2017年6月28日から6月30日の3日間、都内 東京ビッグサイトにて、日本最大のコンテンツビジネスの国際総合展 「コンテンツ東京2017」が開催された。

2日目となる6月29日の特別講演では、「手筭治虫がデジタルクローンで蘇る!? 漫画家AIプロジェクトメンバーによるスペシャルトークショー 〜AIはクリエイティブ・コンテンツ制作をどう変えるか?〜」と題して、練馬大学ロボット工学科 第7研究室の特別協力のもと、ヴィジュアリスト/手筭プロダクション取締役 手塚眞氏、公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏、電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長 栗原聡氏、ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長 山川宏氏が登壇した。

AI分野の中でも「クリエイティブ・コンテンツ制作×AI」領域の最新事例を交えながら、日本発の天才クリエイティブAIの可能性と意義、技術的なロードマップについて熱いトークが繰り広げられた。

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世界へのインパクトが大きい「漫画家AI」

産業用や掃除用などで活用されるロボットは、与えられた仕事を確実にこなすことで人の役に立ち、今では欠かせない存在になってきている。また最近では、Pepperのように人間とコミュニケーションがとれるロボットが登場しており、IoTやAIを組み合わせることによって、より人間に近い存在に近づこうとしている。

そうしたロボットでもっとも注目されている技術がAIであり、近年ではAIを組み込んでロボットに感情を与えることができないかと試行錯誤されている。漫画家AIプロジェクトでは、この手法を用いて漫画の神様 手筭治虫氏をデジタルクローンで蘇らせることを目標としている。実現すれば、日本発のクリエイティブAIとなる。

手筭治虫氏の子息であるヴィジュアリスト/手筭プロダクション取締役 手塚眞氏(以下、手塚氏)によると、手筭治虫氏は漫画を描く際に「アイデア」「テクニック」「エモーション」「ジャッジメント」という4つの柱を常に考えていたそうだ。

ヴィジュアリスト/手筭プロダクション取締役 手塚眞氏


いつかは実現できる「汎用人工知能」

公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏(以下、松原氏)によると「コンピューターに創造性を持たせるのは難しい」と語る。しかし、ゲームであれば、これまで人では見つけることができなかった‟創造性”を発揮しやすいという。その最たる例が将棋や囲碁だ。

将棋ソフト「ボナンザ」が見つけた“創造的”な手は、将棋棋士森内名人が実戦で採用した。また進化型アルファ碁「Master」はプロ棋士相手に60連勝していて、「もはやAIに勝てる棋士はいない」とまで言われている。

人工知能による創造は「候補を生成し、評価が良いものを選択する」という2ステップで処理を行うが、どちらを選んでも良いケースがあるため「選択」することが難しいという。しかし、ゲームであれば勝敗によって評価ができるため、選択が決めやすい点で“創造性”を発揮できるのだ。

現在、松原氏は「きまぐれ人工知能プロジェクト〜作家ですのよ〜」というプロジェクトで、人工知能に小説を書かせる研究を行っている。AIと人間と共同で創作した作品を第3回日経「星新一賞」に応募したところ、最終審査には残らなかったが、1次審査を通過した作品が出た。

昨年、「人工知能創作小説」ということで、メディアで取り上げられたので、ご存じの方もいるだろう。文章はAIが書いていたが、創造性の部分はまだ完成していないという。

「出来上がった小説が良いものかどうかが、コンピューターは評価ができないため、人間が行っている。最終的にコンピューターが小説を書いたというためには、コンピューターが自分の作品を評価しなければならない。」とAIによる創造性の難しさを強調した。

漫画家AIプロジェクトが目指すところは、優れた創造性を持っている手塚治虫氏をAIで再現することだ。単なるBOTではなく、「綺麗だな」「美しいな」と感じられる人間のような“心”を持ったキャラクターの完成を目指していくという。

漫画「鉄腕アトム」の中で、アトムが人間のように「美しい」と感じることができず、落ち込むシーンが描かれていた。技術的には大変難しいことではあるが、“心”を持った鉄腕アトムを作ることは汎用人工知能を実現することにつながるという。「とても難しいが、いつかは実現できるはず」と松原氏は語る。

公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏


繋がりから新たなアイデアが生まれる

電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長 栗原聡氏(以下、栗原氏)は、クリエイティビティー力・イノベーション力の本質とは「点と点を結ぶ、つながりの発見による創造力である」と語る。

イノベーターは一般人に比べて創造力圏が広く、点と点がつながることで、大きなイノベーションを生み出みだしている。つまり、つながりが発端となり、新たなアイデアが生まれてくる。そのアイデアがまた別のものとつながり、別のアイデアが生まれてくる。アイデアの連鎖だ。

栗原氏はトークの途中で、「アトム ザ・ビギニング」のアニメを見せてくれた。アニメの中でトラックを運転しているロボット「A106(エーテンシックス)」は人の命を守るためにトラックを自らの判断で転倒させる。

「目的達成のための行動を自分で選択・判断できる能力」を「自律性」というが、人は自律性を持った高度なAI(高自律型AI)に対して「意識・心」を感じるという。自律型AIであれば手塚治虫氏の思考パターンに基づいてシナリオを生成することが可能となるのだ。

電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長 栗原聡氏


創造的AIはシンギュラリティの発火点

ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長/NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアチブ代表 山川宏氏(以下、山川氏)によると、「創造的AIはシンギュラリティの発火点」なのだという。現在のAIは人が設計しているが、未来ではAIが自分自身を設計するようになる。「創造的AIにより自己再帰的な知識発展の循環が起こる」と山川氏。

AIが難しいのは、創造性の評価だ。山川氏はR.A.Finke氏が1992年に発表した「創造的認知」について解説した。創造的な視覚的パターンの実験で、何らかの要素を組み合わせて、意味のある形に組み合わせるものだ。

どういうものかといえば、積み木を使って家や電車を作るようなものだと思えば、わかりやすいだろう。経験やデータを部品と考え、その部品を組み合わせて創造物の候補を作り、それを評価して創作物とする。これが創造性発揮の基本プロセスであるというのだ。

ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長/NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアチブ代表 山川宏氏


今回の特別講演を通して分かったことは、クリエイティブなAIを作るうえで重要な鍵となるのは、「汎用性」「自律性」「評価(エモーション)」の3つであり、その中で一番のネックとなるのが「評価」であるということ。

人は経験から、より良いものを判別し評価を下せるが、現在のAIには一部の例外を除いて評価することが難しい。しかし、創造的AIのように自ら学習する機能が進歩してくれば、AIでも様々なことの評価をすることが可能となるだろう。

現時点ではまだ手筭治虫氏のデジタルクローンを作り出すことはできない。しかし、手塚治虫氏が漫画を描く際に柱としていた「アイデア」「テクニック」「エモーション」「ジャッジメント」を、AIによる、汎用性、自律性、評価、そして、ロボティクス技術によって再現し、研究を進めて行くことは、これからのAI分野に大きな貢献をもたらすだろう。あきらめなければ、手筭治虫氏のデジタルクローンが新しい漫画を創造する日は、いつかやってくるはずだ。そんな日を楽しみにしたいと思わせる特別講演だった。

筆者:Tetsuji Sekiguchi Ph.D.