トミックの波紋を呼んだ発言は、今後の彼を変えるのか [ウィンブルドン]

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 バーナード・トミック(オーストラリア)は現在、新しいラケットスポンサーを探している。

 彼は「ウィンブルドン」1回戦敗退後の記者会見で言った、信じられないほど考えなしのコメントゆえに、ウィンブルドンのオフィシャルから1万5000ドルの罰金を言い渡されたあと、スポンサーだったヘッドにも見放されてしまった。

 もし前科がなかったら、『罪』と申し立てられた今回のトミックの振る舞いは、正直すぎて自分のためにならなかった行為として見逃されていたことだろう。しかし、彼がミーシャ・ズベレフ(ドイツ)に対する1回戦で、勝とうと努めるモティベーションを見つけられなかったと認めたあと、同僚のプレーヤーたちは、この短気な元ジュニア・スターをサポートするために力を合わせようとはしなかった。

 トミックが言ったことが、彼らがテニスに関して信じているすべてに反しているときに、どうしてサポートなどできるだろうか。生計を立てるためにボールを繰り返し打ち返している誰かから、このような言葉を聞くというのは、やや驚きだった

「トロフィーを掲げようが、あるいはいいプレーをしようが、そんなことではもはや満足感は得られないと感じている」と、トミックは言った。「そこには何もないんだ。僕は全米オープンの4回戦に進もうが、1回戦で負けようが、どっちでもかまわない。僕にとってはすべてが同じことだ」。

 もしかすると彼は、いわゆるバーンアウトの状態に陥っているのかもしれない。我々は、より普通の仕事についてはいるとはいえ、こういったことは、我々の誰にも起こり得ることだ。しかし、とどめの言葉は、いっそう悪かった。

「僕はここからさらに10年間プレーするだろう。そしてキャリアのあとには、もうふたたび働かなくても済むのだとわかっているんだ」とトミックは言ったのである。

 確かに(1回戦出場の賞金4万5000ドルから、罰金の1万5000ドルを引かれたとしても)、彼はたぶん引退後に働かなくても済むのだろう。24歳の現時点で、トミックのキャリアを通しての賞金は500万ドルほどだ。そして彼は明らかに、自分がロジャー・フェデラー(スイス)のように7つのウィンブルドン・タイトルを獲ると思ってはいない。

 憶えているかもしれないが、彼は昨年のある試合の最後のポイントを、ラケットのグリップの底を使って打とうとした。より正確に言えば、ラケットのストリングの張ってある側を手に持ってサービス・リターンの構えに入り、事実上、最後のポイントを捨てたのである。

 彼はまた、2014年に、たった28分で試合に負けた選手でもある。コート上で何とか勝とうとする努力の欠如ゆえ、オーストラリアのプレスは、彼のことをあざけり、機関車トーマス(英:ザ・タンクエンジン)にちなんで、『機関車トミック(トミック・ザ・タンクエンジン)』とあだ名した。

 トミックはかつて、次代のオーストラリアのテニスの偉人になると考えられていた。これは、誰にとっても対処が難しい遺産だとも言える。ジュニアの各カテゴリーで際立つ成績を挙げたあと、彼は昨年ATPランキングで17位にまで上ったが、このウィンブルドン開始時には59位だった。そして彼はその人生を通し、自分と妹をテニスのスターに育てた、高圧的な父親と関わりながら生きていかなければならなかった。

 どこかで彼は戦う意欲を失ってしまった。どこかで、テニスが(感情などのない)実際的な仕事のようになってしまったのだ。

 それでも、そのコメントの2日後にトミックに罰金を科す、というウィンブルドンの決断は少しやりすぎであるように思える。彼は癇癪を起して罰金を科せられたダニール・メドベデフ(ロシア)のように、主審に向けてコインを投げたわけではないし、かつてジョン・マッケンロー(アメリカ)が盛んにやっていたように、判定を不服として審判を怒鳴りつけたわけでもない。

 彼はただ、どうでもいい、と思っていただけだ。ところがそれは、むしろいっそう悪いこととみなされた。

 しかしながら、それ以上に興味深いのは、ラケットメーカーのヘッドの反応だ。この会社は直ちに彼との契約を打ち切り、トミックを捨てるのに一瞬も待てない様子だった。

「彼の意見は、我々のテニスに対する姿勢、我々の情熱、プロフェッショナリズム、競技への敬意をまったく反映していない」と、ヘッドはリリースの中で言った。

 しかしこれは、マリア・シャラポワ(ロシア)が薬物使用で出場停止処分を受けていたときに、彼女をサポートし続けていたのと同じ会社なのだ、ということを思い出してみてほしい。彼女の出場停止処分が短縮されたとき、公に喝采を送っていたのと同じ会社なのだ。

 偽善は、スポーツ界で最高位に位置しているテニスにおいても例外ではない。シャラポワはキープする価値のあるスーパースターであり、一方のトミックは上昇傾向がほとんどない、かつて将来有望とされていた選手に過ぎないのだ。

 トミックを、最高水準のテニスのプレッシャーに対処できなかったプレーヤーとして片づけてしまうのは、あまりに短絡的だ。我々は彼の子供時代を体験しておらず、彼の心の中で本当は何が起きているかについて何も知らないのだから。

 しかし、ファンたちはウィンブルドンのチケットを買うためにかなりの額を払っているのであり、勝つことに心を割いて戦う選手を見る権利があるだろう。トミックはそんな選手ではない。しかし皮肉なのは、もし彼がよりずる賢く、自分の考えを自分の中だけにとどめていたならば、彼はさよならを言う以上のことをする必要もなく、無事に町から去ることができたはずだった、ということなのだ。

 もしかしたら、こんなふうになったほうがよかったのかもしれない。これはトミックに、スポーツをして生計を立てられる自分がいかにラッキーかを気づかせる"モーニングコール"、目覚ましの警告となるのかもしれないのだ。

 さもなければ、彼の競技を軽視する姿勢のせいで、あと10年間プレーして余生のために万端に備えるという彼のプランは、うまく実現しないかもしれない。そしてそうなれば、彼は実際に仕事を見つけなければならなくなるかもしれないのである。(AP◎ティム・ダルバーグ、翻訳◎テニスマガジン)

※写真は「ウィンブルドン」1回戦を戦ったあとの記者会見での振る舞い、発言内容が、大会からの罰金、ラケットスポンサーの打ち切りと発展してしまったバーナード・トミック(オーストラリア)(写真◎Getty Images)
Photo: LONDON, ENGLAND - JULY 04: Bernard Tomic of Australia plays a backhand during the Gentlemen's Singles first round match against Mischa Zverev of Germany on day two of the Wimbledon Lawn Tennis Championships at the All England Lawn Tennis and Croquet Club on July 4, 2017 in London, England. (Photo by David Ramos/Getty Images)