Palestinians walk through a wet street after the rain as the sun sets over the Al-Shatee refugee camp in Gaza City on February 13, 2017. (c)/MOHAMMED ABED


 いよいよ夏本番となってきた。夏の暑さの中を歩くビジネスマンを見ると、ある出来事を思い出す。

 昨年の夏、あるIT企業から電話営業を受け、後日、営業の方が弊社に訪問されることになった。数日後、営業の方とお会いすると、歳は20代前半、大学を卒業して間もない印象を受けた。

 ワイシャツはしわくちゃで第1ボタンを外し、ネクタイは緩く締め、上着は鞄の中に突っ込んでいた。初対面の人間と会うにはあまりにラフすぎる身だしなみだった。

 打ち合わせが始まり、サービスの説明を受け、いくつか疑問点が湧いたので私が質問をすると、彼は自社のサービスをあまり理解できておらず、焦るばかりで説明ができない。

 ビジネスマナーからサービスの説明まで、全くと言っていいほど教育ができていない。このような状態でお客様のもとに営業に出すこの会社の神経を疑った。

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熱意と誠実さは伝わってくるのだが・・・

 しかし、目の前にいる20代前半の彼は至らない点は多々あるが、それでも一生懸命な熱意と誠実さは伝わってきた。私はこのまま彼を放っておけないと思い、こう切り出した。

 「ところで〇〇さん、ワイシャツがしわくちゃだね。ネクタイも緩く締めすぎだし、上着は脱ぐにしても鞄の中に突っ込んでいるのが見えるのはまずいでしょう。初対面のお客様を前にさすがにそういった格好は失礼だと思うよ。そういうことはマナー研修とかで教わらないの?」

 そう言うと彼は、「すみません、うちの会社はマナー研修とかはないんです」。

 「サービスの内容もあまり理解できていないみたいだけど、そういったことは上司がしっかり教えてくれないの?」

 「すみません、パンフレットだけ渡されて後は自分で営業して来いって感じで。一応、近くにいた先輩には聞いたんですが、いまいちよく分かっていなくて」

 「ノルマはあるの?」

 「はい、あります」

 「そのノルマは厳しいの?」

 「結構、厳しいです」

 「何も教えてもらっていなくて、ノルマだけ厳しいのか。それは君もつらいよな」

 「ええ、でもまだまだ頑張らないといけなくて」

 彼は苦笑いしたが、「つらい」という本音が垣間見えるような暗い表情を見せた。

 「今日の説明はよく分からなかったけど、それでも気持ちは伝わってきた。君がサービスの内容を説明できていないのはサービスの内容をきちんと教えていない上司が悪い。君は君なりにがんばっていると思う。そうだろ?」

 そう言うと、彼は少し涙ぐんでしまった。それから彼の置かれている状況をゆっくりと聞いた。

 一通り話を聞いた後、これからは身だしなみをきちんと整え、上司に頼んできちんとサービスの説明を受けて理解するようにと伝えた。

再度、営業に現れたときには・・・

 彼は「こんなふうに言ってもらったのは初めてです。ありがとうございます!」と嬉しそうだった。後日、彼から連絡があり、また話を聞いてほしいとのことだった。

 そして、再度、彼が営業に来た際には、清潔感のある身だしなみで、サービスの内容もきちんと理解できており、分かりやすい説明をしてくれた。彼のこの変化が私は嬉しかった。そして、彼は私にこんなことを教えてくれた。

 「他社のサービスの内容も調べたんですが、御社の場合、うちのサービスより他社のサービスの方がいいと思います。なので、うちではなく他社で買われた方がいいですよ」

 彼は自分の営業成績よりも私の会社のメリットを優先して、そういった提案をしてくれた。その気持ちがまた嬉しかった。

 結局、彼の会社とは契約を交わすことはなかったが、彼とはフェイスブックで友達となり、1年経った今でもやり取りをしている。

 私は公認会計士、税理士として企業の数字を見る仕事をする一方で、経営心理士として経営やビジネスにおける人間心理を分析し、人や組織を活性化させるコンサルティングを行っている。

 そのコンサルティングの中で、部下に対する叱り方についてのご相談をよく受ける。相手を叱るということは決して簡単なことではない。叱り方を間違えると、嫌われて距離が遠くなるだけである。

 しかし、叱り方によっては相手と信頼関係を深めることもできる。どのような叱り方をするかでその後の人間関係は大きく変わる。

 ではどういった叱り方をすれば信頼関係を深める叱り方になるのか。いろいろな叱り方があると思うが、まず必要なことは相手に心を開いてもらうことである。

 いくら叱っても相手が心を開いていなければ面従腹背で、相手の行動に変化をもたらすことは難しい。しかし、相手が心を開いている状態で叱ることができれば、相手の行動に変化を起こすことができる。

相手の心を開く叱り方

 相手に心を開いてもらうために欠かせないのが、相手が置かれている状況に理解を示し、相手の気持ちに共感することである。

 叱る側から見れば相手の至らない点ばかりが目につくかもしれないが、明らかに怠けているような場合は別としても、相手には相手の事情があり、相手なりに努力もしている。

 そのため、まずは相手の置かれている状況と気持ちをしっかりと理解し、相手なりに努力している点は努力していることを認める。そういったコミュニケーションが次第に相手の心を開いていく。

 置かれている状況、気持ち、努力したこと、こういったことを聞き出すためには、そのための質問をすることが求められる。つまり、その質問を投げかけることが信頼関係を深める叱り方をするための第一歩となる。

 冒頭、初対面の人間に対してラフ過ぎる格好で商品の内容を理解できていない営業マンを叱った話をした。正直、私もイラッとしたが、入社間もない彼には彼なりの事情があり、いろいろとつらい立場なのだろうと感じた。

 そこで、そういった話を引き出すための質問をし、彼の置かれている状況や彼の気持ちを聞き出して理解し、彼なりに努力している点を認めたうえで、改めるべき点を伝えた。

 結果として彼はそういった点を改め、自分の営業成績よりも私の会社のメリットを優先してくれる対応をしてくれた。そういった対応をしてくれた彼と私の間には少なからずとも信頼関係が存在していたと感じている。

 私は叱り方のご相談を受けた際には上記のように、相手の立場と気持ちを理解し、相手なりの努力を認めてから叱ることを薦めている。ほとんどのクライアントにおいてこういった叱り方をすることで部下の動きが変わったという報告をいただいている。

 また、私は経営心理士講座という人間の心の仕組みに基づいた経営を学ぶ講座を主催しているが、その受講生の方々からもこういった報告をたくさんいただいている。

 これらの報告の多さからも改めてこの叱り方の重要性を感じている。もちろんガツンと言わなければならない時もある。

「怒り」の管理はできているか

 しかし、その場合でも、相手の置かれている立場と気持ちを理解し、そして相手の努力を認めることができるかどうかで、ガツンと言った後の相手の行動に大きな差が生じる。

 そういった叱り方をする上で重要になるのが「怒り」という感情の管理である。怒りの感情を管理できないと、ついつい相手に怒りをぶつけるだけのコミュニケーションになる。

 そもそも「叱る」というのは相手のためを思って、相手のために行うコミュニケーションであり、自分の怒りのはけ口を求めて相手に怒りをぶつけることは「叱る」とはほど遠い「怒る」というコミュニケーションである。

 怒らずに叱ることができるようにするために有効なのが、「今、自分は怒っていないか? 叱れているか?」という自問自答である。

 この自問自答によって、自らの感情を客観的に捉えるきっかけが得られる。そのきっかけを得ることで、怒りの感情に振り回されることなく、相手のために叱ることができる確率は上がる。

 誰かを叱ることは、叱る側も大きなエネルギーを必要とする。そのエネルギーは相手のためを思う気持ちによって生まれる。

 相手のためを思ってそれだけのエネルギーを使ったにもかかわらず、相手から嫌われたのでは叱った方も報われない。そうならないように、叱る前にはまず相手の置かれた立場と気持ちを理解し、相手なりの努力を認めるコミュニケーションをとってみてほしい。

 そのコミュニケーションは叱った後の相手との関係を大きく変える力を持つ。

筆者:藤田 耕司