長野県諏訪市のご当地キャラ「諏訪姫」。ご当地キャラは長野県内のほかの自治体にも広がっている。

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長野県諏訪市のご当地キャラ「諏訪姫」が人気を集めている。考案したのは地元の金型メーカー。主力製品は自動車やカメラの部品だったが、「諏訪姫」のフィギュアが人気を博し、業容を拡大しつつある。苦戦する「ゆるキャラ」も多いなかで、なぜ成功したのだろうか――。

■リーマンショックで仕事が激減

諏訪湖のほとりにある高島城。そこに住むという設定の萌え系キャラクター「諏訪姫」のフィギュアが人気を集めている。このキャラクターを考案したのは諏訪市に本社を構えるピーエムオフィスエーという、従業員30人ほどの中小企業だ。同社は自動車やカメラ向けの部品をつくる金型メーカーで、フィギュアとは全く畑違いの会社だったが、このフィギュアが同社の窮地を救うことになった。

「フィギュアを始めて5年ぐらいになりますが、シリーズ全体ではすでに20万体以上売っています。その結果、フィギュアを含めたホビー関連の売り上げがどんどん増え、今では約5億円の年間売上高の半分を占めるほどになっています」(ピーエムオフィスエー・山口晃社長)

1967年生まれの山口社長は松本市の高校を卒業後、セイコーエプソンに入社。しかし、自分で事業を始めたいと、6年後に退社。中小企業2社で修行し、2000年に友人と2人でピーエムオフィスエーを設立した。始めた事業は金型の設計。アパートの1室を借りながら、デンソーやアイシン精機の下請けから仕事をもらって順調に売り上げを伸ばした。06年には本社と工場を建設し、金型の製造と自動車やカメラ部品の製造へと業容を拡大した。

ところが、2008年のリーマンショックで仕事が激減してしまった。このままではダメだと考えた山口社長は新たなビジネスを始めることを決意。そこで、どんなビジネスがいいかと展示会などを見て回ったという。

「その時に一番活気があったのがオタク業界、つまりホビーの業界だったのです。非常に人が多く、しかも、1万、2万円と来場者がお金を投げ捨てるような感じで商品を買っていたのです」(山口社長)

いつか自社ブランドを立ち上げたいと考えていた山口社長は、そこで「PLUM」というブランドをつくり、ゲームに登場するキャラクターのフィギュアやプラモデルの製造販売を始めることにした。プラモデルは部品点数が多いので、機械の稼働率を大きく上げることができる。このため固定費が下がり、既存の自動車部品などのコストも下げることができる。

■地元旅館とタイアップして限定フィギュアを製作

2011年7月に発売したのが「諏訪高島城」(200分の1スケール)。同社の高精度の金型技術を駆使した城郭のプラモデルだ。ところが、ここで意外なものが話題になった。城とセットにしたオリジナルキャラクターのミニフィギュアだ。諏訪高島城だけでは知っている人も少なくインパクトも弱い。何か一緒に出したほうが相乗効果も出て、諏訪市のPRにもなると考えたのである。これが現在の同社の屋台骨「諏訪姫」だ。

人気を広げるため、同社では自社で販促イベントを企画し、ファンを集めた。さらに約100万円で諏訪姫の着ぐるみを作成し、県内のさまざまなイベントへ積極的に参加するようにした。すると、市民の間で諏訪姫が話題となり、12年6月には地元・諏訪市の公認も得た。

こうしたご当地キャラは長野県内のほかの自治体にも広がっている。松本市の「くのいち縄手」、上田市の「小松姫」、塩尻市の「玄蕃サラ」、茅野市の「女神涼」、岡谷市の「岡谷まゆみ」、下諏訪町の「阿弥陀万里」……。「ゆるキャラ」が話題にならず、苦戦する自治体もあるなかで、これだけのニーズがあるのは特筆すべきだろう。

「やはり企業は地元に受け入れられ、応援してもらうことが大事だと思うんです。諏訪姫にしても、販売は基本的に長野県に限定しています。要するに長野県に来てくださいということなんです。旅館ともタイアップし、その旅館でしか買えない諏訪姫フィギュアもつくりました。しかも、旅館ごとにバージョンが違うのです」(山口社長)

一連のタイアップフィギュアは数量限定で、基本的に再販はしない。このため、フィギュアを買うために旅館に泊まる諏訪姫ファンが続出しているという。山口社長によれば、今後も地元の企業や商店とタイアップした諏訪姫フィギュアを次々出していく方針だ。ちなみに数量限定にする理由は、プレミアム感を演出するだけでなく、在庫を持ちたくないという事情もあるそうだ。

「フィギュアやプラモデルを始めてよかったのは、機械が常にフル稼働状態になったことです。しかも、それらの商品は納期が遅れてもお客さまから文句を言われることがほとんどない。納期に間に合うことよりも、いい商品をつくることを優先してほしいという人が多いんです」(山口社長)

山口社長は「長野県のホビー会社はうちしかないので、地元の企業や商店、自治体とタイアップしながら着実に成長していければいいと思う」と話す。ピーエムオフィスエーの活路には、地方の中小企業が発展していくための一つのヒントがあるのではないだろうか。

(ジャーナリスト 山田 清志)