◎快楽の1冊
『証言UWF 最後の真実』 前田日明、藤原喜明、山崎一夫、船木誠勝、鈴木みのるほか 宝島社 1350円(本体価格)

 読後の印象を一言でいえば『羅生門』だ。
 むろん焼肉屋の方ではなくヴェネチア映画祭金獅子賞に輝いた黒澤明監督作品の方だ。ある殺人事件をめぐっての裁きの場で、犯人の盗賊、目撃者から被害者の妻、果ては殺された当人の亡霊までが出てくるのに、それぞれ話が全く食い違ってしまうという、あれ。
 アルファベット3文字の団体名が、日本格闘技史上に神話的響きを帯びて語り継がれる集団としていかに誕生し、崩壊、再生ののち分裂したか。当時、渦中にいたレスラーだけでなく、フロントと呼ばれる経営陣や営業職などの裏方、さらには活字で世間に熱狂を煽ったプロレスマスコミ側の人物まで、丹念に肉声取材した編集の目配りが行き届いているのがすばらしい。
 昭和49年生まれの筆者は中学時分が千代の富士全盛期。同じ格闘ファンでもどちらかといえば相撲派として、プロレス好きの同級生と“抗争”を繰り広げたものだが、彼らが揃って授業中にむさぼり読んでいたのが、前田日明著『パワー・オブ・ドリーム』だったのを鮮烈に思い出す。かほどにUWFは“何かヤバいことが起きている”感を巷に与えていたのだ。それにしても、わずかな事実事象一つ取ってさえ、各人各様の解釈とはいえ、かくも異なる様相を呈するものか?
 「本来、まとめちゃいけない話」「見る角度が違えば受け取り方はバラバラになる」…。鈴木みのる氏の語る通りなのかもしれない。“正しい歴史”などあり得ないように。個人的にはその鈴木氏の捨て台詞、「オレにとって大事なのはいま。いつだって昨日の試合がベストバウト」に激しく膝を打ちつつも、脳裏のどこかで“事実は真実の敵”(byセルバンテス)という言葉もよぎること久々。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 江戸の人々にとっての「恋情」は、精神性よりも身体性から捉えられる―前書きにこうつづられる『江戸時代 恋愛事情』(朝日新聞出版/1700円+税)は、主に江戸の文芸書の性描写から当時の恋愛・セックス観を読み解き、現代人との違いを検証しようという書籍だ。
 といっても、決して難しい本ではない。例えば、現代の不倫関連書が、どちらかというと「なぜ不倫するに至ったか」という内面を中心に描かれるのに対し、江戸時代は性行為(セックス)そのものを単刀直入かつ執拗に描いていることを明かしている。つまり、エロ本や官能小説に近い内容だったということだ。
 春画はその代表例だ。常軌を逸した巨大な男根と女性器が結合した部分をあからさまに描いた絵は、当時の人々にとってこの上なく扇情的だったはずだ。
 また江戸初期には「男色」がもてはやされ、武士と歌舞伎役者の若衆との赤裸々な性描写が流行る。ところが後期に入ると、『南総里見八犬伝』の著者として知られる滝沢馬琴が登場し、女性をセックスの担い手とした破天荒な作品を書き始める。
 すると、次第にメイン読者が若い女性へ移っていくという、知られざるエロ史も解説される。こうしたエロに興味を持つ♀たちの出現が、現代女性のセックス観へとつながっていったのだろう。
 現代の“萌え系”といわれる漫画やアニメの源流は江戸時代にすでにあったわけで、日本人はつくづく好色で下ネタ好きだな、と思わずにいられない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)