落合陽一が語る、テクノロジーの進化とエンタメ市場の行方「本物を見抜く審美眼が求められる」

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 人工知能(AI)やVRといったテクノロジーの進歩が目覚ましい昨今。日本でもAIスピーカーやAlphaGo(アルファ碁)、VR(バーチャルリアリティ)施設などのニュースが連日報道されている。それらの技術革新の影響は、音楽業界にも多大な影響を与えており、AIを活用した音楽アプリやVRを利用したライブ体験、プロジェクションマッピングや3Dホログラムを利用した画期的な演出など、音楽を製作する環境も、楽しむ環境も日夜変化を続けている。

 これから先、ますますイノベーションが加速していく中で、これからの日常生活やエンタメシーンはどのように変化していくのか。また、その時にどんな考え方やライフスタイルを心掛けていくことがキーになるのか……今年3月に著書『超AI時代の生存戦略 ーーシンギュラリティ<2040年代>に備える34のリスト』を刊行した落合陽一氏に、これから訪れる一歩先の未来について話を聞いてみた。(編集部)

ーー近年、人工知能やソフトウェアなどのテクノロジーの進歩と共に、音楽の楽しみ方が多様化しています。落合さんは、音楽周りのテクノロジーで注目しているサービスやアプリケーションは何かありますか?

落合陽一(以下、落合):いい意味でも、悪い意味でもApple Musicで音楽の聴き方は明らかに変わりましたよね。曲単位で好みの音楽が聴けるけど、アルバムをフルで聴くことは稀になったし、いつでも手に入る環境だと逆に聴く機会が減ってる人もいるんじゃないかなって。昔は興味のない曲をほとんど聴かなかったけど、今はプレイリストに入っていればとりあえずダウンロードするようになりました。あと、最近は美容院などで流れている曲をShazamで調べることも増えたので、今まで知らなかったアーティストの曲を聴く機会はすごく増えましたね。

ーー定額制の音楽配信サービスやアプリケーションの普及によって、以前より音楽に触れる機会も増えたと思います。最近は作曲アプリを使えば専門的な知識がなくても簡単に作曲できたり、曲調を指定するだけで人工知能が自動で曲を作ってくれるサービスなども生まれていますよね。

落合:メロディやリズム、音色といった音のアーカイブはどんどん増えているし、作曲する際に生じる問題もやがてほとんど自動で解けるようになっていきます。音楽の中でもEDMの作り方はすごく合理的で、音楽分野におけるテクノロジーの進化を象徴しているように感じます。楽曲の制作スピードも年々加速していて、きっと10年前ならここまで爆発的なブームになることはなかったんだろうなって。作曲の作業工程が減った分、音のディテールや音質など、別の部分に時間を割けるようになりますよね。

ーークリエイティブの意味も変化していると思いますか?

落合:ひと昔前のクリエイティブは特徴的なモチーフのあるパターンを作ることでした。でも今はパターンよりもフレームワークを制作する方が重要視されていて、もう一段階メタ的な話になっています。“クリエイティブ”という言葉を聞くと、多くの人が絵を描くことや文章を書くことを連想しがちですが、すでにディープラーニングを含む、機械学習手法でもそれらの生成には成功しています。ただ、人工知能はフレームワークの中だと人間の想像力を越えますが、アイデアや問題提起といった要素をフレーム内に追加することはできませんし、外れ値のような行動もほぼ起こしません。いまのところメタなフレームワークを考えるのは、機械よりも人間の方が優位だと言えます。

ーークリエイティブの意味が変わり始めていく中で、作家側に求めらるものも変化しますか?

落合:ピクサー(アニメーション・スタジオ)みたいに、最新のテクノロジーを利用したプロダクションプロセスで、良質なアニメーションを作るのは21世紀的な方法です。クリエイティブなフレームワークを作って、その中でスタッフやテクノロジーを組み合わせて、何通りものパターンを量産していく。これはEDMにも言える構造ですし、日本のアイドルにも通ずる量産プロセスだと思います。逆に、オリジナリティを追求する人ほど、かける工数を間違えている気がします。これまでテクニックだけで生きてきた人は残りにくく、プロデュース力や独自のセンスを持つ人材がこれからは残りやすいでしょう。さらに言えば、コンピュターとの親和性の高いクリエイターが、より能力を発揮できる時代になってきています。

ーー近著書『AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』では、これから来るであろう新しい時代に対する考え方や生き方、働き方などについて書かれていました。なぜ、このようなテーマを選んだのですか?

落合:2015年に上梓した『魔法の世紀』の続編(『デジタルネイチャーと幸福な全体主義』)をいま執筆していて、その前哨戦のような位置付けで書きました。これからテクノロジーが進歩して新しい時代が来た時、個々の生き方も確実に変わっていくと思いますが、それをきちんと理解している人は少ない。本書では、そんな生き方や考え方といった概念的なものを実生活に落とし込み、現在とこれから来るコンピューター時代における思考の違いを解説しています。

ーー生き方が変わるというのは、具体的にどんな部分を指しているのでしょうか?

落合:人工知能によって市場の価値観は間違いなく変わります。でも、市場や投資、経済成長率といった経済活動に関心を持たない方が多いので、日本人の経済感覚はもう少し押し上げていく必要があるんじゃないか、と。たとえば、“イノベーション”の意味を誤解している方は多いです。イノベーションは直訳すると“技術革新”という意味ですが、テクノロジーの進歩のみを指す言葉ではなく、経済市場や社会に大きな影響を与えるアイデアや活動を指す“経済用語”です。実際、iPhoneは技術的には新しくないけど、人と人、人とモノを新しい形で繋げることで経済市場を活性化し、イノベーションを起こし続けていますよね。

ーー見方を変えて既存のテクノロジーに新しい意味を与える、ということですね。

落合:そうです。たとえば「“WEB2.0”が何を指すかわかりますか?」と日本人に質問すると、大体は“2ちゃんねる”と回答します。確かに“2ちゃんねる”も“対話型WEB”を利用した画期的なシステムのひとつですが、それ以外にもAmazonのレビューやFacebookのようなSNSを作ったりと、“WEB2.0”では対話型WEBを違うインターフェースに落とし込むことで、次々に新しい価値創造が行われてきました。テクノロジーの進化以外に目を向けたことでWEBブームが始まったように、見せ方や仕組みを変えるだけで経済効果が大きく変わるという感覚を身につけなければ、今後の日本の経済市場においてイノベーションは起きにくい。

ーー経済感覚を高めることは、新しい作品や価値の創造に繋がるということですね。経済感覚の低下が起きた要因をどのように考えていますか?

落合:戦後に起きた変革が原因のひとつだと考えています。明治維新からの急速な発展を考えると、当時の日本人は鋭い投資感覚を持っていたと言える。ただ、戦前の否定から戦後が始まってしまったため、戦前の良かった点や残すべき点を議論しきれなかった可能性があります。昭和の後半は、投資よりも自動車や電化製品などの生産性が一気に加速し、日本経済の発展に寄与しました。僕は“エジソンフォード型社会”と呼んでいるのですが、全員が平等に働くことで、極めて生産性の高い社会システムが構築された。でも、その投資スタイルや教育スタイルは90年代以降に上手くいかなくなります。なぜなら、あらゆることがソフトウェア化されたことによって平均的な人間の需要が減り、外れ値のような人材が求められるようになったからです。これからは平均的な教育から多様性のある教育へ……日本が一定の経済発展を遂げたからこそ、改めて議論すべきだと考えています。

ーー本書は若い世代へのメッセージとも言えますか?

落合:経済や投資の読み解き方は、本来であれば小学校から中学校くらいで習うべきことなのに、大学卒業後や社会に出てから気づくことが多いです。それに本書を読んでいただければ、『魔法の世紀』の続編もより理解しやすくなるはずです。

ーー話は変わりますが、落合さんはSEKAI NO OWARIやONE OK ROCKといったアーティストと積極的にコラボレーションを行っています。落合さんの音楽を着るという発想から生まれた「WEARABLE ONE OK ROCK」をはじめ、プロジェクションマッピングやバーチャルリアリティがライブに利用されるなど、鑑賞側の楽しみ方も多様化しています。

落合:プロジェクションマッピングのように、音楽を劇場化する手法は増えましたね。もっと身体性に特化したものや、個別化したものもあれば良いなとは思います。空間スピーカーやヘッドフォンといったガジェットを効果的に活用するとか、ライブ会場ではななくレストランやクラブハウスのような限られたスペースを使うのも面白い。ただ、みんなポップなものを狙いにいくので、本当に良いものも埋没しがちです。埋もれないためには主流とは別の方法でポップなものを作らなければいけないし、受け取る側も本当に良いものなのかを見極める必要がありますよね。

ーー埋没しないためにも、落合さんのような別ジャンルのアーティストとコラボするんですよね?

落合:書籍の中でも“ブルーオーシャン(未開拓な市場)”の重要性を書きましたが、多様化社会が加速する今、各個人も違う方向へと進んでいくことが大切です。たとえば、液晶ディスプレイそのものを作るのはレッドオーシャン(競争の激しい市場)だけど、液晶ディスプレイを使って独自のブランド商品を展開していくことはブルーオーシャン戦略のひとつのやり方です。ひとつのパイを取り合うのではなく、パイを広げていくことを思考する。ジャンルの異なるクリエイター同士がコラボするのも、それと同じ意味を持つと思います。

ーー落合さんはコラボする際に意識することはありますか?

落合:僕はメディアアーティストなので、仕事はあくまで装置や現象を作ること。モチーフや作家性を持ってしまうとメディアアートではなくなってしまうので、コンテンツとの距離感には気をつけています。あとはコラボする対象に対する深い理解と造詣がないと厳しい。

あと、いつも学生には、ポップなものが作りたいのであればテレビやSNSで情報を収集した方がいいと教えています。一般の人と同じことを言ってはいけないが、世間の意見がわからなければ面白いものも作れませんから。

ーー鑑賞側はどのように向き合っていくべきでしょうか?

落合:作品が持つエモさ(感情の揺れ動き)を理解して、良し悪しを明示できる能力を持てると良いでしょう。ポップなものが量産されている時代だからこそ、本物を見抜く審美眼のような能力が求められます。(アメデオ・)モディリアーニと(パブロ・)ピカソの絵の区別がつくか、(フィンセント・ファン・)ゴッホが何年頃に描いた絵なのか判断できるか、芸術作品を知識ではなく雰囲気から読み解けるよう心掛ける。絵を判別するのはコンピューターの方が得意ですが、目の前にピカソ的でモディリアーニ的な新しい作品が出てきた時、それが良い作品だと言えるのは人間にしかできませんから。

ーー最後に、今後はどんな人物像が必要とされると思いますか?

落合:機械との差別化という意味でも、今後は外れ値のような行動を取れる人が優秀とされていくでしょう。ただ、他人と違うことをするのは非常にリスキーなので、そのリスクを取れるだけのモチベーションを持っている人が、時代に求められるのではないでしょうか。(泉夏音)