「高齢者のてんかんは、本人に自覚がありません。家族が認知症かもしれないと疑っていることも少なくない。実際に認知症になりかかっていることもあるので厄介です」
 こう語るのは世田谷井上病院理事長の井上毅一氏だ。

 てんかん持ちのドライバーが運転中に発作を発症し、事故を起こすケースが相次いでいるが、高齢者の場合、自分がてんかん持ちだという自覚がなく、ハンドルを握ることもある。
 てんかんは、痙攣や意識を失う発作を繰り返す脳の病気で、通常は自覚がある。ところが、50歳以上で新たに発症し、病気だと気づかないまま交通事故を起こしたり、記憶力の低下で認知症と間違われたりするケースもあるのだ。
 「てんかんを持つ人は珍しくはありませんが、なかなか周囲に打ち明けられず、1人で悩んでいる場合も多い。その意味でも、誰もが発症しうる病気ということを知っておかなければなりません」(医療関係者)

 入院患者に高齢者が多いという井上氏が、てんかんについて説明する。
 「脳の神経細胞が、様々な理由から一時的に異常に興奮することにより、痙攣などを引き起こします。日本では人口の1〜2%程度の患者がいるとされ、乳幼児期の発症が最も多く、成人になると発症率が低くなり、50歳を超えると脳血管障害などで再び発症率が高くなります」

 高齢者に多いのは、記憶や聴覚を司る働きをする側頭葉が原因の部分てんかんだという。しかし、その場合は全身の痙攣は起こらず、日常生活の中で、突然、10数秒から数分間、意識が消失するのだ。
 「話し掛けても生返事をしたり、目を見開いて口を動かしたりするんです。しかも、発作の間のことは覚えていないため、病気に気付かない人もいるのです。放置しておくと、記憶力が次第に低下し、認知症やうつ病と診断されてしまうケースもあります」(井上氏)
 問題なのは、そうした誤診が起きることだ。

 東京都内に住む女性、A子さん(49)は、子育ても終え、夫(61)と趣味の旅行や園芸を楽しむセレブ。近所に住む娘に代わって孫の保育園の送り迎えが日課になっている。そんなAさんの様子が最近、おかしいことに夫が気づいた。呼び掛けても生返事で、しかもその翌日、知人とお昼から飲み会を開くことになっていたのだが、それを娘にも夫にも告げていなかったのだ。
 そして、そうした出来事が何度も続いた。