理想的な「グッド歩行」のやり方を解説

 加齢とともに生じる膝や腰の痛みで、“歩きたくても歩けない”という状態に陥ってしまう人は少なくない。その悩みを解消するためのカギは「股関節」にあるという──。

「股関節は身体の中で最も大きく、最も酷使されている関節です。立つ、座る、そして歩くといった日常生活のあらゆる動作において、大きな負担を受け止める“要”の役割を担う。だからこそ股関節を健康に保つことが大切なのです」

 そう話すのは、石部基実クリニック院長の石部基実氏だ。石部氏は2月に刊行された話題書『健脚寿命を延ばして一生歩ける体をつくる!』の著者で、現役医師である(以下「」内は石部氏)。

 年間600人以上の手術を担当し、“股関節のスーパードクター”の異名を持つ石部氏は、その経験から「人間は股関節から老いる」と実感している。

「股関節を痛めたり、そのままの状態を放置したりしていると、膝や腰といった別の関節に負荷がかかり、痛みの原因になる。そうした悪循環に陥っている場合、原因が股関節にあるので、いくら膝や腰の治療をしても痛みが治まらないという事態を招いてしまう」

 股関節の痛みを抱えて石部氏のもとを訪れた61歳男性・Aさんは、50代になって腰から脚のつけ根にかけて痛みを感じ始めたという。

 はじめは「立ち上がる時に痛みを感じる」程度だったため放置していたが、次第に痛みは増し、定年を迎えた頃には歩くのも辛い状態になっていた。こうなると、いくら“適度なウォーキングが体にいい”とわかっていても実践できない。

 Aさんに下された診断は「変形性股関節症」だった。

「股関節は骨盤の両側にある臼状のくぼみ(臼蓋)に大腿骨の球状の先端(大腿骨頭)がはまりこんでいて、それぞれの骨の軟骨が潤滑油の役割を担っています。ところが、加齢などで軟骨がすり減ると、骨同士が接触して、痛みが生じる。これが変形性股関節症です。放置して重症化すると完全に歩けなくなることもある」

 日常生活を送るなかで、股関節に負荷が蓄積されるのは避けようがない。

「だからこそ、立ったり座ったり、歩いたりといったひとつずつの動作で、少しでも負荷をかけないように意識することが、老いても“健脚”を維持するために必要なことなのです」

◆「足音」を気にしてみる

 とりわけ重要となるのが「歩き方」だ。石部氏によれば、股関節にかかる負荷は、立っている時で体重の0.6〜1倍程度だが、歩行時は3〜4.5倍にもなる。それだけに、正しい「歩き方」か否かは大きな違いとなる。

「まずNGなのは『すり足歩行』です。股関節や膝に痛みがあったり、脚の筋力が衰えているお年寄りに多い歩き方ですが、脚全体で着地の衝撃を吸収することができません。つまずいて転倒する危険性も高まってしまいます」

 靴を履いて歩く時に、ズルズルと足音がする場合、注意すべき兆候といえる。歳を重ねて歩く時の姿勢が猫背や前傾気味になっている場合も気をつける必要がある。

「腰に負担がずっしりとかかり、股関節にも大きな負荷になる。無駄なエネルギーを使うことにもなり、歩いていて疲れも溜まりやすくなります」

 前述した「変形性股関節症」が進行した場合のサインとして、『肩が水平でない』ことも挙げられる。

「片方の股関節が悪くなって痛みが出ると、使うのを避けるようになり、その股関節周囲の筋力が低下する。とくに中殿筋という股関節の外側の筋肉がやせてくると、バランスをとるために片側の肩だけが下がる歩き方になる」

 靴底の減り方が左右で大きく違うようなら要注意だ。そうした歩き方の歪みは股関節への負担として蓄積されていくのだ。石部氏は理想的な歩き方を「グッド歩行」と名付け、その実践を呼びかけている。最大のポイントは『着地はかかとから』を心がけることだという。

 足のかかとから着地したら、足裏全体を地面につけ、重心を徐々につま先に移動させるというシンプルな原則だが、加齢とともに当たり前だったはずの歩き方が少しずつできなくなっている。その改善が必要だ。

「踏み出しと着地の際の衝撃を、足首や膝の関節でバランスよく吸収できるようになります。また、背筋が伸びていなければ、かかとから着地できないので、自然と猫背が解消される。歩幅は踏み出した足のかかとと、もう片方の足のつま先の間が7〜8cm程度となっているかをチェックしてください。やや狭いように思えるかもしれませんが、大きすぎるとかかとから着地できなくなります」

 単に股関節への負荷が軽減されるだけではない。「グッド歩行を実践すると、長い距離を歩いても疲れにくくなる」というから、健康長寿につながる適度な運動量の確保も可能となる。

 股関節のケアが様々な疾病の予防にもつながってくるのだ。

※週刊ポスト2017年7月14日号