【スクリーン・コリア】最低賃金は月給5万円!? 韓国映画界の過酷すぎる“労働環境”の実態

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未来に対する不安を抱えている韓国の若者たちの今を、リアルに描いて大きな人気を得た韓国のドラマ『ホンスルナンヨ(一人酒する男女)』(2016)。

しかし、このドラマの演出を担った若手ディレクターは自殺を選んだ。ドラマの最終撮影の日に行方不明になり、それから5日後、死体で発見されたのだ。

彼の遺書には、理不尽な制作環境と会社組織への不満と悩みが綴られていた。上司が決定した下請業者への解約実務を担当して彼らを窮地に追わなければならない自分を、許せなかったのだろう。苦しかったのだろう。そこには韓国のドラマ制作現場で働く若者の苦しみが生々しく残っていた。

有望シナリオ作家の悲しすぎる孤独死

以前にはこんな悲劇もあった。

2011年、未来が期待されていた女性シナリオ作家が独り暮らししていた自分の部屋で死んでいたのだ。

彼女は、韓国でも選りすぐりの秀才たちが集まる国立・韓国芸術総合学校でその才能を認められた逸材だった。

もととも患っていた持病が直接な死亡原因だったが、残されたメモには「申し訳なくて迷いましたが、お米とキムチをもう少しだけ分けていただけないでしょうか。何度もすみません』と書かれていた。貧しい生活が彼女の死を早めたのだ。

こうした例でも示されたように、韓国のドラマ・映画の制作環境は酷しい。

ヒット作だけが潤う現実

近年、韓国のドラマと映画は量と質の両方で大きな発展を成し、国外からもうらやむ声が多い。だが、韓国の映像産業を支えているスタッフたちの現実は決してよいとは言えないのだ。
(参考記事:【スクリーン・コリア】韓国で映画化された日本の原作小説・ドラマの“本当の評判”と成績表)


韓国の映画産業、2011年に初めて総観客人数・1億人を超えて以降、2016年まで、5年連続で創刊客数1億人を突破する隆盛の最中にある。最近では1本の映画に1000万人以上の観客動員を記録することも珍しくもない。韓国の人口が5000万だということを考えると、驚くべき成績だ。

しかし、このような成果は一部の作品のみが味わっているというのが現状でもある。

韓国映画の興行ランキング上位10本が、韓国映画界全体の収入の中で占める比率は、2010年の52.1%から2015年には63.4%になるなど、10%ほど上昇している。この事実だけでもヒット作だけが潤う片寄り体質であるこがわかるが、その内容を詳しく見るともっとひどい。

映画スタッフの勤労環境実態調査で驚愕の数字

例えば2010年に公開された韓国映画は全部で142本。そのうち上位10本が映画業界全体収入の52.1%を占め、残りの48.9%を32本が分け合ったという。

2015年には257本の韓国映画が公開され、全体収入の63.4%が上位10本によるものだった。つまり、残りの36.6%を247本が分け合ったことになり、収入の片寄りは一層増したことになる。これはそのまま映画界で働くスタッフたちの収入にも影響を及ばす。

韓国の映画産業をサポートする機関である『韓国映画振興委員会』が行った「2016年映画スタッフの勤労環境実態調査」によると、韓国の映画スタッフが1年間で稼いだ年間所得は平均1,970万ウォン(約197万円)だった。

2012年(年収1,107万ウォン)、2014年(年収1,445万ウォン)より大幅増加したものだが、月平均にすると164万ウォン(約16万円)ほどである。韓国の4人家族基準の最低生活費用の月175万6千547ウォンを下回る金額だ。

撮影、照明、音響などのスタッフの年収とは?

職業別にみてみよう。

撮影や照明、音響など各分野の監督レベルは年3,601万ウォン(約360万円)。その監督たちの部下たちは実績順に一番手は2,161万ウォン(約216万円)、二番手は1,667万ウォン(約166万円)、三番手は1,042万ウォン(約104万円)、見習いは657万ウォン(約65万円)だった。見習いの場合は月54万ウォン(約5万4000円)をもらっていることになる。

法定最低賃金の時給6,030ウォン(約600円)以上をもらったスタッフの比率は平均75.9%。制作費80億ウォン(約8億円)以上の大作は88.8%だったが、10億ウォン(約1億円)以下の低予算映画の場合は56.1%にすぎなかった。

大作と低予算映画の差は、契約段階から如実に表れている。2015年から、韓国政府の映画振興基金の支援を受ける映画制作には、標準勤労契約書使用を義務づけられるようになったが、「標準勤労契約書を交わし経験がある」と答えたスタッフたちの比率は大作の場合は56.1%で、低予算映画は20.9%と極端に少なかった。

労働を提供してその代価をもらうことは、その内容を明確に示した契約書から始まる。それすら定着していないのだ。

韓国の映画産業が見た目では成長したように見えるが、その中身はまだまだ未熟だという証だろう。

給料が支払われるだけまだマシ!?

実際、今でも映画スタッフを募集するネット掲示板などでは、「申し訳ないがギャラはありません」と書かれたものをよく見かける。

最近まで各分野の見習いたちはギャラがないのが当たり前で、「仕事も学べて、メシまで食わせてやるからありがたく思え」という雰囲気が強かった。

数年前まではスタッフ個人とではなく、撮影、照明、音響、美術などチーム別に契約する形で雇用される場合が多く、そのチームのリーダ次第で待遇が決まっていたため、理不尽なことも多かった。

それでも映画が完成されて公開まで行き、少ない額でも人件費の精算が行われる場合はまだマシなほうで、撮影の途中で制作が取り止めになると時間だけ無駄にして、一銭ももらえないということもザラに起きるのが韓国映画界なのだ。

資金調達の失敗やキャスティングの変更などで、映画の制作が途中にで中断されることが頻繁に起きている韓国映画界の特徴上、このような理不尽な経験は映画スタッフなら誰もが一度や二度はあると言われている。

労働強度も強いが、それに相当する妥当な代価ももらえなかった。

「36時間寝ずにぶっ通しで働いたこともある」

映画スタッフは一日平均13時間以上働くという調査がある。週単位だと平均75時間だ。韓国の法定最大勤労時間とされている52時間を大きく上回る過酷な労働なのに、手当てなどを要求することも難しかった。

「現場では時間概念がなく、36時間寝ずにぶっ通しで働いたこともある」というスタッフも多く、決められていた終了時間を何時間もオーバしても残業手当などは一切ないというのは、常識だった。

それでも仕事が絶えなければ少しは生活が安定するだろうが、会社などに所属していないフリーのスタッフがほとんどの韓国ではそれも難しい話だ。

韓国の映画スタッフたちは作品別のプロジェクト単位で雇用される。映画制作方法の特徴上、相当な集中が要求されるため同時に複数作品に参加する“掛け持ち”は難しく、年間2本以上の作品に参加するのもできない。そのため相当な期間、失業状態になってしまう。

少し前の調査だが、「過去1年で失業期間があったか」という質問に、参加した映画スタッフの84.8%がそうだと答え、その平均期間は6.5ヶ月だった。映画スタッフのほとんどが1年の半分は失業状態であったのだ。

複雑なのは、それでも彼らの仕事への満足度が高いこと。仕事の満足度調査の結果、5点満点で3.5という数値が出たほどなのだ。韓国映画界は、スタッフたちの好きなことを仕事にできるという喜びを利用しているとしか言えない。

ドラマ業界は映画業界よりもシステム化!?

韓国では“情熱ペイ”という言葉がある。

情熱を持って働く人に、その情熱に相当する妥当な代価が払われていないというときに使う言葉だ。

好きなことをさせてあげるから、または仕事を学んでいる過程なのだから、低賃金でも耐えろと強要する雇用主への怒りも含めている。

特に映画をはじめ、文化産業全般でこのようなことが平然と行われている。テレビ制作でも同じことだ。

映画よりはずっとシステム化していて、労働に伴う報酬や環境も整っているように思われるが、実は映画界とあまり変わりがない。

確にドラマ制作現場は、映画業界に比べるとシステム化されてはいるが、下請業者による制作が多く、放送局は彼ら下請スタッフたちを苦しめる。

放送局は制作費の節約のため、下請会社たちに無理をさせるようになり、それを拒めない下請会社では結局、働くスタッフたちにその荷を背負わせなければならなくなる。
その結果、テレビスタッフたちも低賃金・長時間労働の地獄に落ちてしまうのだ。

放送局で働くスタッフにだって苦労はある。会社の命令に従うだけだとは言え、同じく映像を作ることが好きで、そのため一緒に仕事をしている仲間たちに無理をさせるのは酷なことだ。自殺した新米ディレクターも下請業者に高圧的で一方的な要求をしなければならないことに耐えられなかったのだろう。

見かねた政府の取り組みとは?

韓国政府では、映画界を含めて文化産業全般に蔓延している低賃金・長時間労働の慣行を根絶しようとはしている。

取り急ぎ提案されたのが、標準勤労契約書の導入だ。勤務条件をきちんと記した契約書を交わすことで、労働環境を改善し、適当な賃金の支払いが行われるように導くため推進されているこの提案は、少しずつだが定着している。

しかし、これだけでは限界がある。契約書が作られても雇用する側にそれを守る意志と能力がなければ意味がない。

だが、今の韓国映画の制作システムの下では、スタッフたちと直接に雇用契約を結ぶ側の映画制作社は何の力も持っていない。次回には韓国映画制作のシステムとその問題点について語りたい。

(文=朴 敏祐)