国内7大「かつ丼」徹底解析

写真拡大

日本広しといえど、一つの主材料で、これほど多様な味わいを醸し、国民を熱狂の渦に巻き込む丼があるだろうか……。「いや、ないっ!」そう断言したくなるほど、かつ丼は無限の可能性を秘めている。「元祖かつ丼」について調べるほどに混迷を極める理由は? ここでは全国のかつ丼を調査し、全7類型をピックアップした。国内7大かつ丼の成り立ちからチャームポイントまでも徹底解析。かつ丼ツアーマニア必携! さあ、旅に出よ!! かつ丼を食え!

■かつ丼のルーツは我にあり!「ソースかつ丼」

地域:福井ほか
分類:かけ
特徴:味つけはソース
チャームポイント:ソース。むしろそれ以外の特徴はバラバラである。

▼解説

かつ丼界における最古の記録は、1913(大正2)年、早稲田の「ヨーロッパ軒」店主がソースかつ丼を考案したというもの。その10年後、関東大震災が起き、店は郷里の福井に移転。当時の“名物丼”は、薄切り一口かつにウスターソースの味つけだったという。

約100年後の現在では、「ソースかつ丼」自体は長野、山梨、埼玉、群馬、福島などで確認されているが「一枚かつor薄切り一口かつ」「ウスターソースorとんかつソース」「キャベツの有無」など要素の組み合わせはバラバラ。このバリエーションこそ深い歴史の証左である。

■とじてこそ正義!「かつ丼(卵とじ)」

地域:東京ほか
分類:とじ
特徴:割り下で煮たかつを卵とじ
チャームポイント:不均等なとじられ具合。「一部分だけカリッとしていると萌える」という領民(ファン)が多数いるらしい。

▼解説

卵とじかつ丼の出自は早稲田「三朝庵」説や大阪説など諸説あるが、いずれも1921(大正10)年頃と時期は一致している。その少し前、蕎麦屋に親子丼などが導入されたことを考えると、“卵とじ”は大正以降の蕎麦屋でメニュー入りしたと考えるのが自然である。

戦後もソースやタレが幅を利かせる地域では“とじ”のない店も多かったという。高度成長期以降、交通や情報インフラが整備され、“卵とじ”が全国くまなく浸透した。「かつ丼」参勤交代である。

■くぐるのは醤油か、修羅場か「タレかつ丼」

地域:新潟ほか
分類:かけ
特徴:醤油ダレをまとった薄切り一口かつ
チャームポイント:かつだけで勝負する潔さ。ご飯にかつを埋めた丼もあるなど、どことなく鰻丼を意識している様子。

▼解説

新潟は明治の開港5港の一つ。早くから洋食にも親しんでおり、昭和の初頭、1930年代にはすでにタレかつ丼の原型が屋台で人気を博していた。その店こそ“元祖”といわれる「とんかつ太郎」である。

とはいえ、甘辛い醤油ダレをかける丼は、他の地域にもある。東京では1918(大正7)年創業の「水光」という店(閉店)がタレかつ丼を出していたとされる。他に、北海道訓子府、群馬県下仁田にも類型が確認されている。その多くが地域オリジナル―つまり“元祖”である。

■味噌は名古屋の誇り!「味噌かつ丼」

地域:愛知
分類:かけ/煮
特徴:豆味噌を使った甘辛い味噌ダレ
チャームポイント:ソースかつ丼に次ぐ多様性ぶり。キャベツのじゅうたんを敷く店もあれば、仕上げに半熟卵をのせる店も

▼解説

とんかつ+濃厚な豆味噌ダレ=味噌かつの誕生は、1947(昭和22)年説が有力。一方、味噌かつ「丼」は1949年に創業した店が元祖と言われている。現在では市販の味噌ダレを使う「家庭料理」としても幅を利かせる。「丼」の流儀は大きく2パターン。一つは箸休めにもなるキャベツをかつの下に敷いて清々しさを醸す。もう1パターンは、白飯の上に味噌ダレで煮たかつと半熟卵を直接のせ、濃厚さを楽しむ。どちらが好みか。店には添うてみよ、丼は食うてみよ。

■卵を節約するためだった!?「あんかけかつ丼」

地域:岐阜
分類:かけ
特徴:とろみのついた餡を上からとろーり
チャームポイント:花びらのように美しいかき玉模様

▼解説

岐阜県の瑞浪市に見られるあんかけかつ丼。戦前から営業する食堂の初代店主が、当時貴重だった卵を節約しつつ、いかにボリュームを出すかを考え抜いた結論が“あんかけ”だったという。粘度を帯びた餡ゆえに、かつの衣のサクサク感は失われず、しかも“とじ”のつゆだくのように白飯がつゆを吸い込みすぎることもない。倹約の知恵が意外な味わいの完成度をもたらした好例といえるのではないか。

そしてこの地には別のタイプもある。タレかつの上に卵とじをのせ、さらに生の卵黄をオンするという蠱惑的なかつ丼も。花より卵。

■「かつ丼」と言うとコレが出てきます「デミかつ丼」

地域:岡山
分類:かけ
特徴:ドミグラスソースをたっぷり!
チャームポイント:仕上げのワンポイント。キャベツや生卵、グリーンピースなど店ごとに個性を発揮? そもそもベースが茶色だし……。

▼解説

岡山人にとっては「普通のかつ丼」=デミかつ丼が当たり前。1931(昭和6)年に創業した“元祖”店が考案し、地域に受け入れられた。その店での“卵とじ”の登場は1965(昭和40)年であり、今も単に「かつ丼」を注文するとデミかつ丼が提供される土地柄だ。統一された呼称としては“デミかつ丼”だが、元祖の店では創業以来一貫して“ドミグラスソースかつ丼”と呼ばれ、他に“洋風かつ丼”と呼ぶ店も。ソースの味わいもさまざま。みんな違って、みんないい。

■かつ丼頼んだんですが……「沖縄かつ丼」

地域:沖縄
分類:かけ
特徴:ほとんど野菜炒め丼に見える
チャームポイント:チラ見えのかつ。時々恥ずかしげに顔をのぞかせたり、野菜の陰に隠れっぱなしだったりするところ

▼解説

沖縄の丼を初めて見る人はたいてい驚く。とにかくボリュームがすごいのだ。ご飯を山と盛り、その上におかずを山盛り。山の上に山。マウンテン・オン・マウンテンだ。かつ丼なら、白飯の上にかつをのせ、その上にキャベツ、玉ねぎ、にんじんなどを具とした極彩色の野菜炒めをザザーッと流す(最後は山が崩れないよう丁寧に盛る)。店によっては、かつも白飯も見えず、ただ丼にチャンプルーが山盛りにされた風情。丼は見かけによらぬもの。器量より気前、である。

(ライター/編集者/「食べる」「つくる」「ひもとく」フードアクティビスト 松浦 達也 文・松浦達也 撮影・竹内一将 食品サンプル製作:まいづる 浅草かっぱ橋支店)