峯田和伸にスポット当てた『ひよっこ』、なぜ最高視聴率に? 「笑って生きる」の深い意味

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 このところ、『ひよっこ』の視聴率が連日の20%超え、しかも7月4日に自己最高の21.4%をたたき出して話題になっている。

参考:『ひよっこ』を掻き乱す“変なおじさん” 峯田和伸から漂う悲哀の格好良さ

 7月4日の放送内容は、ビートルズの武道館公演にあわせてやってきたヒロインみね子(有村架純)の叔父・宗男が中心になっていて、宗男を演じた峯田和伸が視聴率復活の立役者としてさまざまなニュースでも取り上げられた。

 峯田演じる宗男のエピソードは、このドラマがスタートした当初の3話から描かれていた。見返してみると、そのときから宗男はバイクの後部座席にイギリス国旗を飾っていた。ビートルズが好きなことが発覚するのは、もうちょっと後だが、その片鱗はこのときから見えていたのだ。また、この時点で、7月4日の放送につながる意味深なセリフを宗男はたくさん残している。

 一つ目としては、東京を肯定するセリフである。みね子は、そのころは茨城しか知らない上に、出稼ぎで父親が出ていっているため「好きな人をとられたような気持ちがして」、東京に対して複雑な思いがある。しかし、宗男は「人が暮らしてるところは、みんないいとこだよ。絶対そうだ」と語っている。

 また、なぜ宗男が笑って生きているのかについてみね子に聞かれたときにも、こんな言葉を残している。「なんでだと思う? バカだからではねえぞ。俺は決めたんだ、笑って生きるってな。もうちっと大人になったら教えてやる」と。

 戦争で宗男が変わったことについては3話でも少し説明があったが、ここで行われたみね子と宗男の会話が、ビートルズの来日で宗男が上京したことによって、帰結したともいえる。

 7月4日の放送では、宗男がバイクに立てていたイギリス国旗を見た、すずふり亭の料理長・牧野省吾(佐々木蔵之介)が、「お前戦勝中どこいいた?」と聞いたことから、宗男の「笑顔の秘密」と戦争中にあった出来事が明らかになる。

 イギリス軍の拠点、インパールで起こったインパール作戦は、6万人以上の戦死者、戦病者を出した戦争だ。宗男はその中にいて、生きるか死ぬかという世界にいた。それがきっかけで、「笑って生きる」という宗男の人生が始まったのだ。

 みね子に「笑って生きる」という理由を教えたということは、みね子が「大人になった」ということでもある。

 朝ドラには、戦時中を舞台にしたものが多く、これまでにも戦争が描かれてきた。しかし、この『ひよっこ』は、珍しく現代ものでも、戦争中を描くものではない。だからこそ、戦争を通過したものの経験談という、通常の朝ドラとは違った目線から戦争を描いている。

 『ひよっこ』は、オリンピックや高度成長期に、東京がわくわくした空気に包まれている模様を描くものだと思っていた。しかし、その描写はほとんどない。オリンピック後には景気が低迷して集団就職で上京したみね子たちが職探しで苦労するところも、また戦後に人々がどんな気持ちで暮らしていたのかを描いている。

 特に72話では、すずふり亭の店主・牧野鈴子(宮本信子)と、同じ商店街で和菓子屋を営む柏木一郎(三宅裕司)が、戦争で全部焼けてしまったときの話をしている。

 鈴子は「町は立派になったけれど、戦争でたくさんのものを無くしたことを取り戻そうと、頑張って無理して、そしてまた無くした」と語っている。「もはや戦後ではない」という言葉に「冗談じゃない」「私の戦争は終わってない」「元には戻らない」というセリフが染みる。

 明るく見えた高度経済成長期に生きた人たちの、なかなか表だっては語られなかった思いが、このドラマには描かれている。

 本作の一番言いたかったことが最も詰まっていたのが7月4日の放送であったと思う。それが、自己最高視聴率になるということは、偶然かもしれないが、このドラマの良さが、ちゃんと見ているものに届いているということではないかと思うのだ。(西森路代)