大前研一氏が中国版新帝国主義の成否を分析

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 中国の習近平国家主席が、香港返還20周年記念式典のため、就任後初めて香港を訪れた。「一帯一路」構想を進めるための行動のひとつと見られているが、この構想は、中国の思惑通りに進むのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、中国版の新帝国主義ともいえるこの構想について論じる。

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 中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の年次総会が6月中旬、韓国で開かれた。AIIBは中国政府の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を金融面で支える組織だが、日本政府は代表を派遣しなかった。

 5月に北京で開催された「一帯一路」に関する初の国際フォーラムには「首脳級」として親中派の実力者である自民党の二階俊博幹事長らを派遣していたが、依然として日本側は慎重な姿勢を崩していない。

 同フォーラムには120か国以上から29か国の首脳を含む約1500人が参加した。「一帯一路」構想は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる陸路の「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード」(一路)でインフラ整備や貿易促進、資金の往来などを促進して巨大な経済圏の構築を目指すもので、中国の習近平国家主席が2013年に自ら提唱した鳴り物入りの壮大なプロジェクトだ。

 だが、この構想は習主席があたかも現代のアレキサンダー大王かチンギス・ハンを目指すようなものであり、遅れてきた中国版“新帝国主義”にほかならない。

 実際、すでに中国は海外の港湾施設などを次々に買収している。たとえば、ギリシャ最大の港でアジア・中東地域から欧州への玄関口にあたる地中海の海運の要衝・ピレウス港は、中国の国営企業で海運最大手の中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)が買収した。

 あるいは、パキスタン南西部のグワダル港は、中国が2015年から43年間租借することになり、「中国・パキスタン経済回廊」の重要拠点として中国に陸路でつながる道路や鉄道、電力設備、石油パイプラインなどを整備している。同港は、中国にとってインド洋とアラビア海への“玄関”であり、「一帯一路」構想における一帯(陸)と一路(海)の合流・結節点となる。

 また、モルディブでは首都マーレの島と国際空港がある隣の島を結ぶ橋を中国が無償で建設。他の島でも空港や港湾などを無償で造っている。ただし、中国の航空機や艦船が必要な時には使えるという条件付きだ。つまり、ピレウス港やグワダル港、モルディブは中国の“今様植民地”なのだ。

 かつて西欧列強は、資源や安価な労働力、市場、軍事的・戦略的要地の獲得などを目的にアフリカやアジアを植民地にしていった。一方、今の中国は、国内の高速道路や高速鉄道、空港、港湾、大都市インフラなどの建設があらかた終わり、鉄鋼・機械メーカーや鉄道車両メーカー、セメント会社、建設会社、デベロッパーなどの“巨大マシン”が破綻しかかっている。

 このため、それらの企業を“人馬一体”で海外に持っていくと同時に軍事的・戦略的要地を獲得して勢力範囲を拡大しようとしているのだ。つまり「一帯一路」構想は自国の企業救済と影響力拡大のための新・植民地政策、というのが本質なのである。それは今に始まったことではなく、2015年末に発足したAIIBも同様だ。

 では、これから習近平主席はチンギス・ハンほどの権勢を振るうのか?

 実際には過去の中国の海外インフラ・プロジェクトでやりきったものはほとんどない。アメリカのラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画ではアメリカのエクスプレスウエスト社が中国鉄道総公司との合弁を解消したし、中国が受注したベネズエラ、メキシコ、インドネシアの高速鉄道計画も軒並み頓挫している。

 中国国内の高速鉄道用地は、共産党が人民に貸している土地を取り上げればよいだけなので建設が簡単だ。しかし、海外ではそうはいかない。民間から用地を買収しなければならないので時間がかかるし、そのためにコストも嵩むから黒字化するのは至難の業である。

 もともと海外インフラ・プロジェクトはリスクが高く、過去に日本企業が手がけたプロジェクトも、大半が赤字になっている。経験もノウハウもない中国が成功する可能性は非常に低いだろう。

 しかも、AIIBに至っては、ようやく5月に初めてインドへの融資を承認したというお粗末な状況だ。報道によれば、世界銀行とともに1億6000万ドルを融資し、アーンドラ・プラデーシュ州の送電・配電システムをグレードアップする無停電電源装置プロジェクトをサポートするそうだが、100兆円の出資金を集めたAIIBの第1号案件としては実にしょぼい。

 かたや「一帯一路」構想のシルクロード基金は1兆5000億円積み増した上でやっと4兆5000億円だ。AIIBの100兆円に比べれば“誤差”のようなものである。前述した国際フォーラムでも、公正さや透明性に問題があるとして、欧州各国が共同声明への署名を拒否したという体たらくなのである。

※週刊ポスト2017年7月14日号