丸の内勤務の証券マン・江森(通称:えもりん)、30歳。おとめ座。

外見はプーさんそっくり、愛されキャラな男。好きな食べ物はハチミツ...ではなく、『ウルフギャング』のプライムステーキ。

港区生まれ、港区育ち、育ちのいい奴らは皆トモダチ。生まれながらに勝ち組な彼は、日本を代表するエリート・サラリーマンとして独身生活を謳歌している。

イケてるはずなのにちょっと拗らせ気味な男・えもりんは、親友ハルの結婚発言に焦りはじめた。




―あのハルが結婚なんて、ウソだろ...。

『西麻布 五行』で春彦と別れたあと、江森はトボトボと夜の街を歩きながら自宅のある麻布十番に向かっていた。

『西麻布 けんしろう』で散々焼肉を楽しんだあとに食してしまった焦がし味噌ラーメンを、少しでも消化したくもある。

―やっぱり、相手があの“ヒカリ”だからか...?

そこらの芸能人よりもずっと甘いマスクをしており、さらに“商社マン”という肩書を武器に、男なら誰もが羨むモテモテの独身生活を送っている春彦。

わざわざ身を固める必要などないはずだが、人気モデルかつ超お嬢様という“高嶺の花”を繋ぎとめるためには、やはり「結婚」という強硬手段に出ざるを得ないのか。

「でもボクも......ヒカリと付き合えたら、すぐプロポーズしちゃうかも」

つい、独り言が口を出る。

単純に、イイ女と真面目に交際しているらしい親友が、羨ましかった。


友人の結婚式ラッシュ。身の危険を感じ始めたえもりんだが...?


プーさんの好物、“花嫁の両親への手紙”


「え、結婚?俺、そんなこと言ったっけ?ヒカリはたまに会ってるけどさ、さすがにあんな女、嫁にするには手に負えねーよ。俺、ただのサラリーマンだし」

翌週末、「パレスホテル東京」での友人の結婚式で再び遭遇した春彦は、何事もなかったような涼しい顔で言い放った。

「......ハル、お前って......」

そういえば、そうだった。

春彦は帰国子女特有の自由人で、さらにB型で気まぐれなのだ。遊び友達を失う孤独感に苛まれた一週間を返してくれと言いたかったが、厄介なことに、この男に悪気はない。

「それにしても、お前の蝶ネクタイ姿って、本当にプーさんみたいで可愛いよな」

クスクス笑う春彦と共に披露宴会場に進むと、そこは贅の限りを尽くした空間が広がっていた。




「す、すごい......さすが医者同士の結婚......。金のかかり方が別格だ」

生花のクオリティ、テーブルコーディネート、会場全体の飾りつけが、これでもかと言うほどアッパーレベルだった。生演奏の楽団が、優雅な音色も奏でている。

新郎は幼少期からの友人で、都内の一等地に大病院を構える一族の御曹司だ。

江森は会場を隅々まで、すばやく観察する。ゲストもそうそうたる顔ぶれで、主賓には政治家や企業のエグゼクティブも多い。

「江森ってさ、男のクセに、細かいところすげぇ見てるよな。俺、自分の結婚式にお前は呼びたくないわ」

「ハルが興味なさすぎなんだよ。だってボクら、今年入ってから何回結婚式来てるんだよ?」

それにしても、今年は結婚ラッシュである。

多少こじらせてはいるものの、情も人望も厚い江森は、春先あたりから毎週のように結婚式に呼ばれていた。

お祝いごとは嫌いではない(むしろ大好き)であるし、“花嫁の両親への手紙”という儀式は何より楽しみにしている。リアルな感動を味わい、そこで密かに一人涙ぐむのが好きなのだ。

しかし如何せん、都内のそれなりのカップルであれば、ほとんどが都内の高級ホテルで結婚式を挙げるわけだから、嫌味なわけでなく、否応にも目が肥えてしまう。

「パレスホテル東京」での式も、今年3回目であった。

「おっ。奥さん、イイ感じじゃん」

「ほんとだ、清楚だ......」

なかなかの美人だが適度な薄化粧と、ほんわかと純朴そうな微笑みをたたえて入場した花嫁に、会場中の視線が集まる。露出の低い上品なドレスも好感度が高い。

新婦も地方の大病院の娘とのことで、もっと派手な女を想像していたため、江森の心は思わずザワついた。


二次会へ出席するか否かは、“新婦友人”が鍵となる?


やんちゃ男が最終的に落ち着く先は、“ふつう”の良い子


「あいつ、賢い選択したなー」

春彦の意見には同感だった。

肌艶の良い丸い顔に平和な笑みを浮かべた新郎は、浮世離れしたボンボン感のある憎めない遊び人だった。だが、最後の女を選ぶ眼力は備わっていたらしい。

彼のこれまで関係してきた美しいだけの女とは、まったく違う人種なのだ。

花嫁は、何となく“ふつう”感のある子だった。

適度な可愛さとスタイル、無難な立ち振る舞い。だが、ピンと伸びた美しい姿勢や、一歩引きつつも良く通る透明感のある声からは、育ちの良さが伺える。

やんちゃ男の正統な落ち着きどころは、真っ当さのある“ふつう”の女なのかも知れない。




「いいお嬢さんだなぁ。ボクもそろそろご祝儀回収したいし、ああいう“ふつう”の良い子と結婚したい」

「それ、独身フラグだぜ。“ふつう”がいいとか言ってる奴が、実は一番理想高くて結婚できないんだよ。お前、もう10年くらい彼女いないよな」

春彦に馬鹿にされ反論しようとするが、よくよく自分の過去を思い返し、江森はヒヤっと血の気が引いた。

そう言われてみれば、年単位で真面目に付き合った彼女は、学生時代が最後だ。それ以来は中途半端な関係か、付き合っても3ヵ月以内に破綻することばかりだ。

春彦ですらときどき、「俺、今本気だから」などと言って急に表舞台から姿をくらますのに、もしや自分は、ちょっとヤバい男なのではないだろうか。

これだけ周囲が結婚ラッシュに沸いている中、長い間、恋人すらいないのだ。

「で、今日の二次会、どうする?」

独身・長年彼女ナシの事実を自覚し呆然としていると、春彦が隣で目をギラつかせていた。

二次会に出席するか否かは、いつも新婦の友人を観察してからと決めている。二人はさり気なく、少し離れたテーブルを見やる。

艶やかで高価そうな着物を、まるで制服のように身につけた女たちの座るテーブル。あれは女医友達であろう。外見は中の上。

地元や中学校・高校の友人らしき集団は、申し訳ないが影が薄すぎてあまり目に入らない。

そして気になったのは、服装は普通の結婚式仕様だが、よく見ると靴やバッグが品良く洒落ていて、顔面偏差値がやたらと高い女たちのテーブルだ。

席次表には“新婦友人”としか書かれておらず、素性不明の美女たちだった。

「あれは一体、何の集団なんだ?」

「俺も気になる。とりあえず、行ってみるか」

二人は二次会に思いを馳せながら、豪華で愛情溢れる披露宴に、心から祝辞を捧げた。

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結婚式二次会に乗り込んだ、えもりんとハル。待ち受けていた出会いとは?