を絶対に容認しない」と述べた。

さて、北朝鮮がICBM発射実験に成功した前と後で何が変わったのでしょうか? 答えはこれです。

米政府関係者は、北朝鮮のミサイルがアラスカ州まで到達できるようになった可能性があるとみている。

(同上)

「北朝鮮のミサイルがアラスカ州まで到達できる」

別の言葉で、「北朝鮮は、アメリカをミサイル攻撃できる」。ひょっとしたら、「北朝鮮は、アメリカを【核攻撃】できる」。これが、2017年7月4日前と後の、巨大な変化です。

状況は、もっと悪くなる

北朝鮮が、初めて「地下核実験」を実施したのは、2006年10月。当時、「専門家」は、「あれは、ホントに核兵器なのかわからない」などと言っていました。

あれから11年が過ぎた。北朝鮮が核兵器を保有していることを疑う国はありません。そして、ICBMの発射実験に成功したこと、アメリカも認めている。このままだと、北朝鮮の技術はますます進歩し、5年後には「アメリカ全土を核攻撃できる能力」を獲得するかもしれません。つまり、アメリカにとっての状況は今後、「悪くなる一方」なのです。

現状見ると、北朝鮮のミサイルが届くのはアラスカまで。ホントに核を搭載できるか、わからない。この先、状況がますます悪くなることを考えると、「アメリカが北朝鮮を攻撃するなら、今しかない」といえます。しかし…。

人質になっている韓国人100万人

論理的に考えれば、アメリカが北朝鮮を攻めるなら今です。では、なぜアフガン、イラク、リビアのように、「サクッと」攻撃できないのか?

アメリカが北朝鮮を攻撃しても、今なら、北がアメリカ本土に反撃することは、ほとんどできないでしょう。しかし、北朝鮮は、韓国を攻撃できます。それで、「最低100万人の韓国人が殺される」と言われている。この犠牲を考えると、アメリカ軍は戦争を始めることができない。つまり、韓国人100万人は、事実上「北朝鮮の人質になっている」のです。

「100万人死ぬ可能性が高い」とわかっていながら戦争を始めるのは、第1に、悪いことです。第2に、「トランプが戦争を開始したせいで100万人が殺された!」と永遠に悪名が残る可能性があります。

アメリカの現状は、

北朝鮮はICBM発射実験に成功し、アメリカを攻撃できる能力を獲得した。現在、北朝鮮が攻撃できる可能性があるのはアラスカだけ。

しかし、5年後には「アメリカ全土を核攻撃できる能力」をもつようになるだろう。つまり、状況はますます悪化し続けていく。よって、北朝鮮を攻撃して、核兵器とミサイルを破壊するなら、今がその時である。しかし、北を攻撃すれば、韓国人100万人が死ぬ。

こういう現状なのです。

オロオロするトランプ

「攻めるに攻められない」状況に置かれたトランプ。4日のニュースを聞いて、以下のような反応をしています。

米国のドナルド・トランプ大統領もミサイル発射から時間を置かずに反応した。トランプ氏は4日、金正恩氏についてとみられるツイートで、「こいつはもっとほかにまともなやるはないのか」と書いた。

(同上)

「いつものように強気なのかな?」と思えます。しかし。

「韓国と日本がこれ以上我慢するとは思えない。もしかしたら中国が北朝鮮にすごい事をして、このナンセンスに一気に終わらせるかもしれない」

(同上)

韓国、日本、中国に責任を押しつけています。実際、日本も韓国も、「これ以上我慢する」に決まっています。北朝鮮は、アメリカだとアラスカしか攻撃できませんが、日本や韓国なら、いくらでも攻撃できるからです。最悪、「核ミサイルが日本に飛んでくる」ことまで想定しなければならない。

「中国がこのナンセンスを終わらせる」はずがありません。北朝鮮の核、ターゲットは、日本、アメリカ、韓国なのですから。そして、中国とロシアにとって北朝鮮は、「アメリカの侵略を止めてくれる、『強い防波堤』『緩衝国家』」です。だから、中国とロシアは、「話し合いによる解決」を主張し続けていくことでしょう。

「100万人の韓国人を犠牲にして、アメリカを守るか?」

「100万人の韓国人の犠牲を回避するために、アメリカ全土を危険にさらすか?」

皆さんが、アメリカ大統領だったら、どうしますか?

image by: Flickr

 

『ロシア政治経済ジャーナル』

著者/北野幸伯(記事一覧/メルマガ)

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出典元:まぐまぐニュース!