被災地の景観を撮り続けるカメラマン役の蓮佛美沙子。サバイバーズギルトを題材にした『RIVER』(12)に続いての廣木隆一作品となる。

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 福島の仮設住宅で暮らしているみゆきには、本名とは別にもうひとつの名前がある。普段のみゆきは地元の市役所に勤めているが、週末は深夜バスに乗って上京し、YUKIという名のデリヘル嬢として働いている。震災以降、仮設住宅に父親と2人で暮らしているみゆきにとって、YUKIとして東京で過ごす時間はかけがえのないものとなっていた。今週末もまた、みゆきは高速バスに揺られて東京へ向かい、見知らぬ男たちを相手に性サービスに従事する。『ヴァイブレータ』(03)、『さよなら歌舞伎町』(15)など官能映画の名手として知られる廣木隆一監督のオリジナル作『彼女の人生は間違いじゃない』は、廣木監督の故郷・福島を舞台にした社会派官能ドラマとなっている。

 近年は有村架純主演『ストロボ・エッジ』(15)や二階堂ふみ主演『おおかみ少女と黒王子』(16)など少女コミック原作の、いわゆるキラキラ映画のオファーが続いていた廣木監督だが、本作の主人公であるみゆき(瀧内公美)はキラキラと輝くことができない女性だ。そんな彼女の日常生活を、廣木監督はカメラで丹念に追っていく。みゆきは震災で母親を失い、当時交際していた恋人の山本(篠原篤)との関係もぎくしゃくして別れてしまった。農業を再開するめどが立たず、父親の修(光石研)はパチンコに通う日々が続いている。みゆきは市役所に勤め、補償金も振り込まれるため、生活費には困っていない。でも、みゆきは今の生活が息苦しくて堪らない。じゃあ、震災前の生活は満たされたものだったのか? 震災後いろいろありすぎて、もはやそれもわからない。高速バスを降りたみゆきは駅のトイレでメイクを整え、YUKIへとスイッチを切り替える。そしてホテルで待つ男性客の求めに応じて、女子高生風の制服やセクシーな下着に着替え、男たちの欲望の海へと身を投げ出す。

 本作には廣木作品の様々なヒロイン像が垣間見える。荒井晴彦脚本作『さよなら歌舞伎町』ではラブホテルのマネジャー(染谷将太)の妹(樋井明日香)は学費を稼ぐため、塩竈から週末だけ上京してAV女優となった。このエピソードを廣木監督が独自に膨らませたキャラクターが本作のみゆきだ。秋葉原通り魔事件を題材にした『RIVER』(12)では蓮佛美沙子が恋人を失った喪失感を埋めようと秋葉原をさまよった。本作にも蓮佛は出演しており、被災地の変わりつつある景色を記録しようとするアマチュアのカメラマンを演じている。福島と東京を高速バスで往復しながら、自分の居場所を探し続けるみゆきの姿は、廣木監督の代表作『ヴァイブレータ』の寺島しのぶと重なり合うものがある。

 オーディションによってみゆき役に選ばれたのは、『日本で一番悪い奴ら』(16)で悪徳刑事役の綾野剛を相手に大胆な濡れ場を演じてみせた瀧内公美。本作ではより繊細に、よりむきだしの姿で、みゆきがYUKIへと変身せざるをえない心情を演じてみせる。みゆきをスカウトしたデリヘル業者の三浦に、廣木作品の常連俳優・高良健吾。みゆきと同じ市役所に勤める同僚の新田を演じる柄本時生は、廣木監督のWOWOWドラマ『4TEEN フォーティーン』(04)が印象に残る。みゆきの父親・修役の光石研、元カレ役の篠原篤は、震災後の日本を見つめた橋口亮輔監督の『恋人たち』(15)での演技が高く評価された。実力派俳優たちのアンサンブルによって、補償金の給付がきっかけでバラバラになってしまった家族、仮設住宅に頻繁に現われる新興宗教の勧誘など、被災地の実情が綴られていく。

 瀧内公美の裸体に惹かれて本作を観ていた男性たちには、物語の後半にキツ〜い一発が待ち構えている。みゆきの元カレ・山本(篠原篤)が久しぶりに故郷に戻り、みゆきに復縁を迫る。山本は何度もみゆきの前に現われ、このままではストーカー化しかねない。仮設住宅の前でみゆきの帰りを待っていた山本に、みゆきは言い放つ。「ホテルへ行こう。前みたいにSEXできたら、また付き合う。そうじゃなかったら、もう会わない」。

 場面変わってホテルの一室。ベッドに横たわる裸のみゆきと山本。さぁ、これからというタイミングで、みゆきはデリヘルで働いていることを山本にカミングアウトする。丸裸のみゆきを前にして、彼女が風俗で働いているショックと、このSEXに失敗したら二度と抱くことができないというプレッシャーから、山本の下半身はみるみる萎えていく。それでも、みゆきを手放したくない山本は懸命にカクンカクンと腰を降り続ける。山本の意に反して、肉体は一向に言うことを聞こうとしない。かつては愛し合ったはずの恋人たちの間からは、すでに大切なものがこぼれ落ちていた。昔のような2人には、もう戻ることはできなかった。

 みゆきとYUKIの心と体も一致しない。デリヘル中のYUKIは本番を強要する乱暴な客に対しては「お店のルールですから」と断固拒否する。でも、福島でモヤモヤすることが重なった週末は、ついつい気持ちが高ぶって男性客の上に自分から股がり、男の欲棒をそのまま受け入れる。行為を終えたYUKIは素顔のみゆきに戻っていた。ホテルのバスタブにひとりで浸かりながら、少女のようなあどけない無防備な表情を見せるみゆき。デリヘル中はYUKIに変身しているつもりのみゆきだったが、結局のところみゆきもYUKIも傷つきやすい生身のひとりの女の子でしかない。

 顔バレをはじめ、いろんなリスクを負ってまで、みゆきはなぜYUKIとして風俗の世界で働くのだろう。週末だけデリヘル嬢としてお金を稼いでも、稼ぎの半分はデリヘル業者に経費として差し引かれる。1回2万円のデリヘルだとして、1万円しかみゆきは手にすることができない。福島から東京の往復バス代7,000円をさらに引くと数千円しか手元に残らない。東京での秘密のアルバイトを終えて仮設住宅に戻ってきたみゆきは、パチンコ通いから足を洗うことを決意した父親の修に「子犬を飼いたい」と子どものようにねだる。

 みゆきがYUKIとして体を張って手に入れたもの。それは一匹の子犬を飼うためのエサ代として消えていく。そんな彼女の生き方を、廣木監督はカメラに収める。彼女の人生は間違いじゃない。リスクを覚悟の上で、自分の欲望に正直に生きようとするヒロインを廣木監督は全肯定してみせる。
(文=長野辰次)

『彼女の人生は間違いじゃない』
原作/廣木隆一 脚本/加藤正人 監督/廣木隆一
出演/瀧内公美、高良健吾、柄本時生、戸田昌宏、安藤玉恵、小篠恵奈、篠原篤、毎熊克哉、趣里、松永拓野、古谷佳也、碓井将大、キタキマユ、高麗道子 田中仁人、萱裕輔、波岡一喜、麿赤兒、蓮佛美沙子、光石研
配給/GAGA R15 7月15日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://gaga.ne.jp/kanojo