記者団に囲まれる東芝の西田厚聡社長(当時)(2009年1月29日撮影、写真:ロイター/アフロ)


 経営不安の続く東芝は、8月から東京証券取引所の2部に降格されることになった。半導体子会社の売却も、ウェスタン・デジタルとの訴訟などで難航し、経営再建の見通しは立たない。こうした事態を受けて「東芝解体」とか「東芝崩壊」などと題する本が次々に出てきた。

 そのほとんどは一連の不祥事の原因を西田厚聡元社長のワンマン経営に求め、彼がウエスチングハウス(WH)を買収したことが決定的な失敗だったとして「原子力村」を断罪しているが、そんな結果論では歴史から何も学ぶことはできない。当時の彼の立場で考えてみよう。

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「選択と集中」のカリスマ

 西田氏を知る人は「田中角栄に似ている」という。ガラガラ声で明るく、大胆に即断即決する。その経歴も異色だ。早稲田大学の政治経済学部を卒業し、東大大学院の法学政治学研究科で博士課程まで進学したが、31歳で畑違いの東芝に入社した。妻の縁で東芝のイラン合弁会社に勤務したのがきっかけだった。

 その後も彼は海外部門を渡り歩き、1980年代に東芝ヨーロッパの販売部門の責任者としてノートPCに集中投資し、東芝を世界一のノートPCメーカーにした。このようなグローバルな経歴と果断な決断力が評価され、2005年に社長に就任した。

 その翌年に東芝がWHを6600億円で買収したとき、西田社長は「2015年までに原発を39基受注し、原子力部門の売り上げを年間1兆円にする」という野心的な目標を掲げた。当時は地球温暖化対策の切り札として原子力が注目され、「原子力ルネサンス」といわれた。

 彼は「グローバル展開するには、WHのPWR(加圧水型)技術が必要だ」と強調したが、この見通しは間違っていなかった。東芝のもっていたBWR(沸騰水型)原子炉はトラブルが多く、世界で新設される原発のほとんどはPWRになっていたからだ。

 彼は家電などの不採算部門から果敢に撤退し、原子力と半導体に集中投資した。その選択と集中は市場に歓迎され、東芝の株価は2007年にバブル以来の最高値を記録した。彼のカリスマ的な経営手腕は政府や財界にも高く評価され、経団連の次期会長とも目された。

現場が「強いリーダー」を嫌う

 西田氏のような「外様」が社長になることは、東芝のような巨大企業では珍しい。この点でも彼は角栄に似ているが、大胆な決定にはリスクも大きい。西田氏はコンピュータや半導体には経験があったが、原子力には素人だった。

 2011年の福島第一原発事故で、彼の目算は大きく狂った。民主党政権が国内の原発新設を凍結し、海外でも安全基準の強化で原子力産業に逆風が吹き始めたが、西田氏は会長として実権を握り続け、佐々木則夫社長(原子力部門出身)に経営失敗の責任を押しつけた。

 こうなると、日本の会社は彼のような「強いリーダー」を想定していないので、軌道修正ができない。経営者を牽制する株主の立場が弱く、それを株式の持ち合いでさらに弱めているので、外部からのチェックがきかないのだ。

 東芝のように家電から重電まで雑多な事業部や子会社をもつ「総合電機メーカー」は、前代の遺物である。今はアップルやシスコシステムズのようなカリスマ経営者が成功している。日本でもソフトバンクやユニクロ(ファーストリテイリング)のようなオーナー企業では成功しているが、多部門の大企業ではカリスマ経営者はうまく行かない。

 総合電機メーカーでは黒字部門が赤字部門の損を埋めて延命できるので、社員は赤字部門を切り捨てる強いリーダーを嫌い、役員も現場の代表なのでリストラに抵抗する。東芝の場合も、西田氏が集中投資した半導体部門で高い収益が上がったので、原子力の巨額損失を隠すことができた。

 2014年に西田氏が退任した直後に出てきた「不適切会計」も、原子力部門の穴をコンピュータ・半導体部門で埋めようとしたことが原因だった。早い時期に原子力部門を切り離して損失を償却していれば、ここまで大きな損が一挙に出ることはなかっただろう。

 傍流の海外法人からのし上がった西田氏は角栄と同じく優秀だったのだろうが、それをサポートする社内体制がないとリーダーシップが空回りし、角栄のように失脚してしまう。彼が佐々木氏のような弱い後継者を選んで「院政」を続けたのも、「闇将軍」と呼ばれた角栄と同じだった。

日米関係に影響する東芝問題

 東芝のような大企業で社長になるのは、単に優秀だというだけでは不可能だ。年齢のハンディキャップも抱えた西田氏が出世した背景には、西室泰三元社長の強い後押しがあった。彼は政財界に広い人脈をもち、同じ海外畑の西田氏の手腕を高く買って抜擢した。

 それは2005年当時の判断としては間違いとはいえなかったが、原子力は政治である。それは軍事技術であり、日米原子力協定で外交・防衛ともからんでいる。日米関係に足元をすくわれたことも、西田氏と角栄の共通点だった。

 WHの巨額損失のほとんどはアメリカ国内の原発工事にからむもので、規制強化で建設費がかさみ、工事が遅れたことが大きな原因だ。連結の損失1兆1000億円(2017年3月期)という規模は、経営陣の予想をはるかに超えていた。

 アメリカのエネルギー省(DOE)は、WHの破産法申請のとき「アメリカのエネルギー・国家安全保障を強化する合意に達することを期待している」という声明を出した。東芝はWHが連邦破産法の適用を申請したあとも、約6700億円の債務保証をしている。

 破産した会社に対する債務保証は法的な義務ではないが、これはWHの再建計画に織り込まれている。DOEの声明は「東芝は債務保証を続けろ」という意味だろう。東芝は連結では資産超過だといわれるが、この債務保証を実行すると債務超過になるおそれもある。

 東芝危機は、2018年7月に期限が切れる日米原子力協定ともからんでいる。この協定では核拡散防止条約の例外として日本にプルトニウムの保有を認めているが、それが延長できないと日本の原子力産業は根底からくつがえる。トランプ大統領が「協定を延長する代わりに東芝はWHの借金を肩代わりしろ」と取引してきたら、大事件になるだろう。

 すべてが政治化して複雑にからむ原子力産業のリスクは、もはや民間企業の手には負えない。東芝の原子力部門を分離して日立製作所・三菱重工の原子力部門と合併し、実質的に国有化しようという経済産業省の念願が現実性をもってきた。それは望ましいとはいえないが、日本がまだ国際競争力をもつ原子力技術が全滅するよりはましだろう。

筆者:池田 信夫