コーヒーのカフェインは50杯以上飲まなければ致死量には達しない(depositphotos.com)

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 数年前、私が経験した症例を報告する――。

 患者さんは21歳の男性。約5年間にわたり「うつ状態」だったため、精神科クリニックで抗うつ薬による治療を受けていた。

 ある日、市内の薬剤店よりカフェイン製剤(市販名エスタロンモカ:1錠中カフェイン100mg含有)を購入し、110錠(総量11.0g)服用して自殺を企図した。抗うつ薬の同時服用はなく、1時間後に嘔吐、頭痛、呼吸苦を訴えた。

 服用後2時間30分にて救急搬送された。意識はやや混濁し、脈拍110/分で心室性不整脈を認め、血圧は100/56mmHgであり、けいれんを呈していた。患者さん自らが、搬送直後にエスタロンモカの大量服用を告白したため、急性カフェイン中毒を疑った。

 その後、呼吸状態は悪化し、気管挿管を行なって機械呼吸にて維持、さらに重篤な心室性不整脈を認めたため除細動を試みた。その後、脈拍は安定し、体内のカフェインを除去する目的で血液透析の一種である直接血液灌流(体内の血液を取り出して、カラム内に接触させて、カフェインを体外に排泄させ、浄化された血液を体内に戻す治療法)を3時間行った。

 後日、測定した患者さんの血中カフェイン濃度は、搬送時95㎍/mL、そして直接血液灌流後には19㎍/mLと改善された。その後は不整脈も消失し、呼吸状態や意識レベルも改善し、6日後に無事退院した。

 2017年の日本中毒学会東日本地方会で、弘前大学病院高度救命救急センターの矢口医師は、これと同様の症例を報告している――。

 カフェイン製剤を16g服用し、同剤血中濃度が263㎍/mLと著明に増加し、心室性不整脈が持続したため、体外循環式心肺蘇生療法(極めて心肺機能が低下し、致命的な症状にある患者さんに対して、人工心肺で心肺の機能を代行して、生命の維持、改善を試みる治療法)を行い、さらに解毒を目的として、持続血液濾過透析にて治療し、血中濃度が56㎍/mLまで低下し、無事に救命できたという。

急性カフェイン中毒とは?
 カフェインは、コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、コーラなどの飲料中だけでなく、風邪薬、鎮痛薬、中枢神経刺激薬などにも配合され、私たちの身の回りに多数存在する生活上欠くことのできない製品である。
 個体差があるが、摂取中毒量は1〜3g、致死量は5g以上とされている。カフェイン血中濃度では、中毒症状が出現するのは25㎍/mL以上、生命の危険が及ぶのは80㎍/mL以上とされる。

 カフェインは各々100mL中に、コーヒーは90mg、コーラは10mg、紅茶は20mg、緑茶は20mg、栄養ドリンクは50mgが含まれている。コーヒーでは50杯以上飲まねば、致死量には達しないことになるので、このような大量の飲用は事実上不可能であろう。

自殺目的でカフェイン入りの市販薬を購入

 しかし、風邪薬などの市販薬は容易に入手可能である。また最近ではインターネット販売を介しての安価品が直接購入もできるようになったため、自殺目的での服用が懸念されている。多くの症例では軽症で済むが、米国では十数例、我が国でも2015年に九州での死亡例も報告されているので注意が必要である。

 カフェインの急性中毒症状は、消化器症状としての腹痛、嘔気、嘔吐や動悸、胸痛、呼吸苦、頻尿、体の震え、けいれん発作などが認められる。また精神症状では不安、焦燥感、気分高揚、不眠を生じ、重症例では精神錯乱、妄想、幻覚、幻聴、パニック発作などが出現する。本来うつ状態を患っている人は、特に重症化しやすい。

 治療法は、軽症例では呼吸・循環機能の保持、特に重症例での機械呼吸管理や除細動、カフェインの体外排泄促進を目的とした血液透析、血液灌流が極めて有効である。重症化しないためにも、カフェインを大量服用した際には、できるだけ早く医療機関を受診すべきである。 

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長。2015年8月に同病院退職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

横山隆(よこやま・たかし)
小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。