黒板メニューはすべて手作り

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 手作り、という言葉の定義は難しい。例えば家庭の食卓なら、「店で買わないで自分の手で作る」料理といえそうだが、ではどこまでの作業を家ですれば「手作り」と呼べるだろう? 生でなく冷凍のカット野菜を炒めるのは? シーズニングしてある肉を焼くと? ホットケーキミックスを使ったら? その境界は曖昧だが、これがレストランならどうか。シェフの手作りは、どこまでやれば「手作り」なのか。フランスでは、2014年7月に「自家製」の認証制度を導入して3年が経った。

 レストランのメニューブックを開くと、料理名の左側に、お鍋に屋根がついたようなマークが並んでいる。絵の通り、その店の厨房で作った、という意味の法定「手作り」マーク(Fait maison)だ。料理ごとに、マークのあるもの、ないものが混ざっているメニューブックもあれば、黒板のメニューは全部「手作り」と、大きなマークを一つ出す店もある。

 肉担当、魚担当の料理人に、デザートを作るパティシエまでそろっているレストランなら苦労はないが、町中の小さなカフェやビストロでは、加工品や冷凍品を上手に取り入れている店は多い。料理はシェフが作っても、デザートは冷凍のものを仕入れていたり、料理人が少ない店なら、前菜は加工品に手を加えるだけ、など、それぞれ工夫しながら店を切り盛りしている。パリ郊外には、“パリの胃袋”と呼ばれる巨大なランジス市場があり、生鮮品のみならず、冷凍品、加工品、調味料からチーズまで、何でもそろうから、この市場に通う料理人も多い。だが、調理済みのものに手を加えただけでも「自家製」とうたう店も少なからずあり、明確な基準を求める消費者の声に応える形で、「自家製」や「手作り」という表現に法的規制をかけることになったわけだ。

 個人経営のレストランやチェーン店はもちろん、ファストフードや道端に出る屋台、お祭りのスタンドに至るまで、およそ食べ物を出す店はすべてが規制対象。「自家製」の定義は、「その場所で、すべて生の食材から作ったもの」だ。たとえば野菜なら、文字通り「生野菜」を買ってきて調理する必要があり、すでに他の食材を混ぜてあったり、熱を通してあったりするものは対象外。そういうものを使った料理に「自家製」マークをつけるという違反をすると、禁固や罰金刑が待っている。

 ただし、例外もある。仏政府によると、「通常、消費者が店で手作りすることを期待していないもの」で、例えばパンやチーズ、ソーセージ、コーヒーなどは、“既製品”を使って作った料理も「手作り」として構わないことになっている。もちろん「ワイン」もだ。

 だが、フランスのこの規制も、言葉の定義をめぐってスタート当初から大もめ。「手を加えていない材料から作る」という文言が、法施行後1年足らずで「生の材料から作る」に変更になった。この変更で「手作り」の材料の概念から落とされたのは、冷凍、カット野菜など。結果として手作りマークをつけられる材料の定義はクリアになったものの、多くの店にとっては、条件が厳しくなったということでもある。「野菜や果物の皮むき担当を雇えるレストランは、そう多くない」という声も多く、「そもそも生の材料が新鮮なまま手に入るか、店の地理的な条件もある」と、マークがつけられないのを承知で冷凍食材を使い続ける店ももちろん多い。

 作り手と食べ手の信頼関係や、料理に込める愛情など、材料の線引きだけでは測れない「手作り」の定義。そもそも“違う食材”を使った食材偽装が問題になった日本では、手作りかどうか、はもう一つ先の問題かもしれないが、景品表示法上は、「一般消費者の印象・認識との間に差が生じ」ない必要がある(消費者庁)。もっとも細かい判断はケースバイケースで、一括した規制は存在しない。さて、同じユネスコ無形文化遺産の食を誇る国、日本の“手作り”の中身は…?