マンガ家の西原理恵子さんによるエッセイ『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(角川書店)が先月発売されました。発行部数は3刷り5万部突破(7月7日現在)と順調に版を重ねています。

これから巣立とうとしている16歳の娘に宛てて書いたメッセージという体で、女性が生きていく上で覚えておいてほしいこと、知っておいたほうがいいこと、心に留めておいてほしいことをつづっています。

“女の子”たちが自分の足で立って、誰の顔色もうかがうことなく自由に自分の人生を歩いていくためには--? 西原さんに3回にわたって話を聞きました。

マンガ家の西原理恵子さん

失敗や苦労はスターターキットです

--このたびはインタビューに応じてくださりありがとうございます。ウートピは働く女性がターゲットのウェブサイトです。読者層は「都会で働く30歳前後の女性」が中心です。

西原理恵子さん(以下、西原):30歳前後かー、まだまだ心のどこかに王子さまがいて、でも現実はそうでないってわかっているけれど「思うくらいいいでしょ?」っていう世代ですかね。

--う、そうかもしれないです。

西原:まず東京で一人でやっていこうなんて女は真面目ですからね。そういうところに働かない男がつけ込むんだよ。家に帰ったらイヌやネコが欲しい。そこに無職の男がつけ込んじゃう、心の隙間に入っちゃう。私がそうだったから、これだけは気をつけてほしい。今からでもタイムマシンに乗って20歳の自分を殴りに行きたいもん(笑)。

--もしかしたら、50歳の私がタイムマシンで今の私を殴りに来てるかもしれないです……。なので、いっそう、これから大人になっていく娘さんもだけれど、20代、30代といった大人の女性にもこの本を読んでほしいなって思ったんです。

西原:ありがとうございます。この本で言いたかったのは、失敗も苦労もたくさんしていいということ。世の中、失敗とろくでもない男ばかりだから。そんな男で失敗するのは基本中の基本、スターターキットなんです。でもそれって3か月でよくない? ってこと。それを1年も2年もズルズル引きずっちゃうのは時間がもったいないよね。

--失敗や苦労はデフォルトってことですね。って言われると気が楽になります。私もそうなんですが「もう大人なんだから失敗しちゃいけない」「苦労するのは自分が未熟なせいだ」って自分を責めちゃう。そういう女性って多いなあと思うんです。

西原:世の中には立派な言葉がたくさん並んでいるけれど、「あなたはもっと素敵に輝ける」っていうのではなくて、苦労して転んでからの立ち上がり方を伝えたかった。

30歳過ぎまで悪い男に引っかかって貴重な時間を使っちゃって、「せっかくの時間を返して」とか、「若さを返して」とか、そういうことがないように早くきり返そうよってことを言いたかったんです。

--なるほど。

「自分の幸せも譲っちゃうの、女の子って」

西原:あとはもっと自分中心でいいよってことかな。進学で地方から東京に出てくる女の子なんて、実家の親がいい人で真面目なので、いい子が多い。そうすると自分の幸せも譲っちゃうの、女の子って。自分の幸せを好きな人に譲っちゃって我慢しちゃうんです。

--あー、それは本当にそう思います。仕事で理不尽なことがあっても「私にも落ち度があったにちがいない」「私さえ我慢すれば」って思っちゃう。そんなの本人はもちろんまわりのためにもならないのに。

西原:そうそう、会社の働き方もそうだね。まあこれは男子も女子も変わらないんだけれど、結局我慢したほうが偉いってなったら、どんどん犠牲になっちゃうよね。

いい子ほど我慢しちゃって理不尽なことも言い返せない。人の2倍働いて、ひとりひとりがブラック企業化しちゃう。遅刻しないとか真面目なのは日本人のいいところなんですけれど、その反面苦しいってのも事実で。

でもね、昔よりだいぶ変わってきているんですよ。相変わらず保育園は狭き門だけど、共働きも普通になっている。それは上の世代の女性が死ぬ気でわめいてくれたおかげ。「はい、タッチ」ってバトンを受け取って、自分たちも下の世代や若い子たちのためにわがままになってください。

頭がかたいオヤジに文句言うより下の世代を育てましょう。30年後にはもっとよくなっているはずだし、後輩のためにがんばるほうが効率がいいでしょ?

--そうですね、おじさんたちに文句言っても変わらないですもんね。

※次回は7月8日公開です。

■連載一覧
【2回目】「わかり合おう」とかやめない? 家族がしんどい女の子たちへ
【3回目】「もらったプレゼントが自慢」の80歳にならないで。すべての女の子へ

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)